映画評「水深ゼロメートルから」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり
「アルプススタンドのはしの方」に続く高校演劇の映画化第2弾。徳島市立高校演劇部の作品で、今回の監督は山下敦弘。
徳島市立高校。体育授業の水泳を休んだことから、女生徒ミク(仲吉玲亜)とココロ(濱尾咲綺)は、補習として水のないプールにたまった砂をすくって綺麗にする仕事を、体育教師・山本(さとうほなみ)に命じられる。
最初にプールにやって来たミクは阿波踊りの男踊りをこっそり練習している。それを眺めていた水泳部部長チヅル(清田みくり)は泳ぎのイメージ・トレーニングをし始める。二人は互いに見るなと主張する。
というところから始まり、そこへ校則違反の化粧に余念のないココロが加わるが、当然砂掃除などする気はない。そこへ水泳部の前部長ユイ(花岡すみれ)が現れ、言われもしないのに掃除の手伝いを始める。
主題は男女の対立である。基本的にフェミニズム的なものではないが、勿論無縁でもない。
男女に差などなく男を意識しないから男踊りを踊るのだとするミクに対して、男と対等になるには女を武器にしなければならないと考えるココロは、“ブスは化粧しなくても良いから楽だ” などと言って挑発する。しかし、この論争はややココロが優勢で、そこに本作の通奏低音とでも言うべき “他者に対する意識” という問題を絡めて来る。
この辺りは哲学的でもあって案外晦渋だが、ミクの本音は単なる他人ではなくやはり男性に対する意識なのだというムードを漂わせている。チヅルが専門の水泳で負けた野球部スラッガーに対して集めた砂をグラウンドに撒けて “負けないぞ” と宣言するのは、意識革命の結果である。
ココロはなかなかの理論家で、校則絡みで教師に喰ってかかると、女教師はまともに反論できない。
かくして大人対子供の対立関係の要素も出て来るが、これに関しては大きく膨らませず、教師が自分達に気を遣って補習を夏休みの今にしてくれたのではないかと女生徒たちが理解を示して帳尻を合わせている。彼女らのこの理解と教師の親友との電話での会話を照らし合わせると、大人社会の理不尽さに屈しているように見える教師の女生徒に近い真情が見えて、ちょっとぐっと来る。
「アルプススタンドのはしの方」の方がお話の構図が解りやすくて映画向きという感じがするが、暫くプール外の情景を映さずにおき、突然プールの先に見える野球部員を見せるロングショットなどは、山下監督がプロらしい感覚を発揮していると思う。カメラを移動していき様子を伺っていたユイがフレームインするのは、かなりの確率で学園物の傑作「櫻の園」(1990年)を意識している。
恐らく世評よりは良い映画だ。
高校生、畏るべし。
2024年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり
「アルプススタンドのはしの方」に続く高校演劇の映画化第2弾。徳島市立高校演劇部の作品で、今回の監督は山下敦弘。
徳島市立高校。体育授業の水泳を休んだことから、女生徒ミク(仲吉玲亜)とココロ(濱尾咲綺)は、補習として水のないプールにたまった砂をすくって綺麗にする仕事を、体育教師・山本(さとうほなみ)に命じられる。
最初にプールにやって来たミクは阿波踊りの男踊りをこっそり練習している。それを眺めていた水泳部部長チヅル(清田みくり)は泳ぎのイメージ・トレーニングをし始める。二人は互いに見るなと主張する。
というところから始まり、そこへ校則違反の化粧に余念のないココロが加わるが、当然砂掃除などする気はない。そこへ水泳部の前部長ユイ(花岡すみれ)が現れ、言われもしないのに掃除の手伝いを始める。
主題は男女の対立である。基本的にフェミニズム的なものではないが、勿論無縁でもない。
男女に差などなく男を意識しないから男踊りを踊るのだとするミクに対して、男と対等になるには女を武器にしなければならないと考えるココロは、“ブスは化粧しなくても良いから楽だ” などと言って挑発する。しかし、この論争はややココロが優勢で、そこに本作の通奏低音とでも言うべき “他者に対する意識” という問題を絡めて来る。
この辺りは哲学的でもあって案外晦渋だが、ミクの本音は単なる他人ではなくやはり男性に対する意識なのだというムードを漂わせている。チヅルが専門の水泳で負けた野球部スラッガーに対して集めた砂をグラウンドに撒けて “負けないぞ” と宣言するのは、意識革命の結果である。
ココロはなかなかの理論家で、校則絡みで教師に喰ってかかると、女教師はまともに反論できない。
かくして大人対子供の対立関係の要素も出て来るが、これに関しては大きく膨らませず、教師が自分達に気を遣って補習を夏休みの今にしてくれたのではないかと女生徒たちが理解を示して帳尻を合わせている。彼女らのこの理解と教師の親友との電話での会話を照らし合わせると、大人社会の理不尽さに屈しているように見える教師の女生徒に近い真情が見えて、ちょっとぐっと来る。
「アルプススタンドのはしの方」の方がお話の構図が解りやすくて映画向きという感じがするが、暫くプール外の情景を映さずにおき、突然プールの先に見える野球部員を見せるロングショットなどは、山下監督がプロらしい感覚を発揮していると思う。カメラを移動していき様子を伺っていたユイがフレームインするのは、かなりの確率で学園物の傑作「櫻の園」(1990年)を意識している。
恐らく世評よりは良い映画だ。
高校生、畏るべし。
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