映画評「幸福なる種族」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1944年イギリス映画 監督デーヴィッド・リーン
ネタバレあり

デーヴィッド・リーンは僕の好きな監督ベスト10に入って来る監督だから、大概の作品は観ている。これも1980年代に一度観ているので再鑑賞だ。

戦時中1944年製作なのにカラー映画というのだからビックリ。気分は成瀬己喜男か小津安二郎かという家族映画である。

1919年に復員したフランク・ギボンズ(ロバート・ニュートン)が妻エセル(シリア・ジョンスン)、妻の母、自分の妹、三人の子供たちとロンドン郊外の家に越して来る。偶然にも隣家に一足先に友人ボブ・ミッチェル(スタンリー・ホロウェイ)が越してきていて交流が再開される。
 幾何かの年を経て年頃になったボブの息子ビリー(ジョン・ミルズ)と一家の姉娘クィーニー(ケイ・ウォルシュ)が親しくなるが、水兵希望の彼に対し、平凡であることが嫌いなクィーニーは満足できず、結局妻のいる男とフランスに渡ってしまう。あるいは息子レグが妻と共に交通事故死するという悲劇にも遭遇する。
 やがて、ビリーが念願を果たしてどこかで再会したクィーニーを妻として連れて夫婦の許にやって来る。水兵ビリーは頻繁に海外へ出かけるが、今度はクィーニーも連れて行く。
 若夫婦の生まれたばかりの赤ん坊を預かるギボンズ夫妻は住み慣れた住居を後にする。時は1939年である。

というホームドラマで、まさに20年の大戦間を背景にしたことに意味があると思われる。38年から39年にかけてチェンバレン首相などの話題を出しつつも直接的にはそれらしきムードを殆ど漂わしていないものの、英国映画界が第二次大戦末期に示した一種の国威発揚映画ではないか、ということである。大半がモノクロ映画であった時代にカラーにしたのもその為ではないか。本作のプレミア公開(1944年5月)より11か月後にナチス・ドイツは敗れ去っている。

原作者が強い主張の力んだ内容が嫌いなノエル・カワードだから、所謂国威発揚的内容ではなく、戦争とは直接関係ない平凡な人生における機微を淡々と扱い、戦争での死者を一人も出さない作品に仕立てられている。平和(平凡)が一番という形で、抑制的に戦争の苦難に堪える国民を励まそうとしたように僕には思えるのだ。

難点は両親子の配役で、実年齢が近すぎて、とりわけ序盤にちょいと解りにくいところが出て来る。

確信はないのだが、種族(breed)とは英国国民全体のことのように思いましたね。

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