映画評「ルックバック」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・押山清高
ネタバレあり
大分以前から映画雑誌を買わなくなり話題も追いかけず、新作の評判など知らないことが多いので、時々戴ける常連さんの推薦は有難い。ほぼその推薦に価する秀作・傑作が多く益々有難い。
本作は藤本タツキなる漫画家によるコミックのアニメ化で、プライムビデオに出た次の日に紹介された。高い世評に全く異論なしで、無駄を排して58分の短尺にまとめたところを大いに買いたい。
小学4年生の女生徒・藤野(声:河合優実)が学校新聞の4コマ漫画で人気を博して鼻高々だが、ある時から不登校女生徒・京本(声:吉田美月喜)の4コマ漫画が並置されることになり、そのリアルな絵に自信を失う。しかし、これに刺激を受けて励んだ結果得るところがある。
2年後藤野は卒業証書を京本に届ける役目を負い、その際に彼女の4コマ漫画によって部屋から出て来た京本の賞賛を得、二人は共同で漫画を描き上げ、出版社から高い評価を得て、中学生から高校の間に7つもの作品を発表する。
しかし、漫画以外の美術をやりたい京本はコンビを解消して山形の美術大学に進み、藤野はプロの漫画家になってヒット作を生む。が、ある時不審者の強硬により美術大学の学生が多数死傷する事件が起き、京本が死んだことを知った藤野は、自分が彼女を部屋から出させたことが彼女を死なせたのだと絶望感に苛まれる。
そんな話なのだが、この後京本の家を訪れた藤野が破った紙切れを拾った京本が別の人生を歩むパラレル・ワールドが暫く披露される。こうした「バタフライ・エフェクト」な場面は、しかし、類似内容の多くの映画のようにファンタジー的現実世界ではなく、彼女の脳内世界である。
夢想から現実に戻った藤野は、しかしその結果自得するところがあり、再び漫画創作に励むのである。
過去の作品の引用が多々あるようだが、僕が頭に浮かべるのは、シャロン・テート事件を最初からなかったことにした「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」との類似である。あの映画は作品内では “たられば” というスタンスを取っていないのではあるが。
現実からの明らかすぎる引用は京都アニメ事件。これは類似というより襲撃方法以外はほぼそのもので、京本という名前は京都から来ているような気もする。
といった具合に後味はちょっと苦いが、紙切れを介して二つの世界が分けられるアイデアが良く、表現はナイーヴにして鮮烈。
具体的には、序盤藤野が京本の絵にショックを受けた感覚を、カットを切ってズーム・アウトする手法(実写に比べてアニメでは多い手法で、専門用語があった気がするが思い出せない)で表現したり、街に繰り出す二人を短めのカットの積み重ねでスピーディーに見せるシークエンスが印象深い。
ショックと言えば、昨日のプレミア12のキューバ戦で投手の送球エラーで同点になった瞬間にがっかりしてTVを切った。パソコンもショックを受けたのか、画面がフリーズしてしまった(本当ですよ)。今のOSでは作業中にフリーズはしないのだが。
2024年日本映画 監督・押山清高
ネタバレあり
大分以前から映画雑誌を買わなくなり話題も追いかけず、新作の評判など知らないことが多いので、時々戴ける常連さんの推薦は有難い。ほぼその推薦に価する秀作・傑作が多く益々有難い。
本作は藤本タツキなる漫画家によるコミックのアニメ化で、プライムビデオに出た次の日に紹介された。高い世評に全く異論なしで、無駄を排して58分の短尺にまとめたところを大いに買いたい。
小学4年生の女生徒・藤野(声:河合優実)が学校新聞の4コマ漫画で人気を博して鼻高々だが、ある時から不登校女生徒・京本(声:吉田美月喜)の4コマ漫画が並置されることになり、そのリアルな絵に自信を失う。しかし、これに刺激を受けて励んだ結果得るところがある。
2年後藤野は卒業証書を京本に届ける役目を負い、その際に彼女の4コマ漫画によって部屋から出て来た京本の賞賛を得、二人は共同で漫画を描き上げ、出版社から高い評価を得て、中学生から高校の間に7つもの作品を発表する。
しかし、漫画以外の美術をやりたい京本はコンビを解消して山形の美術大学に進み、藤野はプロの漫画家になってヒット作を生む。が、ある時不審者の強硬により美術大学の学生が多数死傷する事件が起き、京本が死んだことを知った藤野は、自分が彼女を部屋から出させたことが彼女を死なせたのだと絶望感に苛まれる。
そんな話なのだが、この後京本の家を訪れた藤野が破った紙切れを拾った京本が別の人生を歩むパラレル・ワールドが暫く披露される。こうした「バタフライ・エフェクト」な場面は、しかし、類似内容の多くの映画のようにファンタジー的現実世界ではなく、彼女の脳内世界である。
夢想から現実に戻った藤野は、しかしその結果自得するところがあり、再び漫画創作に励むのである。
過去の作品の引用が多々あるようだが、僕が頭に浮かべるのは、シャロン・テート事件を最初からなかったことにした「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」との類似である。あの映画は作品内では “たられば” というスタンスを取っていないのではあるが。
現実からの明らかすぎる引用は京都アニメ事件。これは類似というより襲撃方法以外はほぼそのもので、京本という名前は京都から来ているような気もする。
といった具合に後味はちょっと苦いが、紙切れを介して二つの世界が分けられるアイデアが良く、表現はナイーヴにして鮮烈。
具体的には、序盤藤野が京本の絵にショックを受けた感覚を、カットを切ってズーム・アウトする手法(実写に比べてアニメでは多い手法で、専門用語があった気がするが思い出せない)で表現したり、街に繰り出す二人を短めのカットの積み重ねでスピーディーに見せるシークエンスが印象深い。
ショックと言えば、昨日のプレミア12のキューバ戦で投手の送球エラーで同点になった瞬間にがっかりしてTVを切った。パソコンもショックを受けたのか、画面がフリーズしてしまった(本当ですよ)。今のOSでは作業中にフリーズはしないのだが。
この記事へのコメント
これは本当に素晴らしい作品なので、高評価は嬉しいです!
こうして内容を思い出しても泣けてきます。
二人が〝出会わない〟もう一つのパターンを描き、結局は〝出会う〟という流れを見た時、「スライディング・ドア」が想起されました。
個々の要素は他の作品で見られるものでも、扱いが巧く唸りました。
何より描写が鮮やかで、こうした青春物語は、今や実写以上にアニメのほうが凄いと感じますねえ。
シャロン・テート事件も京都アニメーションの事件も、本当にあってはならない悲劇ですね。
パクっただのなんだの、本当に馬鹿馬鹿しいです。
>高評価は嬉しいです!
いや、映画にふさわしいような良いレヴューが書けませんでした。
良い作品は案外書きにくいものです^^;
>「スライディング・ドア」が想起されました。
僕も考えました。あれは“たられば”そのものがテーマでしたね。
>扱いが巧く唸りました。
扱いの良し悪しは映画を評する上で大事な考えですね。
これをよく理解していない人が結構います。
>こうした青春物語は、今や実写以上にアニメのほうが凄いと感じますねえ。
これは実感しますねえ。実写の監督は、冒険をせず、型から抜けられない。
>パクっただのなんだの、本当に馬鹿馬鹿しいです。
自分の能力が認められないと、考えが暴走する人がいるんですね。
https://blog.goo.ne.jp/onscreen/e/0c08d0b6544b5ef97e9554a37556bfc5
>インターステラー的展開
「インターステラー」は良い作品と思いましたが、余りに観すぎていることと年齢の為に余り思い出せません。とほほ。