映画評「ポトフ 美食家と料理家」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年フランス=ベルギー合作映画 監督トライ・アン・ユン
ネタバレあり
最近日本のTV番組を見ていると、グルメというフランスからの外来語が料理そのものに使われていることによく遭遇する。
本来はこの映画の邦題のサブタイトルにある美食家もしくは食通を指すわけだから、グルメがグルメを食べている共食い状態になっているわけだ。冗談はともかく、セレブと言い、日本人は外来語の意味を好きなように拡大解釈して定着させてしまう。セレブの方が問題としては大きい。
19世紀後半、産業革命も終え新時代が始まった頃のフランス。美食家ドダン・ブーファン(ブノワ・マジメル)は、自らレシピを案出し、それを女性料理家ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)に作って貰って満足するという日々を過ごしている。
彼は某皇太子の晩さん会の豪華なだけの料理の羅列にうんざりし、逆に皇太子を招待した際には素朴ながら究極のポトフ(フランス鍋料理)を出そうと考えるが、病弱なウージェニーはその度に倒れて結局完成を見ぬまま彼女は帰らぬ人となる。
ウージェニーは再三再四の彼の求婚を拒み続けてき、漸くそれを受け入れて間もない頃の死である。彼は彼女が常に料理人でありたかったことに思い至る。
この幕切れが断然素晴らしい。恐らくこのラスト・ショットに出て来る彼女は主人公の心の中にあるが、そこに至るまでの見せ方が実に素晴らしい。
主人公が、恐らく彼女の後継者になるであろう農民の娘ポーリーヌ(ボニー・シャニョー=ラヴォワール)を連れて美食家仲間と、新たに発見された素晴らしい料理人に会いに出かける。カメラはその様子を家の間口から捉えた後、ゆっくり部屋の中をぐるぐる舐めて2回目に入ったところで画面外にヒロインの声が入って来て、やがて二人が座って話す様子がフレームインして止まり、彼女がドダンの “君は料理人と思っている” と言う言葉に満足して幕切れ。
先述したように、この彼女は彼の心象風景であるはずで、恋愛関係にあると言って良い二人の関係の機微を鮮やかに浮かび上がらせ、その余韻にじーんとしてしまう。
1980年代以降の映画ではこの手はそこそこある見せ方だが、揺曳する感じが魅惑的なのである。
常にカメラをゆっくり動かしている(主にパン)監督は誰かと思ったら、ベトナム出身のトライ・アン・ユンであった。納得。この監督としたら内容的に解りやすい。
子供の頃貧乏だったので、料理には余り関心がない。こう食べ物の物価が高くなると、そういう性格は良い方に機能するが、米の価格の高さには驚かされる。同じ米が去年より60%くらい高い。一時の米不足に乗じて上がった価格が流通の安定した今も下がらない。光熱費も高いから以前より高いのは理解しているも、ここまで高いままなのは尋常ではない。相対的に安い麦系に食が移り、すると麦を輸入に頼る我が国としては有事があると困ったことになりかねない。
2022年フランス=ベルギー合作映画 監督トライ・アン・ユン
ネタバレあり
最近日本のTV番組を見ていると、グルメというフランスからの外来語が料理そのものに使われていることによく遭遇する。
本来はこの映画の邦題のサブタイトルにある美食家もしくは食通を指すわけだから、グルメがグルメを食べている共食い状態になっているわけだ。冗談はともかく、セレブと言い、日本人は外来語の意味を好きなように拡大解釈して定着させてしまう。セレブの方が問題としては大きい。
19世紀後半、産業革命も終え新時代が始まった頃のフランス。美食家ドダン・ブーファン(ブノワ・マジメル)は、自らレシピを案出し、それを女性料理家ウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)に作って貰って満足するという日々を過ごしている。
彼は某皇太子の晩さん会の豪華なだけの料理の羅列にうんざりし、逆に皇太子を招待した際には素朴ながら究極のポトフ(フランス鍋料理)を出そうと考えるが、病弱なウージェニーはその度に倒れて結局完成を見ぬまま彼女は帰らぬ人となる。
ウージェニーは再三再四の彼の求婚を拒み続けてき、漸くそれを受け入れて間もない頃の死である。彼は彼女が常に料理人でありたかったことに思い至る。
この幕切れが断然素晴らしい。恐らくこのラスト・ショットに出て来る彼女は主人公の心の中にあるが、そこに至るまでの見せ方が実に素晴らしい。
主人公が、恐らく彼女の後継者になるであろう農民の娘ポーリーヌ(ボニー・シャニョー=ラヴォワール)を連れて美食家仲間と、新たに発見された素晴らしい料理人に会いに出かける。カメラはその様子を家の間口から捉えた後、ゆっくり部屋の中をぐるぐる舐めて2回目に入ったところで画面外にヒロインの声が入って来て、やがて二人が座って話す様子がフレームインして止まり、彼女がドダンの “君は料理人と思っている” と言う言葉に満足して幕切れ。
先述したように、この彼女は彼の心象風景であるはずで、恋愛関係にあると言って良い二人の関係の機微を鮮やかに浮かび上がらせ、その余韻にじーんとしてしまう。
1980年代以降の映画ではこの手はそこそこある見せ方だが、揺曳する感じが魅惑的なのである。
常にカメラをゆっくり動かしている(主にパン)監督は誰かと思ったら、ベトナム出身のトライ・アン・ユンであった。納得。この監督としたら内容的に解りやすい。
子供の頃貧乏だったので、料理には余り関心がない。こう食べ物の物価が高くなると、そういう性格は良い方に機能するが、米の価格の高さには驚かされる。同じ米が去年より60%くらい高い。一時の米不足に乗じて上がった価格が流通の安定した今も下がらない。光熱費も高いから以前より高いのは理解しているも、ここまで高いままなのは尋常ではない。相対的に安い麦系に食が移り、すると麦を輸入に頼る我が国としては有事があると困ったことになりかねない。
この記事へのコメント
この監督の「青いパパイヤの香り」は庭先でしゃがんで料理する姿から滲み出る瑞々しい官能が印象的でした。
それに比べると私は本作からはあまり匂い立つものは感じませんでしたが、映像からはルノワールやフェルメールの絵画を思い起こしました。
最後の台詞ですが「私は貴方の料理人? それとも妻?」の問いかけに「君は料理人だ」と答えていました。(細かい事ですが美食家はマジメル君なので…)
マジメル君、すヵり貫禄のある中年になってしまいましたね。「ピアニスト」の頃の方が魅力的だったなぁ… これ以上ドパルデュー化しない事を願います。
>「君は料理人だ」と答えていました。
ありゃりゃ。
これは記憶違いではなく、書く時のミステイクですね。
論より証拠で、それより数行上で
“彼は彼女が常に料理人でありたかったことに思い至る”と書いています。
最近益々集中し切れていないですねえ。
こういう指摘は助かりますよ^^
>マジメル君、すヵり貫禄のある中年になってしまいましたね。
誰かと思いました(@_@)