映画評「カラーパープル」(2023年版)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年アメリカ映画 監督ブリッツ・バザウーレ
ネタバレあり

アリス・ウォーカーの同名小説をスティーヴン・スピルバーグが1985年に映画化した。それをマーシャ・ノーマンがミュージカル舞台化したものを映画化した作品。一々西暦が示されるが、原作に年の表記が一切ないので、明らかにスピルバーグの映画版を基にしていることが理解できる次第。

1909年の米国南部で14歳の黒人少女セリー(成人後ファンテイジア・バリーノ)が、父(実は訳あり)との間に出来た二人の子を奪われた後、妹ネティを貰いに来た黒人ミスター(コールマン・ドミンゴ)に押し付けられ、以降40年余り下女のようにこき使われた後、ミスターが崇める天真爛漫な歌手シュグ(タラジ・P・ヘンスン)に誘われて家を出、その後死んだ父から相続(実は “父” は実父ではなくセリーとネティに最初から権利があった)した店を元に仕立て屋を始める。

この後40年も会えなかった妹ネティと実の子供二人と感動的な再会をもって大団円を迎えるわけで、スピルバーグ版の映画評を基に僕も梗概をリメイクした次第。

ミュージカルと一般ドラマという違いを別にすると二作の間に大きな変更がないように思う(記憶は当てにならない)が、時間のかかる歌を相当数入れているのに上映時間が13分も短くなっているのだから、かなり慌ただしい印象が残る。

本作は社会派としては、黒人差別以上に、男性による女性差別を浮かび上がらせる構造で、義理の息子のじゃじゃ馬妻ソフィア(ダニエル・ブルックス)の苛酷な経験を通して、二つの差別とを同時に浮かび上がらせていくが、5か月前に読んだばかりの原作に比べ、省きすぎでどうもインパクトが弱く、為に刑務所や市長宅での経験で去勢されたソフィアが復活する場面もさほど胸を打たない。

原作では主題であり、スピルバーグ版では底に流れていたヒロインの妹に対する思いも、ミュージカルの賑やかさに希釈されて薄味。
 そして、映画として良いか悪いかはともかく、ヒロインが神への依拠を脱して自己に目覚めることをもう一つの主題としていた原作に対し、本作はゴスペル的に終わる。原作ファンは何だかなあと思うだろう。

ヒロインやソフィアといった女性たちが若い頃から太っていることには、少女時代からの貧困を(に)伴う悲劇性を考えると、違和感を覚える。

人間は振り子のように揺れて、少しずつ進歩していくものだが、今は振り子が昔風に戻っている。変化は極端に進むと極端に戻る。これがよく理解できる21最初の四半世紀。

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