映画評「四月になれば彼女は」

☆☆★(5点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・山田智和
ネタバレあり

昭和20年代後半から30年代生まれの方は、この題名にはサイモン&ガーファンクルを思い出さざるを得ない。名曲 April Come She Will の邦題である。一見直訳であるが、押韻の為に語順が変えられてい、通常の文章であれば April She Will Come なので「四月彼女は来るだろう」が直訳である。しかし、この邦題はイメージを膨らませて実に日本人の琴線を打つ。

プロデューサーでもある原作者川村元気がこの邦題を意識したのは100%間違いないわけで、あの歌の中でヒロインは死んでしまう(にちがいない)ので内容にもインスパイアされた可能性がなくはない。

心療内科の男性医師佐藤健が、獣医の恋人長澤まさみと結婚を決めた直後に、彼女は姿を消す。その頃彼は、10年程前大学時代に交際してかなり昵懇の仲になっていた写真部後輩の美人森七菜から手紙を数通受け取っている。出し先はかつて二人で行こうとしていたウユニ塩湖、チェコ、アイスランドである。二人が関係を途絶させたのは彼女の父親が親娘水入らずの生活に拘り、彼女がそれを乗り越えられなかったからである。
 佐藤医師とまさみ獣医が昵懇になったのは元来彼女が患者となったからだが、二人の関係は不明瞭な悩みを抱える同病相憐れむ仲というのが実際。

この辺りまでは、色々と登場人物が考えすぎる傾向があるものの、それなりに人間なるものを考えたくなる進行ぶりで悪くない。
 愛を失いたくなくば愛を得ないことという考えは実に観念的。二人ともその観念に呪縛される人物で、為に恋愛に消極的である。主人公にとっては七菜ちゃんが逃げた時に追わなかったという後悔があり、それが現在の悩みの理由の一つであろう。

それはともかく、この後から映画は妙に作り物めいてくる。
 何のきっかけもなく唐突に時が巻き戻され、まさみ女医が彼の元カノの手紙を読んで、これまた彼女と共鳴し合うものを覚えて出奔し、難病を患った元カノが過ごすホスピスで勤め始めたことが判り、主人公が七菜ちゃんの逝去直後に訪れたホスピスで代表に接客されている時隣室で彼女が働いていたことを後段で示す辺り、話の為の話という感じが強くて大分興醒める。

それでもこの間の「サイレントラブ」よりは結構がずっと整っているとは思う。
 二人の恋人が再会を果たすのは、果せるかな、彼女が務めているホスピスの前に拡がる海辺である。迂回した結果二人の紐帯はきっと強くなるだろう、というお話と言うべし。

「四月になれば彼女は」を収めたS&Gのアルバム『サウンド・オブ・サイレンス』は【オカピーの採点表】で紹介済み。

この記事へのコメント

モカ
2024年12月04日 19:30
こんにちは。

☆April Come she will

  初めて聴いてからもう半世紀以上も経ってしまいましたが、未だに色褪せない名曲ですね。 この感じはスキャボロフェアとかと良く似た古いイングランド風な歌詞なので、イングランドに歌を探しに行った時に見つけた曲が元になっているかも?と思い調べましたら、やっぱり! ありました!
19世紀のイギリスの詩人Jane Taylor のCuckoo という詩に曲をつけたFriday Afternoons にインスパイアされたようです。
そういえばポールサイモンは民謡ハンターでしたね。

恐れ多くもこんな世界遺産級のタイトルを借用するとは余程自信があるのか、身の程知らずの恥知らずか… (笑) 村上春樹の悪しき影響でしょうかね。
オカピー
2024年12月05日 09:27
モカさん、こんにちは。

よく調べましたねえ。

なるほど、カッコウの視点で書かれたと理解すると、fly などの意味もストレートに解りますね。
勿論、S&Gの曲としては、人間の女性の神秘的な行動と捉えた方がじーんとするわけですが。

>村上春樹の悪しき影響でしょうかね。

あはは、そういう風に考えることも出来ますね!