映画評「シェラ・デ・コブレの幽霊」
☆☆☆(6点/10点満点中)
1964年アメリカ映画 監督ジョゼフ・ステファノ
ネタバレあり
一部で伝説のホラー映画とされているようで、有難くも常連のモカさんからプライム・ビデオにあると紹介された。映画ファンの末席にいながら僕はその存在すら知らなかった作品だから、色々な意味で有難い。
この作品が騒がれているのは世界的に未公開であるからで、日本では1967年に日曜洋画劇場のホラー映画2本立ての最初の一本として紹介されたとある。フィルム返還後は長らく幻の作品となってたらしい。
「サイコ」(1960年)の脚色を担当したジョセフ・ステファノの唯一の監督作品(兼脚本)で、「サイコ」のせいであろうか、アルフレッド・ヒッチコックの影響大である。
まず序盤旧館の前にある門扉の登場からして「レベッカ」(1940年)のムードが濃厚、ましてメキシコの旧家モンドール家に盲目の当主ヘンリー(トム・シムコックス)が出張から帰って来た妻ヴィヴィア(ダイアン・ベイカー)を迎えた後に紹介される新しい女中パウリナを演じるのが「レベッカ」の怖い女中頭ダンヴァース夫人に扮したジュディス・アンダースンなのだから、この辺は「レベッカ」としか見えない。
かように前半は「レベッカ」もどきに進む。
本作の主人公は霊退治のようなこともしている建築家オライオン(マーティン・ランドー)で、暫くは京極夏彦の京極堂のような立場でマジック的な細工があるとして幽霊騒ぎを解明して来たらしいことが説明される。
彼がここに現れたのは、当主が大分前に亡くなった母親から電話がかかるようになってきたと思い込んでいるからで、棺の傍に電話を置くなどディクスン・カーみたいな神秘ミステリーの要素もある。
しかし、ポルターガイストが起き、現実主義的な言動をとって来たパウリナが車に閉じ込められ崖から落とされそうになるに至って、オライオンも京極堂の立場を捨てざるを得なくなる一方、パウリナがかつてシェラ・デ・コブレ教会で幽霊騒ぎをでっち上げた張本人であること、でっち上げを追及した女教師を死に至らしめ、そしてヴィヴィアが彼女の娘であることが判って来る。
ヴィヴィアがパウリナを初めて観た時に恐怖に慄いたのは、不気味な家政婦だったからではなく、縁を切ったはずの母親を見たからである。観客にとってはミスリードの場面であるが、ちゃんと辻褄が合っている。
謎の電話はパウリナの細工だが、ここに並行して進んできたミステリー要素がもう一方のホラー要素に吸収されて消失すると、無念に死んだ女教師の霊が禍を引き起こす。母親と彼女に支配されるヴィヴィアとの関係を含めて終盤は「サイコ」ムードが濃厚になり、やっちょるなと嬉しくなる。
当時怖すぎて公開できなかったという伝説は、文字通り【幽霊の正体見たり枯れ尾花】 の伝で、さほど怖くない。
しかし、後に実績を残す撮影監督コンラッド・L・ホールのカメラは【栴檀は双葉より芳し】の感あり、上述の「レベッカ」ムードは言わずもがな、砂浜のショットではイングマル・ベルイマン「第七の封印」を思い出させたりもする。
音楽はヒッチコック映画でお馴染みバーナード・ハーマン(「めまい」「サイコ」など)を真似た感じ。
実は、子供の頃TVでホラー映画2本立てをやったという記憶はあり、その1本のミイラ映画だけを観たことはある。年が2年くらい合わないと思うのだが、はて?
1964年アメリカ映画 監督ジョゼフ・ステファノ
ネタバレあり
一部で伝説のホラー映画とされているようで、有難くも常連のモカさんからプライム・ビデオにあると紹介された。映画ファンの末席にいながら僕はその存在すら知らなかった作品だから、色々な意味で有難い。
この作品が騒がれているのは世界的に未公開であるからで、日本では1967年に日曜洋画劇場のホラー映画2本立ての最初の一本として紹介されたとある。フィルム返還後は長らく幻の作品となってたらしい。
「サイコ」(1960年)の脚色を担当したジョセフ・ステファノの唯一の監督作品(兼脚本)で、「サイコ」のせいであろうか、アルフレッド・ヒッチコックの影響大である。
まず序盤旧館の前にある門扉の登場からして「レベッカ」(1940年)のムードが濃厚、ましてメキシコの旧家モンドール家に盲目の当主ヘンリー(トム・シムコックス)が出張から帰って来た妻ヴィヴィア(ダイアン・ベイカー)を迎えた後に紹介される新しい女中パウリナを演じるのが「レベッカ」の怖い女中頭ダンヴァース夫人に扮したジュディス・アンダースンなのだから、この辺は「レベッカ」としか見えない。
かように前半は「レベッカ」もどきに進む。
本作の主人公は霊退治のようなこともしている建築家オライオン(マーティン・ランドー)で、暫くは京極夏彦の京極堂のような立場でマジック的な細工があるとして幽霊騒ぎを解明して来たらしいことが説明される。
彼がここに現れたのは、当主が大分前に亡くなった母親から電話がかかるようになってきたと思い込んでいるからで、棺の傍に電話を置くなどディクスン・カーみたいな神秘ミステリーの要素もある。
しかし、ポルターガイストが起き、現実主義的な言動をとって来たパウリナが車に閉じ込められ崖から落とされそうになるに至って、オライオンも京極堂の立場を捨てざるを得なくなる一方、パウリナがかつてシェラ・デ・コブレ教会で幽霊騒ぎをでっち上げた張本人であること、でっち上げを追及した女教師を死に至らしめ、そしてヴィヴィアが彼女の娘であることが判って来る。
ヴィヴィアがパウリナを初めて観た時に恐怖に慄いたのは、不気味な家政婦だったからではなく、縁を切ったはずの母親を見たからである。観客にとってはミスリードの場面であるが、ちゃんと辻褄が合っている。
謎の電話はパウリナの細工だが、ここに並行して進んできたミステリー要素がもう一方のホラー要素に吸収されて消失すると、無念に死んだ女教師の霊が禍を引き起こす。母親と彼女に支配されるヴィヴィアとの関係を含めて終盤は「サイコ」ムードが濃厚になり、やっちょるなと嬉しくなる。
当時怖すぎて公開できなかったという伝説は、文字通り【幽霊の正体見たり枯れ尾花】 の伝で、さほど怖くない。
しかし、後に実績を残す撮影監督コンラッド・L・ホールのカメラは【栴檀は双葉より芳し】の感あり、上述の「レベッカ」ムードは言わずもがな、砂浜のショットではイングマル・ベルイマン「第七の封印」を思い出させたりもする。
音楽はヒッチコック映画でお馴染みバーナード・ハーマン(「めまい」「サイコ」など)を真似た感じ。
実は、子供の頃TVでホラー映画2本立てをやったという記憶はあり、その1本のミイラ映画だけを観たことはある。年が2年くらい合わないと思うのだが、はて?
この記事へのコメント
早速レビューしてくださり嬉しいです。
「怖っ!」と言いながらも何故だか笑ってしまう(作者はそんな事は狙ってないはずですが) ところが絶妙のバランスでしたね。
最強ダンヴァース夫人の再登場とか、そもそも霊廟の中に生き返った時用に電話器を設置するって、今なら霊廟にwifi通して充電済みのスマホを棺桶に入れてもらうってかんじ? ランドー氏はその電話器を触って「暖かい」って何やねん?
ラストのさっさとケリつけて打ち上げ行こか的トンズラ感に呆気に取られてしまいます。
私は根が超怖がりなのに強がって偉そうに書きましたが本当は結構怖かったです。
そう言えば子供の頃ミイラが流行ってましたね。最近廃れてますかね…
>早速レビューしてくださり嬉しいです。
いやあ、余り良いものが書けず、お恥ずかしい。
>ラストのさっさとケリつけて打ち上げ行こか的トンズラ感に呆気に取られてしまいます。
車が落ちても何の感情も湧いていないように見えましたね^^;
>そう言えば子供の頃ミイラが流行ってましたね。最近廃れてますかね…
2000年代にリメイクが作られ、シリーズ化されましたよ。CG時代ですから、昔のようなこけおどし感がなく、今一つでしたが。