映画評「アガサと深夜の殺人者」

☆☆(4点/10点満点中)
2020年イギリス映画 監督ジョー・スティーヴンスン
ネタバレあり

第1作だけを観るつもりでいたが、興味の湧く作品が余りに少ないので、どうせ大したことないのなら、最近ミステリー小説を読む頻度が上がっていることもあり、安価なTVシリーズと知りつつこのシリーズを続けて観ることにした。プライム・ビデオの配信が後三日とあったので、通販番組の心理が働いてこのタイミングで観たということです。

これまでの2作がアガサ・クリスティーの実話を基に空想の翼を拡げて素人探偵ものに仕上げていたが、こちらは実話とは程遠い感じがあるし、典型的な素人探偵ものとも言いにくい。

戦時中。戦争の為にアメリカから著作権料が払われずお金に窮したアガサ(ヘレン・バクセンデール)が、仲介役兼用心棒トラヴィス(ブレーク・ハリスン)と一緒に、ある酒場で中国系の男女に未発表のポワロものを売ろうと交渉の場に付く。
 そこへ空襲警報があり、婦警オハノウアー(ジョディ―・マクニー)が強制的に一行を酒場の地下室に避難させようとする。訳ありの地下には怪しげな男女がたむろしている。トランプの賭けに興じ美術品の取引でもしているようにも見えるが、観客にはよく解らない。
 やがてアガサの原稿が盗まれる。容疑者になりかねない中国人の富豪と別の若者が同時にしかし別人により殺害される。中国人の用意していた現金も消失してしまう。
 アガサが正体を明かして賞金をにんじんに原稿探しをさせるうちトラヴィスがイタリア人男性のバッグから原稿を発見、この男を監禁するが、その後男が自ら持っていた凶器もどきで刺殺される。
 この事件で婦警の立場が怪しくなり、この辺りからどこかに潜んでいる殺人犯を探す冒険が始まり、この間に待機組の中国系女性が殺され、トラヴィスも重傷を負う。かくして益々不気味な状態に陥っていく。

おおよそこんな物語で、この後にアガサが素人探偵ぶりを発揮する場面が出て来てどんでん返しを見せるわけだが、「そして誰もいなくなった」に似てサスペンス傾向の強い、クローズド・サークルものミステリーである。
 クローズド・サークルものは上手く作ると面白くなるが、サスペンス重視の邦画のクローズド・サークルものに真に面白いものを見出したことがないように、余程のアイデアがない限り児戯に類するものしか出来ない。本作もその指摘を免れない。

それでも一定の面白さがあるとは言えるものの、何より気に入らないのは暗い場面ばかりであること。コストを下げるには貢献しただろうが、観ているこちらとしては大迷惑。
 唯一アガサがポワロを殺したがっていた史実に絡んだ設定や台詞が興味深く、少し嬉しくなった。これで★一つ増やしたのだが。

評判の綾辻行人のクローズド・サークルもの「十角館の殺人」を今日から読むデス。

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