映画評「グリーンフィッシュ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1997年韓国映画 監督イ・チャンドン
ネタバレあり
キム・ギドクがコロナで死んでしまった今、韓国で一番興味のある監督になったイ・チャンドンのデビュー作。作家でもあって本作を作った時既に43歳だから、かなり遅い。ヤクザ映画らしいもう一つそそられなかったものの、デビュー作から相当きちんと作っている。しかし、集中しないと置いてきぼりに去れる可能性があるので、要注意だ。
兵役を終えて故郷に戻る列車で主人公ハン・ソッキョが、運命の女性シム・ヘジンと出会う。彼女のスカーフを顔に受けた後車内で絡まれている彼女を救おうとしてチンピラ3人からひどい目に遭わされる。それでも懲りない彼は降車後に逆襲するのだ。後日再会を果たした時もチンピラから彼女を救おうとしてまたしてもやられるが、今度の喧嘩相手は身内である。
彼女は、まともな実業家を気取りその実ヤクザの親分ムン・ソングンの情婦にして歌手で、裏社会で生きて行くには辛い目に遭うのを避けることはできない。
かくしてムンに気に入られ早々に弟分にしてもらうが、姐御という立場で彼女を懸命に護ろうとする間に姉弟愛に似た精神的な愛情が醸成される。ボスに対する仁義上男女の愛情に発展するのを意識的に避けざるを得ないのが実際か。それがこの映画の切なさの一つの理由であろう。
ムンは出所したばかりの、以前縁のあったヤクザ親分に頭が上がらない。その様子を見るハンは複雑な思いを抱き、やがて男が社長をするナイトクラブのトイレで男を刺殺する。ムンにとってはこの行為は不都合であったのだろう、ハンを殺す。
暫くして、ムンとヘジンがさる庶民的な料理店に入って来る。ヘジンは、以前貰った写真の記憶からやがてそこがハンの実家であることを知り、嗚咽する。
兄弟の物語と言って良いだろう。男四人女一人の五人兄弟が今やばらばら状態だが、四番目(男では一番下)の彼が接するうちにそして彼が死ぬことで残された四兄弟は昔のように戻るのである。
反面、義兄弟の関係はそんな単純ではない。その為に主人公が人殺しをした兄貴分はそれを理由に弟分を殺す。彼の純粋な思いは報いられない。姐御はその純粋性に泣かざるを得ない。切なさはここに極り、大いにじーんとさせられる。
彼女が前半と終盤に吐く謎の言葉 “ボスパジー・シット・サムノイ・ボジェ” はロシア語で、発音が正確でないので解りにくいが、Господь, что со мной будеtだろう。英語の "Lord, what will become of me?" つまり “神よ、私はどうなってしまうのですか” くらいの意味ではないか。 彼女がキリスト教徒なのは判るが、 何故ロシア語なのか?
プーチンのせいで、ロシア語を習う僕の後輩たちが嫌な目に遭っている。トランプとゼレンスキーが会った。何らかの変化があろうか。
1997年韓国映画 監督イ・チャンドン
ネタバレあり
キム・ギドクがコロナで死んでしまった今、韓国で一番興味のある監督になったイ・チャンドンのデビュー作。作家でもあって本作を作った時既に43歳だから、かなり遅い。ヤクザ映画らしいもう一つそそられなかったものの、デビュー作から相当きちんと作っている。しかし、集中しないと置いてきぼりに去れる可能性があるので、要注意だ。
兵役を終えて故郷に戻る列車で主人公ハン・ソッキョが、運命の女性シム・ヘジンと出会う。彼女のスカーフを顔に受けた後車内で絡まれている彼女を救おうとしてチンピラ3人からひどい目に遭わされる。それでも懲りない彼は降車後に逆襲するのだ。後日再会を果たした時もチンピラから彼女を救おうとしてまたしてもやられるが、今度の喧嘩相手は身内である。
彼女は、まともな実業家を気取りその実ヤクザの親分ムン・ソングンの情婦にして歌手で、裏社会で生きて行くには辛い目に遭うのを避けることはできない。
かくしてムンに気に入られ早々に弟分にしてもらうが、姐御という立場で彼女を懸命に護ろうとする間に姉弟愛に似た精神的な愛情が醸成される。ボスに対する仁義上男女の愛情に発展するのを意識的に避けざるを得ないのが実際か。それがこの映画の切なさの一つの理由であろう。
ムンは出所したばかりの、以前縁のあったヤクザ親分に頭が上がらない。その様子を見るハンは複雑な思いを抱き、やがて男が社長をするナイトクラブのトイレで男を刺殺する。ムンにとってはこの行為は不都合であったのだろう、ハンを殺す。
暫くして、ムンとヘジンがさる庶民的な料理店に入って来る。ヘジンは、以前貰った写真の記憶からやがてそこがハンの実家であることを知り、嗚咽する。
兄弟の物語と言って良いだろう。男四人女一人の五人兄弟が今やばらばら状態だが、四番目(男では一番下)の彼が接するうちにそして彼が死ぬことで残された四兄弟は昔のように戻るのである。
反面、義兄弟の関係はそんな単純ではない。その為に主人公が人殺しをした兄貴分はそれを理由に弟分を殺す。彼の純粋な思いは報いられない。姐御はその純粋性に泣かざるを得ない。切なさはここに極り、大いにじーんとさせられる。
彼女が前半と終盤に吐く謎の言葉 “ボスパジー・シット・サムノイ・ボジェ” はロシア語で、発音が正確でないので解りにくいが、Господь, что со мной будеtだろう。英語の "Lord, what will become of me?" つまり “神よ、私はどうなってしまうのですか” くらいの意味ではないか。 彼女がキリスト教徒なのは判るが、 何故ロシア語なのか?
プーチンのせいで、ロシア語を習う僕の後輩たちが嫌な目に遭っている。トランプとゼレンスキーが会った。何らかの変化があろうか。
この記事へのコメント
これっ大きな熱帯魚の水槽のなかで緑色の魚が泳いでいるシーンがありましたか?
そこしか思い浮かばないのですが…
>これっ大きな熱帯魚の水槽のなかで緑色の魚が泳いでいるシーンがありましたか?
緑の魚というのは、主人公と兄弟の思い出に絡むようなものらしいですが、実物は出てこなかったような気がしますねえ。
イ・チャンドン、最近は村上春樹の「納屋を焼く」を「バーニング」というタイトルで映画化したようです。こちらで取り上げられてましたか?
この原作はかなり短い短編だった記憶があって(私の記憶は全くあてにならないのですが) どんな映画なのか気になるので年内に観てみるつもりです。憶えているのはよく似たタイトルのフランス映画があった気がすると春樹氏が書いていたことぐらいです。映画は観ていないとか。瑣末な事のみ憶えております。
確かアランドロンとシモーヌシニョレの映画でしたね。
最近映画に食指が動かないのです。困ったことに特に新作に興味がわかないという老人特有の症状が出てきておりますが、イ・チャンドンなら観ても良いかもです。
「シークレットサンシャイン」や「ポエトリー アグネスの詩」
とかが好きですが、「冬の小鳥」も良さそうですね。UNEXT で「シークレットサンシャイン」や「グリーンフィッシュ」以外は殆ど配信している様でありがたいことです。
>「バーニング」というタイトルで映画化したようです。こちらで取り上げられてましたか?
劇場版については、書いていますよ。
結論だけ言いますと、余り感心しませんでした。
僕がチャンドン(ちゃんと)理解できていないだけでしょうが。
>よく似たタイトルのフランス映画があった気がすると春樹氏が書いて
>確かアランドロンとシモーヌシニョレの映画でしたね。
「燃えつきた納屋」ですね。
良い映画でした。
>最近映画に食指が動かないのです。
老人特有と言うか、映画自体が全世界的に良くないですよ。
欧米はポリコレで映画をゆがめて結果的に似たような作品ばかりになっていますし、邦画はそういう問題は余りないように思いますが、若い人を対象にする作品が多いせいか、どうも面白くない。アメリカの大作もYA中心という感じですね。
>「シークレットサンシャイン」や「ポエトリー アグネスの詩」
この二つは傑作ですね。前者は年間5位、後者は2位にしました。後者は1位でも良かったです。
>「冬の小鳥」も良さそうですね。
これは監督はしていませんが、素晴らしい作品でした。