一年遅れのベスト10~2024年私的ベスト10発表~
群馬の山奥に住み、持病もあり、WOWOWを中心にした映画鑑賞生活ですので、僕の2024年私的ベスト10は皆様の2023年にほぼ相当する計算でございます。
スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていますが、昨年☆☆☆☆(8点/10点満点中)以上を進呈した作品は34本(2023年は24本)で、そのうちドキュメンタリーが7本を占めますから、☆☆☆☆以上の劇映画は27本。23年より10本増えたのは喜ばしいところです。但し、プライムビデオで観た大旧作が8本ありますので、それほど回復したというわけでもありません。そうした大旧作は同列に扱うには無理があります。
ドキュメンタリーも劇映画と同じフィールドで比べるのは無理があるので、通常ベスト10の候補から外しますが、今年は1本だけ対象にできるものがあり、実際に入れました。それは何か、お楽しみに。
2024年の総鑑賞本数は348本(五輪があった割に頑張りました)で、再鑑賞は51本。昨年予想したように、ベスト10選考対象作品が297本と遂に300本を割りましたよ。
WOWOWが邦画に注力するものだから、邦画の鑑賞数が増え、アメリカ映画が激減し、それ以外の地域の映画は横ばい。2024年は【それ以外の地域の映画】が頑張りましたか。邦画もまあまあですが、アニメに比べて実写がちょっと弱いですね。
それでは、ラインアップをご笑覧あれ。
1位・・・ヒッチコックの映画術
早速これがそのドキュメンタリー。がっちりとした脚本があり、半世紀近く前に亡くなったヒッチコックが自らの作品を語るという人を食ったフェイクはフィクションに類しましょう。しかし、この映画を一番推したい理由は、画面の美しさです。とりわけその狙いを掴んで観た時のヒッチ映画の画面の美しさに感銘させられました。よって、CG時代にあって大した意味はなかろうと撮影賞を廃止して創設(笑)した画面賞にも躊躇なく選びました。
2位・・・青いカフタンの仕立て屋
画面が雄弁な、即ち映画言語がしっかりしたモロッコ出身の女性映画監督マリヤム・トゥザニの傑作。イスラム圏の女性監督にこんな優れた感覚を持つ、端倪すべからざる才能の人がいる。それだけでも訴えるものがあるでしょう。
3位・・・小さき麦の花
中国版「裸の島」(新藤兼人監督作品)。少数民族農民の夫婦愛を叙情的に描いて感銘的。切なくもなり、羨ましくもなり。
4位・・・オッペンハイマー
2024年は英米映画が不調。それ以上に英米映画の鑑賞数が異常に少なかったですね。そんな中で一流映画人が実力を発揮した伝記映画。伝記というより、実録と仰る常連さんの表現が合っているようにも思いました。戦前と戦後のアメリカの時代ムードもよく再現していたと思います。
5位・・・落下の解剖学
視覚と音声の関係を鮮やかな映画言語で表現したところに凄味のあるミステリー法廷劇。視覚と音声の関係に終始神経を集中させないとこの映画の真価はなかなか解りません。
6位・・・すずめの戸締まり
邦画に関し、青春を描く時、表現の鮮やかさにおいてアニメは実写を凌ぐように思います。次点にした「ルックバック」も同じくらい素晴らしかったですね。地震を鎮める人々を描くこの映画は作劇レベルの高さに感心しましたが、WOWOWの放映が予定されていたその数時間前に北陸で大地震があり、この映画の登場人物が活躍が足りなかったかと変なことを思ったものです。
7位・・・パリタクシー
もう大分前になりますが、「ドライビング・ミス・デイジー」というアメリカの秀作がありました。あの頃のアメリカ映画はまだまだ良かった。それの似た構図の、但したった一日だけのタクシー運転手と老女の関係を描いた人間劇。分断の時代にあってこういう人情が交錯する映画に出会うとホッとしますね。
8位・・・PERFECT DAYS
財産よりも過去の名誉よりも、現在の、孤独であっても或いは孤独故の幸福が良いと思う人の心境も解ります。これも今観るとじーんとするものありです。
9位・・・ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ
欧米映画に時々出て来る全寮制私学のお話。逆説的に休みをテーマにしたのも良い視点で、頑固な保守的な老教師(ラテン語は頑固を象徴することに使われること多し)が、人間関係構築を苦手とする生徒と賄い婦と時間を過ごすうちに一種開眼する。アレクサンダー・ペインらしいウェルメイドな佳作。こういう本塁打ではない作品が後を引くことも多いですよね。
10位・・・枯れ葉
これもまた人間関係構築が決して得意そうには見えない男女の関係を綴って、最後にはチャップリンめかして、大いに感銘を誘う。
次点・・・ルックバック
表現の鮮やかさで「すずめの戸締まり」以上でしょうか。【たられば】をテーマにしたファンタジーと見る向きが多いでしょうが、僕はヒロインの心象風景映画と思いましたね。
ワースト・・・「ナイル殺人事件(2020年版)」
ポリ・コレが映画に歴史改竄をもたらした悪例を示す象徴的作品。保守の歴史修正主義もけしからんが、時代を正しく映し出すという映画の本質を壊し続ける結果に、腹が立つ。
****テキトーに選んだ各部門賞****
監督賞・・・クリストファー・ノーラン~「オッペンハイマー」
男優賞・・・役所広司~「銀河鉄道の父」「PERFECT DAYS」
女優賞・・・該当なし(旧作3本のカトリーヌ・ドヌーヴ?)
脚本賞・・・クリストファー・ノーラン~「オッペンハイマー」
画面賞・・・ヒッチコック映画のすべてに~「ヒッチコックの映画術」
音楽賞・・・アイナ・ジ・エンド(の歌)~「キリエのうた」
特別賞・・・ヤン・ヨンヒ(朝鮮総連幹部の娘に生れたノンポリ監督。3本のドキュメンタリーで北朝鮮の一部を映し出したこともさることながら、晩年の父親から息子二人を北朝鮮に送ったことに対する後悔の言葉を引き出したところに感銘)
スタンスとして初鑑賞なら新旧問わず何でも入れることにしていますが、昨年☆☆☆☆(8点/10点満点中)以上を進呈した作品は34本(2023年は24本)で、そのうちドキュメンタリーが7本を占めますから、☆☆☆☆以上の劇映画は27本。23年より10本増えたのは喜ばしいところです。但し、プライムビデオで観た大旧作が8本ありますので、それほど回復したというわけでもありません。そうした大旧作は同列に扱うには無理があります。
ドキュメンタリーも劇映画と同じフィールドで比べるのは無理があるので、通常ベスト10の候補から外しますが、今年は1本だけ対象にできるものがあり、実際に入れました。それは何か、お楽しみに。
2024年の総鑑賞本数は348本(五輪があった割に頑張りました)で、再鑑賞は51本。昨年予想したように、ベスト10選考対象作品が297本と遂に300本を割りましたよ。
WOWOWが邦画に注力するものだから、邦画の鑑賞数が増え、アメリカ映画が激減し、それ以外の地域の映画は横ばい。2024年は【それ以外の地域の映画】が頑張りましたか。邦画もまあまあですが、アニメに比べて実写がちょっと弱いですね。
それでは、ラインアップをご笑覧あれ。
1位・・・ヒッチコックの映画術
早速これがそのドキュメンタリー。がっちりとした脚本があり、半世紀近く前に亡くなったヒッチコックが自らの作品を語るという人を食ったフェイクはフィクションに類しましょう。しかし、この映画を一番推したい理由は、画面の美しさです。とりわけその狙いを掴んで観た時のヒッチ映画の画面の美しさに感銘させられました。よって、CG時代にあって大した意味はなかろうと撮影賞を廃止して創設(笑)した画面賞にも躊躇なく選びました。
2位・・・青いカフタンの仕立て屋
画面が雄弁な、即ち映画言語がしっかりしたモロッコ出身の女性映画監督マリヤム・トゥザニの傑作。イスラム圏の女性監督にこんな優れた感覚を持つ、端倪すべからざる才能の人がいる。それだけでも訴えるものがあるでしょう。
3位・・・小さき麦の花
中国版「裸の島」(新藤兼人監督作品)。少数民族農民の夫婦愛を叙情的に描いて感銘的。切なくもなり、羨ましくもなり。
4位・・・オッペンハイマー
2024年は英米映画が不調。それ以上に英米映画の鑑賞数が異常に少なかったですね。そんな中で一流映画人が実力を発揮した伝記映画。伝記というより、実録と仰る常連さんの表現が合っているようにも思いました。戦前と戦後のアメリカの時代ムードもよく再現していたと思います。
5位・・・落下の解剖学
視覚と音声の関係を鮮やかな映画言語で表現したところに凄味のあるミステリー法廷劇。視覚と音声の関係に終始神経を集中させないとこの映画の真価はなかなか解りません。
6位・・・すずめの戸締まり
邦画に関し、青春を描く時、表現の鮮やかさにおいてアニメは実写を凌ぐように思います。次点にした「ルックバック」も同じくらい素晴らしかったですね。地震を鎮める人々を描くこの映画は作劇レベルの高さに感心しましたが、WOWOWの放映が予定されていたその数時間前に北陸で大地震があり、この映画の登場人物が活躍が足りなかったかと変なことを思ったものです。
7位・・・パリタクシー
もう大分前になりますが、「ドライビング・ミス・デイジー」というアメリカの秀作がありました。あの頃のアメリカ映画はまだまだ良かった。それの似た構図の、但したった一日だけのタクシー運転手と老女の関係を描いた人間劇。分断の時代にあってこういう人情が交錯する映画に出会うとホッとしますね。
8位・・・PERFECT DAYS
財産よりも過去の名誉よりも、現在の、孤独であっても或いは孤独故の幸福が良いと思う人の心境も解ります。これも今観るとじーんとするものありです。
9位・・・ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリデイ
欧米映画に時々出て来る全寮制私学のお話。逆説的に休みをテーマにしたのも良い視点で、頑固な保守的な老教師(ラテン語は頑固を象徴することに使われること多し)が、人間関係構築を苦手とする生徒と賄い婦と時間を過ごすうちに一種開眼する。アレクサンダー・ペインらしいウェルメイドな佳作。こういう本塁打ではない作品が後を引くことも多いですよね。
10位・・・枯れ葉
これもまた人間関係構築が決して得意そうには見えない男女の関係を綴って、最後にはチャップリンめかして、大いに感銘を誘う。
次点・・・ルックバック
表現の鮮やかさで「すずめの戸締まり」以上でしょうか。【たられば】をテーマにしたファンタジーと見る向きが多いでしょうが、僕はヒロインの心象風景映画と思いましたね。
ワースト・・・「ナイル殺人事件(2020年版)」
ポリ・コレが映画に歴史改竄をもたらした悪例を示す象徴的作品。保守の歴史修正主義もけしからんが、時代を正しく映し出すという映画の本質を壊し続ける結果に、腹が立つ。
****テキトーに選んだ各部門賞****
監督賞・・・クリストファー・ノーラン~「オッペンハイマー」
男優賞・・・役所広司~「銀河鉄道の父」「PERFECT DAYS」
女優賞・・・該当なし(旧作3本のカトリーヌ・ドヌーヴ?)
脚本賞・・・クリストファー・ノーラン~「オッペンハイマー」
画面賞・・・ヒッチコック映画のすべてに~「ヒッチコックの映画術」
音楽賞・・・アイナ・ジ・エンド(の歌)~「キリエのうた」
特別賞・・・ヤン・ヨンヒ(朝鮮総連幹部の娘に生れたノンポリ監督。3本のドキュメンタリーで北朝鮮の一部を映し出したこともさることながら、晩年の父親から息子二人を北朝鮮に送ったことに対する後悔の言葉を引き出したところに感銘)
この記事へのコメント
あまり期待しないまま観てみたら、とてもよかったです。
二人の会話とか、フランス映画やっぱりいいな、と思いました。
主演の方もよかったですね。ジャン・ポール・ベルモンドみたいなかんじのいい役者、フランスはああいうタイプが人気者になるんでしょうね。
「ヒッチコックの映画術」はドキュメンタリーですが堂々の1位ですね。
ドキュメンタリーでは「リュミエール!」も大好きでした。
続編の「リュミエール!リュミエール!」が昨年公開されたようなので、こちらも観られるのが楽しみです。
ベスト10の作品では「青いカフタンの仕立て屋」が未見なので観たいですね。
「すずめの戸締まり」「ルックバック」のアニメ勢も素晴らしかったですね。
私は結構アニメ好きなのですが、最近観たアニメ映画では「THE FIRST SLAM DUNK」「古の王子と3つの花」も面白かったです。
「THE FIRST SLAM DUNK」は原作の人気バスケ漫画の最後の試合をアニメ化したものですが、本作単体でも十分楽しめる作品ですし、何より試合シーンの迫力と臨場感が凄いです。
「古の王子と3つの花」はミッシェル・オスロ監督の全3話形式のオムニバス作品ですが、私が監督作でも特に大好きな「アズールとアスマール」「夜のとばりの物語」(これらは本当に素晴らしいので、機会があれば是非観て頂きたいです)の要素を含んだ話があり面白かったです。
「落下の解剖学」はベスト10に選ぶ方も多くて、興味は引かれますね。
アニメ好きとしては「ルックバック」も見ておかないと。
コロナ以降は映画館行きが減って、そうすると、なぜか、観に行きたい思いにさせる映画も減るんです。邦画が増えたせいもあるかと思いますが…。
>「パリタクシー」
良かったでしょう。
人情の映画はなかなか作るのが難しいジャンルではありますが、押しつけがましく良い味の映画でしたね。
>「ヒッチコックの映画術」はドキュメンタリーですが堂々の1位ですね。
事前に宣言していましたので、かずきさんは既にご承知だったでしょう^^
>ドキュメンタリーでは「リュミエール!」も大好きでした。
これも素晴らしかった。貴重な映像が見られて満足しましたね。
>「青いカフタンの仕立て屋」が未見なので観たいですね。
映画を観る際に映画言語という観念を持っていない人にはその価値がなかなか理解できないタイプの作品ですが、解る人には解る^^
>ミッシェル・オスロ監督
この監督は大好きですよ。
ご紹介の3本は未見ですので、WOWOWに出ないようなら、買っても観るべきでしょうね。但し、ブルーレイでないとダメですね。
>「落下の解剖学」はベスト10に選ぶ方も多くて、興味は引かれますね。
万人向きではないですが、凄い映画でしょうね。
>アニメ好きとしては「ルックバック」も見ておかないと。
短いのが寧ろ物足りないくらい。
ちょっと辛くなる人もいるでしょうが、良い映画でしたよ。
両方ともワーストがあるのが面白いですね!
私は「ナイル」は観てませんが、実に酷い映画のようですねー
>半分くらいは共通してますねー(だからなんなんだ、ですが 笑)
僕がロードショーなりで観ていたらもっと共通しているかもですねえ^^
>私は「ナイル」は観てませんが、実に酷い映画のようですねー
左脳人間かつ映画原理主義者(笑)の僕には、許しがたい作品でした!