映画評「カビリア」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1914年イタリア映画 監督ジョヴァンニ・パストローネ
ネタバレあり
20年程前にある人が“私は(いかに名作と言われようと)世評を考慮せずに映画を観て評価する”と言った。それは当然のことである一方、映画(音楽も同じ)の進歩を全く考慮せずに昔の名作群を評価すると不当な低評価になりかねず、やはりある程度その時代の水準を慮らなければならない。「源氏物語」を村上春樹と比較できようか?
ましてサイレント映画は、同じ題名の映画でも違うバージョンであったり、BGMの有無、弁士の有無などで大いに印象も変わる。
本作は映画サイトによって、200分、180分、143分、123(125)分、88分という上映時間の表記がある。
大昔の記録は現在上映する場合より長いと僕は想像している。現在より上映時のフィルムの回転が僅かに遅かったと思われるフシがあるのだ(勿論当時の16コマと現行の24コマのことを言っているわけではない)。88分というのは恐らく1917年に日本で公開された時の短尺版ではないかと思う。
今回観たプライムビデオは現在世界共通の修復版(123分)で、音楽付き、弁士なし。前世紀にNHK-BSで観た(その時にビデオで保存したのをブルーレイに落としたはずだが、どこにあろうか?)のは多分同じバージョンではないかと思う。
D・W・グリフィスの「イントレランス」(1916年)より少し前に作られたイタリア製スペクタクルで、「イントレランス」のグリフィスは明らかには本作の影響を受けているし、「十戒」を2回作ったセシル・B・デミルもそうであろう。
「イントレランス」のような並行展開という当時としての離れ業はないが、セットの凄さは引けを取らない。噴火するエトナ山の下を人々が逃げる序盤の場面はどう撮ったのだろう。山は明らかに作りものながら、その下を通る人々が余りにも小さい。
シチリアの貴族バットーの娘カビリアが噴火の混乱で乳母と共にはぐれ、結果的にフェニキアの海賊に捕えられ、第2次ポエニ戦争でローマと戦闘中のカルタゴの神官に売られる。
神官が彼女を生贄にしようとするところを、密命を帯びて同地に上陸したローマの武将フルヴィウス(ウンベルト・モツァート)と奴隷マチステ(バルトロメオ・パガーノ)に助けられるが、結局幼女を連れたマチステは逮捕されて粉引きに繋がれ、幼女カリビアはカルタゴの王女ソフィニスバ(イタリア・アルミランテ=マンツィーニ)の侍女になる憂き目に遭う。
その頃フルヴィウスの所属するローマ軍は、アルキメデスの凹面鏡の威力にやられて敗戦する。
10年後再びカルタゴを訪れたフルヴィウスはマチステを解放し、再び生贄にされそうになっているカビリア(リディア・クァランタ)を救うべく奮闘する。
サイレント映画に長尺作品がぼつぼつ現れ始めた時代の超々大作で、同時代の作品としては別格のスケールであることは、映画史を勉強すると理解できる。
ファシズムを支持する愛国者で政治思想的に相当問題のある大作家ガブリエーレ・ダヌンツィオ(ルキノ・ヴィスコンティ監督「イノセント」の原作者。僕は「死の勝利」を読んでいる)の担当した脚本が相当ダイナミックでしっかりしている。短編しかなかった時代のものとは思われない。
イタリア映画はこの直後に始まる第1次大戦を契機に一時映画製作が衰えたらしい。戦争がなければこの手の分野でもこの後誕生するハリウッドにも負けない作品を多数作ったのではないだろうか。
戦中から戦後にかけてネオ・レアリスモなる運動の結果優れた映画作家が少なからず誕生して映画の発展に大いに寄与したとは言え、史劇系は本作の栄華も今は昔の感があり、凡作・駄作・愚作を多数生み出した。僕はTVでこの手のものをかなり観てお粗末ながら案外気に入った作品もあった。勿論その凡作ですら1914年の作品だったら後世に残る作品のレベルと言えるようが気がするが、たらればを言っても仕方がない。
著作権保護期間が50年のままだったら1974年までの作品がパブリック・ドメインに移り、かなり多様な旧作が観られたのだが。ともかく、これから少しずつ54年の作品がプライムビデオのラインアップに加わって来るだろう。
1914年イタリア映画 監督ジョヴァンニ・パストローネ
ネタバレあり
20年程前にある人が“私は(いかに名作と言われようと)世評を考慮せずに映画を観て評価する”と言った。それは当然のことである一方、映画(音楽も同じ)の進歩を全く考慮せずに昔の名作群を評価すると不当な低評価になりかねず、やはりある程度その時代の水準を慮らなければならない。「源氏物語」を村上春樹と比較できようか?
ましてサイレント映画は、同じ題名の映画でも違うバージョンであったり、BGMの有無、弁士の有無などで大いに印象も変わる。
本作は映画サイトによって、200分、180分、143分、123(125)分、88分という上映時間の表記がある。
大昔の記録は現在上映する場合より長いと僕は想像している。現在より上映時のフィルムの回転が僅かに遅かったと思われるフシがあるのだ(勿論当時の16コマと現行の24コマのことを言っているわけではない)。88分というのは恐らく1917年に日本で公開された時の短尺版ではないかと思う。
今回観たプライムビデオは現在世界共通の修復版(123分)で、音楽付き、弁士なし。前世紀にNHK-BSで観た(その時にビデオで保存したのをブルーレイに落としたはずだが、どこにあろうか?)のは多分同じバージョンではないかと思う。
D・W・グリフィスの「イントレランス」(1916年)より少し前に作られたイタリア製スペクタクルで、「イントレランス」のグリフィスは明らかには本作の影響を受けているし、「十戒」を2回作ったセシル・B・デミルもそうであろう。
「イントレランス」のような並行展開という当時としての離れ業はないが、セットの凄さは引けを取らない。噴火するエトナ山の下を人々が逃げる序盤の場面はどう撮ったのだろう。山は明らかに作りものながら、その下を通る人々が余りにも小さい。
シチリアの貴族バットーの娘カビリアが噴火の混乱で乳母と共にはぐれ、結果的にフェニキアの海賊に捕えられ、第2次ポエニ戦争でローマと戦闘中のカルタゴの神官に売られる。
神官が彼女を生贄にしようとするところを、密命を帯びて同地に上陸したローマの武将フルヴィウス(ウンベルト・モツァート)と奴隷マチステ(バルトロメオ・パガーノ)に助けられるが、結局幼女を連れたマチステは逮捕されて粉引きに繋がれ、幼女カリビアはカルタゴの王女ソフィニスバ(イタリア・アルミランテ=マンツィーニ)の侍女になる憂き目に遭う。
その頃フルヴィウスの所属するローマ軍は、アルキメデスの凹面鏡の威力にやられて敗戦する。
10年後再びカルタゴを訪れたフルヴィウスはマチステを解放し、再び生贄にされそうになっているカビリア(リディア・クァランタ)を救うべく奮闘する。
サイレント映画に長尺作品がぼつぼつ現れ始めた時代の超々大作で、同時代の作品としては別格のスケールであることは、映画史を勉強すると理解できる。
ファシズムを支持する愛国者で政治思想的に相当問題のある大作家ガブリエーレ・ダヌンツィオ(ルキノ・ヴィスコンティ監督「イノセント」の原作者。僕は「死の勝利」を読んでいる)の担当した脚本が相当ダイナミックでしっかりしている。短編しかなかった時代のものとは思われない。
イタリア映画はこの直後に始まる第1次大戦を契機に一時映画製作が衰えたらしい。戦争がなければこの手の分野でもこの後誕生するハリウッドにも負けない作品を多数作ったのではないだろうか。
戦中から戦後にかけてネオ・レアリスモなる運動の結果優れた映画作家が少なからず誕生して映画の発展に大いに寄与したとは言え、史劇系は本作の栄華も今は昔の感があり、凡作・駄作・愚作を多数生み出した。僕はTVでこの手のものをかなり観てお粗末ながら案外気に入った作品もあった。勿論その凡作ですら1914年の作品だったら後世に残る作品のレベルと言えるようが気がするが、たらればを言っても仕方がない。
著作権保護期間が50年のままだったら1974年までの作品がパブリック・ドメインに移り、かなり多様な旧作が観られたのだが。ともかく、これから少しずつ54年の作品がプライムビデオのラインアップに加わって来るだろう。
この記事へのコメント
これは淀川長治先生が、映画について語った本で、名前を出していたのを覚えています。昔のイタリア映画、イタリア映画がとてもとてもよかった時期があったのよ、というかんじで、また、イタリア映画に出てくる女優のすばらしさについて語っておられました。
>これは淀川長治先生が、映画について語った本で、名前を出していたのを覚えています。
淀川先生が小学生の時に、家族と一緒に、ご覧になったのでしょうね。
そういう家と仰っていました。
これは1914年という時代を考慮すれば驚愕の作品ですよね。
「イントレランス」にも影響を与えたということで、映画史的にも重要でしょう。
その作品が持つ同時代的な凄さが認められないのは、鑑賞者としては、それこそ不寛容(イントレランス)な態度だと思います。
そうした人の映画の評価を見ると、昔の作品が軒並み低評価だったりして、何だかなぁと思ってしまいます。
脚本は「イノセント」の原作者でしたか!
あの傑作もそのうち再鑑賞したいです。
>これは1914年という時代を考慮すれば驚愕の作品ですよね。
殆ど1巻という時代に20巻くらいあるだけでも凄い。
>その作品が持つ同時代的な凄さが認められないのは、鑑賞者としては、それこそ不寛容(イントレランス)な態度だと思います。
映画の歴史を勉強するのと、想像するのが面倒くさい人には、なかなか出来ないことかもしれませんね。
古今東西の映画を観る理由がそこにあります。
>脚本は「イノセント」の原作者でしたか!
>あの傑作もそのうち再鑑賞したいです。
「イノセント」は「家族の肖像」より解りやすくて、当時大いに気に入ったものです。衛星放送でこの作品は出てこないんですよねえ。