映画評「死せる恋人に捧ぐる悲歌」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1948年イギリス映画 監督ベイジル・ディアデン
ネタバレあり

プライムビデオにて初鑑賞もしくは再鑑賞。
 1万数千本の鑑賞作品のほぼ全てを投票していた IMDb のマイ・リストへのアクセスが1か月前から不可能になってしまい、鑑賞済みか否か解らない。内容に記憶がないところを見ると初見と思うが、完全に初めてと言える自信もない。いずれにしても、内容の記憶がないのだから、データ上はともかく、初鑑賞と同じだが。

このタイトルからは全く解らないが、メロドラマ史劇である。

18世紀初め英国スチュワート朝が途絶え、神聖ローマ帝国ハノーヴァー選帝侯兼英国王ジョージ1世の皇太子時代に起きた悲劇を扱っている。プランタジネット朝以降の英国王朝の名はその発生順に言えるが、こんな事件があったとは知りませなんだ。

後のジョージ1世ことゲオルク(ピーター・バル)を将来英国王にすべく画策するその母ハノーヴァー選帝侯妃ゾフィー(フランソワーズ・ロセイ)は、息子の従妹であるゾフィー・ドロテア・フォン・ツェレ(ジョーン・グリーンウッド)を戦略結婚で彼に嫁がせるが、子供が二人生まれると夫君は愛人を囲って放埓な生活を続ける。
 それに嫌気がさしたゾフィー・ドロテアは、軍人としてハノーヴァーにやってきたスウェーデンの貴族フィリップ・クリストフ・フォン・ケーニヒスマルク(スチュワート・グレンジャー)と昵懇の仲となるが、彼の別の愛人でもあったプラーテン伯爵夫人(フローラ・ロブスン)の嫉妬も混じって、駆け落ちの算段は失敗に終わり、フィリップは刺客の剣に倒れる。
 その不名誉の為ゾフィー・ドロテアは1726年に60歳で亡くなるまでアールデン城に幽閉されることになる。

というお話が、息子である後のジョージ2世(ゲオルク・アウグスト)に臨終の彼女が出す手紙の内容として、紹介される。

日本がまだカラー映画を1本も作っていない時代のカラー映画で、プライムビデオ版はさほど良い発色とは言えないものの、豪華な史劇であることは十分理解できる。

ベイジル・ディアデンという英国の監督を僕は余り観ていないのだが、1949年の英国流セミ・ドキュメンタリー「兇弾」より66年の「カーツーム」に近い風格の作品となっている。但し上映時間は91分(97分)と短い。

ロミー・シュナイダーが主演した「プリンセス・シシー」3部作とも通底する政略結婚ものであるが、あちらが彼女の人生行路を主題にしているのに対し、こちらは悲劇的なロマンスが主題となっている。
 しかるに、その短い尺にも拘わらずそれに特化せずに義母のゾフィーや伯爵夫人の権謀術数が複雑に絡み合う作劇にした為に、どちらもなまなかになった感が否めない。

ジョーン・グリーンウッドは僕好みの美人であるし、アクション映画の出演でかつてよく見たスチュワート・グレンジャーの二枚目ぶりも様になっていて、決して馬鹿にした出来栄えでもない。

仮面をつけた祭でのカット処理などかなり大胆で、もう少し後のアート映画めいた見せ方をしている。

ハノーヴァー朝という言い方ができた理由がよく解る映画と言うべし。その後大してしないうちにヴィクトリア女王が擁立されて、ハノーヴァーとほぼ関係がなくなるのだけれど。それから100年もしないうち現在のウィンザー朝に移る。

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