映画評「首」(2023年)
☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・北野武
ネタバレあり
北野武監督の戦国時代劇。合戦場面だけを見ていれば黒澤明みたいだが、予想と違ってコミカルに過ぎ、ご挨拶に困るタイプの映画だ。
傍若無人というより “暴虐無尽” という感じの織田信長(加瀬亮)の跡目を争っているのが、徳川家康(小林薫)と明智光秀(西島秀俊)と豊臣秀吉(ビートたけし)という構図。
本作独自のアングルは、光秀が本能寺の変を起こすに至る過程に信長、光秀、荒木村重(遠藤憲一)の男色三角関係が絡んでいたという点で、実際もそうであったかもしれないことながらTVは勿論メジャー時代劇映画では絶対に扱わない要素だけに、★一つ分の加点に価すると言っても良い。
これがBLブームに乗ったからというのでは意味がなく、史実としてあり得ないことではないという点が重要なのである。大分前に一部自民党議員が“日本には同性愛の伝統はない”と言ったのは大嘘で、僧侶と稚児、武将と小姓の男色は長い間日本では当たり前のように存在していたということに思いを馳せる良い契機にしてほしい。但し、男色シーンは僕は苦手なので、勘違いなきよう。
全体としては「アウトレイジ」時代劇版というムードで、戦国武将の権謀術数などヤクザの権力争いと変わらんのではないかという北野武の発想が伺えるのも一定の興味を呼ぶ。
しかし、途中からビートたけしの秀吉が暴走してコメディー度が高くなった為になまなかに終わった感じがしないでもない。
そのコミカルさが生み出したと言おうか、あるいはその為にコミカルになったと言おうか、秀吉は他の人間に任せて大したことをしていないように見せるカリカチュアぶりが面白い。信長のデタラメぶりも極端で、あそこまでやると正にカリカチュアという感が強い。
当時の習慣に則り出世・名誉の為に我こそはと首を巡って人々を右往左往させるのにも諧謔味がある。
信長が宴で家康暗殺に失敗して明智光秀を足蹴にする。宴での足蹴自体は「レジェンド&バタフライ」にも出て来たと思う。本作はそれを暗殺未遂の責任としたのが独自解釈なのですかな。
2023年日本映画 監督・北野武
ネタバレあり
北野武監督の戦国時代劇。合戦場面だけを見ていれば黒澤明みたいだが、予想と違ってコミカルに過ぎ、ご挨拶に困るタイプの映画だ。
傍若無人というより “暴虐無尽” という感じの織田信長(加瀬亮)の跡目を争っているのが、徳川家康(小林薫)と明智光秀(西島秀俊)と豊臣秀吉(ビートたけし)という構図。
本作独自のアングルは、光秀が本能寺の変を起こすに至る過程に信長、光秀、荒木村重(遠藤憲一)の男色三角関係が絡んでいたという点で、実際もそうであったかもしれないことながらTVは勿論メジャー時代劇映画では絶対に扱わない要素だけに、★一つ分の加点に価すると言っても良い。
これがBLブームに乗ったからというのでは意味がなく、史実としてあり得ないことではないという点が重要なのである。大分前に一部自民党議員が“日本には同性愛の伝統はない”と言ったのは大嘘で、僧侶と稚児、武将と小姓の男色は長い間日本では当たり前のように存在していたということに思いを馳せる良い契機にしてほしい。但し、男色シーンは僕は苦手なので、勘違いなきよう。
全体としては「アウトレイジ」時代劇版というムードで、戦国武将の権謀術数などヤクザの権力争いと変わらんのではないかという北野武の発想が伺えるのも一定の興味を呼ぶ。
しかし、途中からビートたけしの秀吉が暴走してコメディー度が高くなった為になまなかに終わった感じがしないでもない。
そのコミカルさが生み出したと言おうか、あるいはその為にコミカルになったと言おうか、秀吉は他の人間に任せて大したことをしていないように見せるカリカチュアぶりが面白い。信長のデタラメぶりも極端で、あそこまでやると正にカリカチュアという感が強い。
当時の習慣に則り出世・名誉の為に我こそはと首を巡って人々を右往左往させるのにも諧謔味がある。
信長が宴で家康暗殺に失敗して明智光秀を足蹴にする。宴での足蹴自体は「レジェンド&バタフライ」にも出て来たと思う。本作はそれを暗殺未遂の責任としたのが独自解釈なのですかな。
この記事へのコメント
>戦国武将の権謀術数などヤクザの権力争いと変わらんのではないかという北野武の発想
ずいぶん前の事なので詳しくは憶えていませんが、宮崎学がヤクザの歴史的考察のようなものを書いた新書を読みました。
うろ覚えですが、“土木工事大好き秀吉公” が驚異的スピードで築城したり御土居を造ったりできたのは短期に大量の人夫を集める組織を持っていたからで、その辺がヤクザの源流ではないか、との事だったように思います。網野本にもそういう組織は秀吉以前からあったような記述がありましたし(確か漂泊の民だったか?)北野武もその辺の本は読んでいたのかもしれませんね。
>宮崎学がヤクザの歴史的考察のようなものを書いた新書を読みました。
>北野武もその辺の本は読んでいたのかもしれませんね。
ニッチなところを読んでいらっしゃいますね。なかなか面白そうです。
北野武ならあり得ますね。
ベストセラーになった(かな?)宮崎学の「突破者」面白いですよ。
しかし「首」っていうタイトルがそのものズバリで気の弱い私なんか3歩程後退りしてしまいますが、昔の人は晒し首とかを平気で眺めてたんでしょうかね?
京都市内にも首塚が何ヶ所かありますし耳塚なんてのもあります。
平将門の首は七条河原から江戸まで飛んでいったとか? 首って飛ぶんですね。
奈良の飛鳥にある蘇我入鹿の首塚も討たれた場所から結構な距離を飛んだとされる
場所にありましたね。皆んな首塚が好きなのかな…
刀は武器というよりは首を落とす道具だったとか聞いた事があります。怖いな…
関西(特に大阪)では楠公さんと並んで太閤秀吉さんは講談なんかを聞いて育った明治生まれの人には人気があったようですが、かなりえげつない事してますよね。
あ、映画は未見です。すいません。なんだか男優陣が柔な男ばっかりじゃないですか? 今時はあんなもんですか?
>北野武と宮崎学で検索したら、雑誌紙上で対談したりしていたようでやはり接点はあったようです。
モカさん、凄いカモ(笑)
>ベストセラーになった(かな?)宮崎学の「突破者」面白いですよ。
メモメモ
>昔の人は晒し首とかを平気で眺めてたんでしょうかね?
少なくとも武士は平気だったでしょうね。
今ほど残虐という印象がなかったような気がします。
討ち取った首とそれを取った者を記録する帳簿(首帳)があったと、信長家臣の従軍記者・太田牛一が「信長記」で書いているくらいで、出世の為、死んだ味方の首を狩る人もいたのではないでしょうか。
>平将門の首は七条河原から江戸まで飛んでいったとか?
恨みは大きいというお話^^
映画にもなった「帝都物語」はそれが主題だったような?
>なんだか男優陣が柔な男ばっかりじゃないですか? 今時はあんなもんですか?
あんなもんです^^
しかし、加瀬亮は「アウトレイジ」以来結構凄味を出すのが上手になりましたよ。昔の俳優のようなわけにはなかなか行きませんが。