映画評「陰陽師0」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・佐藤嗣麻子
ネタバレあり
夢枕獏の小説シリーズの映画化。20年くらい前に2本作られて割合楽しんだ記憶がある。
本作は、0とあるように、旧作2本より若い安倍晴明の活躍を描いている。
脚色・監督の佐藤嗣麻子は、数年来煩く語ってきた古代日本語が現代人に解るわけがないという主旨の僕のブログを読んだようで(ジョークですよ!)、現代人にはほぼ理解できようもない古代日本語を途中で現代日本語に置き換えるというアイデアを投入した(こういうアイデアは、ドイツ語を英語に置きかえる瞬間を見せる「ニュールンベルグ裁判」以来だ)。
通常 “約束” として当たり前のように始まるところを、 律儀にも “第4の壁” を翻訳機として進めるという意思表示をしたわけである。これこそ約束で済ませて良いのだが、厳然と平安時代の日本語は今と違うということを世に知らしめたことに対し、映画ファンではなく、国語博士(本作に倣って言いました)として快哉を叫びたい気持ちだ。
10世紀中葉、陰陽寮の学生(がくしょう)の身ながら物凄い能力を持っている安倍晴明(山崎賢人)が、徽子=よしこ=女王(奈緒)と相思相愛の関係にある雅楽得意の貴族源博雅(染谷将太)に頼まれ、彼女の周辺で起こる奇怪なオカルト的事件を解決するなどする日常のうちに、天文博士(北村一輝)と陰陽頭(小林薫)の出世欲が惹き起こす事件に巻き込まれて悪戦苦闘する、というお話。
清明の事実至上主義に則り、本作のファンタジー世界は全て個人の意識下即ち内面の世界であり、結果においてのみ現実とリンクするところが出て来るという作劇になっている。
2000年代以降欧米映画でよく作られた哲学的SFであり、考え方によってはサイコ・スリラーでもあり、村上天皇の命令により後宮に入ることを余儀なくされる徽子女王と博雅が意識の世界で繋がっているという観念を得ることで幸福感を邪魔されない心境に到達するところなど、過度に合理的な解釈を求めない限り、一通りの面白味を感じられる。
リアルさより美しさを求めた感のあるVFXにも割合好感が持てる。具体的に言えば、近代美術的な建築物内で、周囲の寒々とした景色が春のような華やかなものに変わっていくところなどには、CGという絵だからこそ味わえる美しさがあるわけで、これにリアルさを求めても何の意味の無いことは自明。
0というタイトルは清明その人の成長ではなく、清明と博雅の関係性に言及したものと解釈できる内容でした。
この間NHK「新プロジェクトX」に山崎貴の夫人として佐藤監督が出てきました。いつの間にか結婚していたんだな。
2024年日本映画 監督・佐藤嗣麻子
ネタバレあり
夢枕獏の小説シリーズの映画化。20年くらい前に2本作られて割合楽しんだ記憶がある。
本作は、0とあるように、旧作2本より若い安倍晴明の活躍を描いている。
脚色・監督の佐藤嗣麻子は、数年来煩く語ってきた古代日本語が現代人に解るわけがないという主旨の僕のブログを読んだようで(ジョークですよ!)、現代人にはほぼ理解できようもない古代日本語を途中で現代日本語に置き換えるというアイデアを投入した(こういうアイデアは、ドイツ語を英語に置きかえる瞬間を見せる「ニュールンベルグ裁判」以来だ)。
通常 “約束” として当たり前のように始まるところを、 律儀にも “第4の壁” を翻訳機として進めるという意思表示をしたわけである。これこそ約束で済ませて良いのだが、厳然と平安時代の日本語は今と違うということを世に知らしめたことに対し、映画ファンではなく、国語博士(本作に倣って言いました)として快哉を叫びたい気持ちだ。
10世紀中葉、陰陽寮の学生(がくしょう)の身ながら物凄い能力を持っている安倍晴明(山崎賢人)が、徽子=よしこ=女王(奈緒)と相思相愛の関係にある雅楽得意の貴族源博雅(染谷将太)に頼まれ、彼女の周辺で起こる奇怪なオカルト的事件を解決するなどする日常のうちに、天文博士(北村一輝)と陰陽頭(小林薫)の出世欲が惹き起こす事件に巻き込まれて悪戦苦闘する、というお話。
清明の事実至上主義に則り、本作のファンタジー世界は全て個人の意識下即ち内面の世界であり、結果においてのみ現実とリンクするところが出て来るという作劇になっている。
2000年代以降欧米映画でよく作られた哲学的SFであり、考え方によってはサイコ・スリラーでもあり、村上天皇の命令により後宮に入ることを余儀なくされる徽子女王と博雅が意識の世界で繋がっているという観念を得ることで幸福感を邪魔されない心境に到達するところなど、過度に合理的な解釈を求めない限り、一通りの面白味を感じられる。
リアルさより美しさを求めた感のあるVFXにも割合好感が持てる。具体的に言えば、近代美術的な建築物内で、周囲の寒々とした景色が春のような華やかなものに変わっていくところなどには、CGという絵だからこそ味わえる美しさがあるわけで、これにリアルさを求めても何の意味の無いことは自明。
0というタイトルは清明その人の成長ではなく、清明と博雅の関係性に言及したものと解釈できる内容でした。
この間NHK「新プロジェクトX」に山崎貴の夫人として佐藤監督が出てきました。いつの間にか結婚していたんだな。
この記事へのコメント
先日、奈良県桜井市にある安倍晴明生誕の地と言われている安倍文殊院に行ってきました。文殊菩薩と陰陽道の関係など面白そうなことは色々あるのですが、そこまでは深入りせずに国宝7体を拝ませて頂きました。親子連れが多いなぁと思ったら、受験の時期でした。合格祈願の絵馬が沢山ありました。
京都市内にある晴明神社は映画で有名になる前はもっぱら地元民の人生相談所として有名でしたが、映画で有名になってからは若者がゾロゾロと参拝するようになって星マークのグッズが売れているようです。
最近は羽生結弦君のフィギュアのタイトルで更に知れ渡り、オリンピック前は優勝祈願の絵馬が一杯ぶら下がっていたらしいです。
>先日、奈良県桜井市にある安倍晴明生誕の地と言われている安倍文殊院に行ってきました。
いいなあ。
京都もいいけど、奈良も行きたいなあ。
唐突ですが、当方、六十半ばにして終活に入る^^
まず、会社員時代の同僚(後輩)二人と3月に会うことに。比較的近い埼玉県まで車を走らせ、老人会を行う予定。
また、当ブログの記事に時に繰り出す旧友K君と三十云年ぶりに会う算段をしています。彼が東京に残り、お互い忙しい身(特に彼は銀行員エリートなので超多忙だったと聞く)なので、年賀状のやり取りと数年に一度の電話だけで済ませていましたが、もう年齢も年齢なのでそれほど遠くない将来に会おうかと。新幹線に乗って上京、どこかで一緒に映画を観て、駄弁って帰って来る予定。これが最後になるかもしれない。僕にとっては安倍文殊院に行くくらい価値のあることでっせ^^