映画評「ナミビアの砂漠」
☆☆☆(6点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・山中瑤子
ネタバレあり
金原ひとみの「蛇とピアス」を読み終えた直後に本作を観た。ピアスも刺青も出て来て「蛇とピアス」みたいと思い、ウィキペディアを調べたら、本作を本格長編第1作とする山中瑤子なる若手監督は金原ひとみのファンだそうで、彼女の作品群に感化された内容らしい。またまた面白い偶然があった。最近本当にこの類が極めて多い。
脱毛エステサロンに勤めるカナ(河合優実)は、自称クリエイターのハヤシ(金子大地)と不動産勤務のホンダ(寛一郎)の間をフラフラしているが、結局満足できない。
ホンダは生活費を全て出し彼女の身の回りの面倒も見る無抵抗主義者。基本的には優しい自信家のハヤシは時に反論などもし、終盤では取っ組み合いの喧嘩もする。
何事にも満足できず、仕事場での暴言で勤務先を首になって自分に問題のあることに気付いた彼女は、カウンセリングを受ける。
ここで箱庭療法の様子が少し出て来るが、砂の上に植物を置いたそれが、彼女にとって、ナミビアの砂漠なのだろう。
日本にいて余りに隔たれたアフリカの地を想像すること自体が彼女の双極性を示すと同時に、彼女の虚無的な心と、そこに潤い(水)を見出そうとする意思を感じさせる。
考えが極端の為に人との適切な関係性を構築できない一方で人に見捨てられることを恐れるというタイプを境界性パーソナリティー障害と言うらしく、恐らく彼女はそれを患っている。
終盤彼女が自己を相対化できたように見えるのは進歩であろうし、この終盤は何をしても面白くなかった彼女の心に曙光が射したという風に解釈できるのではないか。
かくして「キャンプダホイ」の歌に乗って彼女と隣人が焚火を無邪気に超える場面が、些か面倒臭いと思ってきたロートルを少し安心させる。ビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」(1973年)=偶然にも昨日NHKが放映=を想起させるのだが、山中監督はあの映画を観たことがあるだろうか?
心理学に支えられた純文学で、学問的に参考になる点も多いが、こういう面倒臭いお話はやはり苦手だ。寧ろ、ロングショットからズームで寄っていく開巻直後のショットなど随所に見られる面白い画面感覚のほうをより評価すべき内容と思う。
僕の周囲にカナとホンダに近そうな関係の若いカップルがいる。彼女は所謂メンヘラで、二人は相依存状態のように見える(と僕は聞く)。彼女にはせめてカナくらいの心境には達して欲しい。
2024年日本映画 監督・山中瑤子
ネタバレあり
金原ひとみの「蛇とピアス」を読み終えた直後に本作を観た。ピアスも刺青も出て来て「蛇とピアス」みたいと思い、ウィキペディアを調べたら、本作を本格長編第1作とする山中瑤子なる若手監督は金原ひとみのファンだそうで、彼女の作品群に感化された内容らしい。またまた面白い偶然があった。最近本当にこの類が極めて多い。
脱毛エステサロンに勤めるカナ(河合優実)は、自称クリエイターのハヤシ(金子大地)と不動産勤務のホンダ(寛一郎)の間をフラフラしているが、結局満足できない。
ホンダは生活費を全て出し彼女の身の回りの面倒も見る無抵抗主義者。基本的には優しい自信家のハヤシは時に反論などもし、終盤では取っ組み合いの喧嘩もする。
何事にも満足できず、仕事場での暴言で勤務先を首になって自分に問題のあることに気付いた彼女は、カウンセリングを受ける。
ここで箱庭療法の様子が少し出て来るが、砂の上に植物を置いたそれが、彼女にとって、ナミビアの砂漠なのだろう。
日本にいて余りに隔たれたアフリカの地を想像すること自体が彼女の双極性を示すと同時に、彼女の虚無的な心と、そこに潤い(水)を見出そうとする意思を感じさせる。
考えが極端の為に人との適切な関係性を構築できない一方で人に見捨てられることを恐れるというタイプを境界性パーソナリティー障害と言うらしく、恐らく彼女はそれを患っている。
終盤彼女が自己を相対化できたように見えるのは進歩であろうし、この終盤は何をしても面白くなかった彼女の心に曙光が射したという風に解釈できるのではないか。
かくして「キャンプダホイ」の歌に乗って彼女と隣人が焚火を無邪気に超える場面が、些か面倒臭いと思ってきたロートルを少し安心させる。ビクトル・エリセの「ミツバチのささやき」(1973年)=偶然にも昨日NHKが放映=を想起させるのだが、山中監督はあの映画を観たことがあるだろうか?
心理学に支えられた純文学で、学問的に参考になる点も多いが、こういう面倒臭いお話はやはり苦手だ。寧ろ、ロングショットからズームで寄っていく開巻直後のショットなど随所に見られる面白い画面感覚のほうをより評価すべき内容と思う。
僕の周囲にカナとホンダに近そうな関係の若いカップルがいる。彼女は所謂メンヘラで、二人は相依存状態のように見える(と僕は聞く)。彼女にはせめてカナくらいの心境には達して欲しい。
この記事へのコメント
河合優実は注目している女優です。
ちょうど昨日の日本アカデミー賞で主演女優賞を受賞したのは嬉しかったです。
受賞した作品「あんのこと」も良い映画でしたよ。
(こちらもアマプラで観られます。)
最近は難しい役を演じることが多いですが、本作の彼女の演技は特に激しかったですね。
>河合優実は注目している女優です。
そうですか。
日本にも色々と面白い女優が出てきましたね。
>受賞した作品「あんのこと」も良い映画でしたよ。
TVでCMを見て気にはなっていました。上手い広告でしたね。
本当にプライムビデオにありました^^v