映画評「窓」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1949年アメリカ映画 監督テッド・テズラフ
ネタバレあり
昨年末植草甚一の著書「サスペンス映画の研究」でこの映画が好意的に紹介されていて、少し気になっていたのだが、プライムビデオにあったので初鑑賞。
コーネル・ウールリッチの短編「非常階段」The Boy Cried Murder をテッド・テズラフが映画化。テズラフはアルフレッド・ヒッチコック監督「汚名」(1946年)での撮影監督を最後に監督業に転身した人だが、監督作を僕は観たことがないと思う。
脚色は「らせん階段」(1946年)のメル・ディネリ。他の作品の知名度を考えると、この二作が代表作となるらしい。
暑い夏。夢見がちでホラばかり吹いている12歳くらいの少年トミー(ボビー・ドリスコル)が、嘘の為に干された後暑さ凌ぎもかねてアパートの非常階段で横になっている時、上階のケラーソン夫婦(ポール・スチュワート、ルース・ローマン)が男を刺殺するのを目撃する。これを両親(アーサー・ケネディ、バーバラ・ヘール)に告げるが、普段の虚言癖が祟って相手にされない。
翌日少年は警察に行く。一応一人の警官がケラーソン夫婦の部屋に修理工務店と偽って(アパートが老朽化著しく、夫婦は少しも怪しまない)入り込むが、それらしい痕跡は発見できない。
それを知った母親は先方に迷惑をかけたと、わざわざ謝りに行く。ここから少年にとっての恐怖の時間が始まる。
ウールリッチらしい優れた着想と言うべし。
父親に“嘘はつくな”と言われたことによって少年が益々“殺害を目撃した”と言わなければならないというのもジレンマとして機能してなかなか面白い。
母親が姉の見舞いで、父親が夕方からの出勤する不在の中いよいよ夫婦(夫だけですがね)はトミーを亡き者にしようと部屋に侵入して来て、そこから必死に逃げる。
夜での逃避劇なのでライトなしの場面ばかりだが、最近の映画と違ってそれなりに把握しやすく見せている。限られた光とそれが生み出す影を上手く使って自分が少年になったような立場で大いにヒヤヒヤさせられる。
序盤少年が寝るのに使った毛布はもっとサスペンスフルに使えただろう。また、死体の処理や捕まえた少年の扱いにおける犯人側の知恵の無さに興醒めるところがあるが、後者は恐らくヘイズ・コードを意識して犯罪者の行動原理にもとるものになってしまったのだと推量する。
それでも、「ヒッチコック劇場」的な設定が見事に機能した佳作になっていると言って憚らない。73分の小品だから、【山椒は小粒でもぴりりと辛い】という表現がぴったりと来る。
【オオカミ少年】的教訓譚の典型ですな。
1949年アメリカ映画 監督テッド・テズラフ
ネタバレあり
昨年末植草甚一の著書「サスペンス映画の研究」でこの映画が好意的に紹介されていて、少し気になっていたのだが、プライムビデオにあったので初鑑賞。
コーネル・ウールリッチの短編「非常階段」The Boy Cried Murder をテッド・テズラフが映画化。テズラフはアルフレッド・ヒッチコック監督「汚名」(1946年)での撮影監督を最後に監督業に転身した人だが、監督作を僕は観たことがないと思う。
脚色は「らせん階段」(1946年)のメル・ディネリ。他の作品の知名度を考えると、この二作が代表作となるらしい。
暑い夏。夢見がちでホラばかり吹いている12歳くらいの少年トミー(ボビー・ドリスコル)が、嘘の為に干された後暑さ凌ぎもかねてアパートの非常階段で横になっている時、上階のケラーソン夫婦(ポール・スチュワート、ルース・ローマン)が男を刺殺するのを目撃する。これを両親(アーサー・ケネディ、バーバラ・ヘール)に告げるが、普段の虚言癖が祟って相手にされない。
翌日少年は警察に行く。一応一人の警官がケラーソン夫婦の部屋に修理工務店と偽って(アパートが老朽化著しく、夫婦は少しも怪しまない)入り込むが、それらしい痕跡は発見できない。
それを知った母親は先方に迷惑をかけたと、わざわざ謝りに行く。ここから少年にとっての恐怖の時間が始まる。
ウールリッチらしい優れた着想と言うべし。
父親に“嘘はつくな”と言われたことによって少年が益々“殺害を目撃した”と言わなければならないというのもジレンマとして機能してなかなか面白い。
母親が姉の見舞いで、父親が夕方からの出勤する不在の中いよいよ夫婦(夫だけですがね)はトミーを亡き者にしようと部屋に侵入して来て、そこから必死に逃げる。
夜での逃避劇なのでライトなしの場面ばかりだが、最近の映画と違ってそれなりに把握しやすく見せている。限られた光とそれが生み出す影を上手く使って自分が少年になったような立場で大いにヒヤヒヤさせられる。
序盤少年が寝るのに使った毛布はもっとサスペンスフルに使えただろう。また、死体の処理や捕まえた少年の扱いにおける犯人側の知恵の無さに興醒めるところがあるが、後者は恐らくヘイズ・コードを意識して犯罪者の行動原理にもとるものになってしまったのだと推量する。
それでも、「ヒッチコック劇場」的な設定が見事に機能した佳作になっていると言って憚らない。73分の小品だから、【山椒は小粒でもぴりりと辛い】という表現がぴったりと来る。
【オオカミ少年】的教訓譚の典型ですな。
この記事へのコメント
子どもが主役なのは、ハズレも少なめ。
アーサー・ケネディ、バーバラ・ヘイル、ルース・ローマン、名前知ってる!というだけで、うれしくなりますねえ。
>アーサー・ケネディ、バーバラ・ヘイル、ルース・ローマン、名前知ってる!
知っちょる、知っちょる!
バーバラ・ヘイルは、「新・明日に向って撃て!」のサンダンス・キッドを演じたウィリアム・カットのお母さんですね。
全部観たかったのですが、結局「捕えられた伍長」しか観られませんでしたが面白かったです。
その帰りに商店街の古本屋を覗いたらアンドレ・モーロワの「フランス敗れたり」があったので買って帰ったのですが、もう1冊アイリッシュの「さらばニューヨーク」というのを見つけました。昔、晶文社から出ていたハードカバーなので未読のはずで、先日来読んでいたところ、こちらでもアイリッシュの原作映画を取り上げられていたので奇遇がお好きなオカピー先生にご報告せねばと、長々と書いた次第です。
昨日シューベルトを聴いていたら(クラシックも聴くんですよ) 子供の頃に観た「未完成交響曲」という映画を思い出して、最近ご無沙汰していたアマプラを開いたら、なんと「あなたへのお勧め」の筆頭に「窓」があったのでびっくりしました!
これも奇遇というか、オカピー先生の念力が通じたのでしょうか?
近日中に「窓」を観るつもりです。
>近場の商店街にある小さな映画館
東京にいる旧友K君は、銀行を卒業して、名画座によく行っているようです。
名画座と言っても僕が東京にいた頃とは趣が変わり、幾つかの特集をシャッフルのように編成して上映する形式が多いようですね。
ルノワールはプライムビデオに幾つかありましたが、画質に余り感心しないんですよね。
>奇遇がお好きなオカピー先生にご報告せねばと、長々と書いた次第です。
好きと言うか何と言うか^^
奇遇は楽しいです。これが好きと言うことか(笑)
わざわざありがとうございます<(_ _)>
>これも奇遇というか、オカピー先生の念力が通じたのでしょうか?
あははは。そうかもです。
奇遇連合結成ですかね^^v