映画評「グレン・ミラー物語」
☆☆☆☆★(9点/10点満点中)
1953年アメリカ映画 監督アンソニー・マン
ネタバレあり
グレン・ミラーは僕が生涯初めて知ったジャズ・ミュージシャンである。
本作に出て来る曲は、1970年代後半に本作を初めて観る前から、よく知っていた。多分今回が3回目の鑑賞。
題名が示すように伝記映画で、近年のそれと違ってテーマを絞る形式ではなく、下積み時代から始めるから相当なスピードを持って、省略を重ねて進める為、じっくりしたドラマがお好きな方には不満が残るだろうが、僕は、実にうまく省略しているし、有名な楽曲の適切な使い方に、ご贔屓監督アンソニー・マンと脚本ヴァレンタイン・デイヴィズのセンスを大いに感じるのである。
山がないという意見は、ある意味正しい。
ミラー(ジェームズ・スチュワート)が結婚したヘレン(ジューン・アリスン)が流産で重体に陥る場面も、彼が出征中の飛行機事故で行方をくらますのも徹底的に省略する。大袈裟にできる場面で敢えてそれをしない。
その代わり、ミラーとヘレンにとって訳ありの「茶色の小瓶」が死後のクリスマス特別番組で披露される最後のシークエンスをじっくり見せ、映画勘の良い観客を夫婦愛で感動させるのである。
つまり山は途中にはなく最後に出て来るから、“山がないという意見は或る意味正しい”と言ったのである。
序盤のミラーとヘレンの関係性とやり取りも実に楽しく、全て最後への布石として効いてくる。
一方、やはりグレン・ミラーの音楽を聞かせる映画で、ベン・ポラック(本人)に認められた後から徐々に名ナンバーが聞かれるようになり、入隊してから慰問で一斉に披露される。バランス的に少し偏ってはいるが、グレン・ミラーの曲を知っている人には聞かせ方(画面の扱いを含め)の工夫により大いに楽しめるようになっている。
ペンシルヴェニア6-5000という電話番号が台詞で出て来た時、実エピソードを基にミラーがこの曲を考えたのか、あるいはお馴染みのこの曲を基に脚本家がその電話番号を台詞に取り入れたのか、と興味が湧いた。僕は後者と思う。ご存知の方は教えてください。
「ムーンライト・セレナーデ」「イン・ザ・ムード」「チャタヌガ・チュー・チュー」「真珠の首飾り」「アメリカン・パトロール」「タキシード・ジャンクション」といったお馴染みのナンバーの数々。楽しめない筈がない。
ポラックの他、ジーン・クルーパやフランシス・ラングフォードなどが本人役で登場するが、やはり「ベイズン・ストリート・ブルース」を演奏するルイ・アームストロングの登場が白眉であろう。赤青黄三色のフィルターを付けた照明器によって場面全体が次々とその色に染められるアイデアが抜群なのだ。
45年くらい前ジャズが解らないと言っていた兄がグレン・ミラーのレコードを聴いて “ジャズが解った!” と言うのを耳にし、苦笑したのを思い出す。1980年頃の定義においてグレン・ミラーは既にジャズというよりイージー・リスニングであって、当時人気のあったポール・モーリアなどと大差がなかった。やはりモダン・ジャズ(ハードバップ辺りまで。その後のフリージャズや前衛は解らなくて当然)に痺れないとジャズが解ったとは言えないと今でも思う。そもそも兄にとって歌詞の理解できる歌のみが音楽。“ちあきなおみの「雨に濡れた慕情」はピアノがジャズ風で良いんだよねえ“ と言うと、 “俺は歌しか聞かないから、 解らん” と言われたものだ。 兄貴、 半身不随は辛いだろうけど、頑張って長生きしろよ。
1953年アメリカ映画 監督アンソニー・マン
ネタバレあり
グレン・ミラーは僕が生涯初めて知ったジャズ・ミュージシャンである。
本作に出て来る曲は、1970年代後半に本作を初めて観る前から、よく知っていた。多分今回が3回目の鑑賞。
題名が示すように伝記映画で、近年のそれと違ってテーマを絞る形式ではなく、下積み時代から始めるから相当なスピードを持って、省略を重ねて進める為、じっくりしたドラマがお好きな方には不満が残るだろうが、僕は、実にうまく省略しているし、有名な楽曲の適切な使い方に、ご贔屓監督アンソニー・マンと脚本ヴァレンタイン・デイヴィズのセンスを大いに感じるのである。
山がないという意見は、ある意味正しい。
ミラー(ジェームズ・スチュワート)が結婚したヘレン(ジューン・アリスン)が流産で重体に陥る場面も、彼が出征中の飛行機事故で行方をくらますのも徹底的に省略する。大袈裟にできる場面で敢えてそれをしない。
その代わり、ミラーとヘレンにとって訳ありの「茶色の小瓶」が死後のクリスマス特別番組で披露される最後のシークエンスをじっくり見せ、映画勘の良い観客を夫婦愛で感動させるのである。
つまり山は途中にはなく最後に出て来るから、“山がないという意見は或る意味正しい”と言ったのである。
序盤のミラーとヘレンの関係性とやり取りも実に楽しく、全て最後への布石として効いてくる。
一方、やはりグレン・ミラーの音楽を聞かせる映画で、ベン・ポラック(本人)に認められた後から徐々に名ナンバーが聞かれるようになり、入隊してから慰問で一斉に披露される。バランス的に少し偏ってはいるが、グレン・ミラーの曲を知っている人には聞かせ方(画面の扱いを含め)の工夫により大いに楽しめるようになっている。
ペンシルヴェニア6-5000という電話番号が台詞で出て来た時、実エピソードを基にミラーがこの曲を考えたのか、あるいはお馴染みのこの曲を基に脚本家がその電話番号を台詞に取り入れたのか、と興味が湧いた。僕は後者と思う。ご存知の方は教えてください。
「ムーンライト・セレナーデ」「イン・ザ・ムード」「チャタヌガ・チュー・チュー」「真珠の首飾り」「アメリカン・パトロール」「タキシード・ジャンクション」といったお馴染みのナンバーの数々。楽しめない筈がない。
ポラックの他、ジーン・クルーパやフランシス・ラングフォードなどが本人役で登場するが、やはり「ベイズン・ストリート・ブルース」を演奏するルイ・アームストロングの登場が白眉であろう。赤青黄三色のフィルターを付けた照明器によって場面全体が次々とその色に染められるアイデアが抜群なのだ。
45年くらい前ジャズが解らないと言っていた兄がグレン・ミラーのレコードを聴いて “ジャズが解った!” と言うのを耳にし、苦笑したのを思い出す。1980年頃の定義においてグレン・ミラーは既にジャズというよりイージー・リスニングであって、当時人気のあったポール・モーリアなどと大差がなかった。やはりモダン・ジャズ(ハードバップ辺りまで。その後のフリージャズや前衛は解らなくて当然)に痺れないとジャズが解ったとは言えないと今でも思う。そもそも兄にとって歌詞の理解できる歌のみが音楽。“ちあきなおみの「雨に濡れた慕情」はピアノがジャズ風で良いんだよねえ“ と言うと、 “俺は歌しか聞かないから、 解らん” と言われたものだ。 兄貴、 半身不随は辛いだろうけど、頑張って長生きしろよ。
この記事へのコメント
こちらも大好きな映画!
音楽家を描いた映画としては『アマデウス』に次ぐ傑作だと思っています。
楽曲がそれぞれの場面で効果的に使われてましたね。
この作品のジェームズ・スチュワートも良いです。
と言いながら細かい部分の記憶は薄れつつあるので再鑑賞したいです。
>音楽家を描いた映画としては『アマデウス』に次ぐ傑作だと思っています。
グレン・ミラーの曲をある程度知っていることが前提となり、若い人にはピンと来ない進め方かもしれませんが、けれんのない作り方が好きですよ。
音楽家伝記映画の中ではトップ・クラスの傑作でしたね。アンソニー・マンは良い監督です。
確かにグレン・ミラーはあまり今で言うところのジャズっぽくはないし、うちにもレコードはないですね。
「ベニー・グッドマン物語」のベニー・グッドマンの方は今でもジャズビッグバンドとして認識されているかな?
でも当時は2つの映画のせいか、このお二人を混同しがちでしたね。グッドマンは大学生になってチャーリー・クリスチャンやビリー・ホリデイ繋がりでやっとジャズの大御所と認識できるようになりました。
( このお二人、実際に年齢も近いし容貌も結構似てますよね)
ちなみに私の初めて知ったジャズマンはソニー・ロリンズです。
多分「アルフィー」繋がりで兄が買ってきたんだと思いますが、幸せなジャズとの出会いでした。いきなりマイルスだったらきつかったと思います。
「茶色の小瓶」は小学生の頃、NHKみんなの歌で覚えましたがこの映画を観るまでグレン・ミラー作だとは知りませんでした。
ちゃいろ〜のこびん、パパのおくりもの〜 🎶 以下不明… 😆
>「ベニー・グッドマン物語」のベニー・グッドマンの方は今でもジャズビッグバンドとして認識されているかな?
されていると思います。
ジャズのお薦めレコードなりCDの本を読みますと、グレン・ミラーはまずないですが、グッドマンは必ず出てきます。
>ちなみに私の初めて知ったジャズマンはソニー・ロリンズです。
「アルフィー」はロリンズを知る前にTVの吹替版を見ました。ジャズという意識はなかったですが、音楽が印象に残りましたね。
グレン・ミラーを別にして、僕が初めて知ったのはジョン・コルトレーン(何回も言っているような気もします)。FMで流れているのを聞いて興味を覚えました。
>「茶色の小瓶」は小学生の頃、NHKみんなの歌で覚えました
へぇ~。みんなの歌で「茶色の小瓶」ですか!
みんなのうたでは放映されていませんでした。
という事はいったい何処で覚えたのかと、記憶を辿ったところ、幼稚園の時に通っていたヤマハオルガン教室だという事が判明しました。
youtube で検索して聴いてみても私の記憶に残る歌詞と違うのは、当時日本では好き勝手に日本語歌詞をつけていたからなようです。
ついでにグレン・ミラー作ではなくてアメリカ民謡でしたね。
映画でも街角で耳にして気に入ってる場面があったような気がします。
以上訂正させて頂きます。
>グレン・ミラー作ではなくてアメリカ民謡でしたね。
映画の中でもミラー自身が説明していました。
しかし、日本人が知っているのは殆どミラーのアレンジのものでしょうね。
>みんなのうた
今日の新聞で、空襲の証言をしている人が、「みんなのうた」の制作に絡んだと書いてありましたよ。
>当時日本では好き勝手に日本語歌詞をつけていたからなようです。
今のように権利意識がなかったのでしょうね。
映画を観てもハリウッド映画のパクリが結構多かったり。時代ですね。