映画評「ヒットマン」(2023年)

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年アメリカ映画 監督リチャード・リンクレイター
ネタバレあり

リチャード・リンクレイターはこのところコメディーづいているようである。

大学で心理学を教えながら、警察に協力するゲイリー・ジョンスン(グレン・パウエル)が、暴力事件の為に休職に追い込まれた前任者ジャスパー(オースティン・アメリオ)の代わりに、殺人希望者の願いを叶える殺し屋の振りをして、相手を逮捕させる囮捜査を任されることになる。

これが実話を基にしているというのだから驚きだが、日本ではそもそも囮捜査ができないし、日本の警察には何件が記憶のあるストーカー殺人を見ても事が起きないと動かないという体質がある。【危害を警戒し、これを未然に察する】という警察の語源に反する組織となっているのである。

ゲイリーは、生まれついて役者の資質があったのか、巧みに架空の殺し屋ロンとして依頼者に接近して順調に逮捕に導いていくが、美人マディスン(アドリア・アルホナ)には人生相談的に応じて、依頼を受けずに済ませる。この時点でかなりの確率で下心があったと推察されるのだが、案の定二人の仲は順調に育っていく。

個人的にはこの後が傑作で、彼女が殺そうとした不出来な夫が彼に妻とその愛人(ロンことゲイリーですな)を殺そうと接近してくるのである。
 本作がシチュエーション・コメディーと言える所以で、シチュエーション・コメディーの必要条件と言って良い嘘 and/or 誤解が上手く機能していると、嬉しくなった。
 これに比べると、その夫が殺されたことから起こるロン/ゲイリー=マディスンのカップルと警察の駆け引きは、ブラック・コメディーの捻りとしてそこまで面白いとは言えないように思う。

心理学に絡めて架空の人間を演ずるという、ペルソナ(仮面性)あるいはアイデンティティの問題を取り上げた面白味も一定の評価をしておきたい。

しかし、「ヒットマン」という題名・邦題の映画が多すぎる。

最後の一幕はフィクションだってさ。そりゃそうだろう。

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