映画評「殺したのは誰だ」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1957年日本映画 監督・中平康
ネタバレあり

中平康はご贔屓だが観ていない作品も多い。
 新藤兼人とのコンビ作では、「狙われた男」(1956年)という、アルフレッド・ヒッチコックを少し想起させるミステリー・サスペンスの小傑作があるので、題名からそのようなタイプの作品を期待したが、その意味では期待外れ。ミステリーではなく、サスペンス映画と少々違う意味でのサスペンスは随所にあっても、どちらかと言えば新藤のメイン・フィールドである社会性のある人間劇と言うべき内容だ。

当時は日本製の車が未熟で、アメリカ車が幅を利かせている。その老セールスマン菅井一郎が、若手の西村晃に車を売るチャンスを奪われてしまう。借金を抱えているので非常に痛い。彼は妻を失った後、家を去り内妻・山根寿子と過ごしているが、元の家で暮らす娘・渡辺美佐子も息子・小林旭も父親同様お金には苦労している。
 そんな老セールスマンに西村が車をわざとロータリーの車止めに衝突させる保険金詐欺を持って来る。しかし、彼は度胸がなくて実行できず、借金返済の目処が立たない。その代りを引き受けた車拭きの元締め野村泰司が死んでしまう。
 これに懲りない西村は山根寿子が経営する飲み屋にやって来て、菅井の息子とも知らずに小林に声を掛ける。父の苦境を知る若者は躊躇の末に仕事を受ける。

というお話で、この後は伏せることにするが、間接的に誰かを殺す人間は西村である。しかし、こうした悲劇を生むのは貧困あるいはお金なる存在ではないかと新藤兼人は言いたかったのであろう。

風俗的に色々楽しめる作品で、同一社内における激しい競争は、どちらかと言えば、アマゾンなどの配送員に似た個人営業に近い感覚があり、かなり凄まじい。
 「旅情」(1955年)における靴磨きに似た感覚で車拭きの仕事も紹介されてい、画面的にはここが一番中平康的で面白い。一組の車拭きからカメラを移動すると別の車拭きがフレームインして来、以降はカメラを大して動かさない代わりに一台の車が消えると別の車拭きのグループが見え、その形で矢継ぎ早にもう3組くらい紹介するのである。

二回出て来るロータリーでのカメラワーク(撮影監督姫田真佐久)も、映画的にワクワクするものがある。
 ここでの、車が画面に奥の消えかかったところで上方の鉄道橋を抜ける列車が激しい音を立てて観客にショックを惹起し、やり直しの2回目では逆にシーンとして遠のいていく車の音がずっと聞こえる。この辺りの画面と音の組合せ(の対照)が秀逸で、どちらの場面もスリルを大いに醸成する。
 小林旭が苦い経験をするビリヤード場の場面も良い。但し、僕はビリヤードのルールを知らないので、潜在力ほど楽しめたとは言えない。

【キネマ旬報】ベストテンの上位には全く縁のなかった戦後の日活映画も、映画マニア的にはおいしい作品が多い。

この記事へのコメント