映画評「悪は存在しない」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2023年日本映画 監督・濱口竜介
ネタバレあり
濱口竜介は、時に即興演出も交えるセミ・ドキュメンタリーの監督と言えると思う。本作も4分の3くらいまではそのスタイルを維持するが、最後の一幕で突然神話になり、びっくりした。新境地だろうか?
ある山村に芸能事務所の余業(助成金に関連があると噂される)で、グランピング場開発が計画され、村人に対する説明の為に事務所の小坂竜士と渋谷采郁が訪れる。
村人は環境に関連して鋭くかつ尤もな意見を放ち、二人を動揺させる。二人は社長とコンサルタントに廃案を訴えるが、村で便利屋をしている大美賀均を管理人にすれば全て解決するはずと言われて二人は急行する。彼は拒否するが、それ以前に小坂は事務所で働くより管理人になっても良いかなと思い始める。
水運びなど三人が行動を共にした後、大美賀の娘の西川玲が行方不明になり、村人を挙げて捜索をする。
この映画が神話になるのは、娘が行方不明になるところからである。
現実にも起こりうるような開発について説明会を持つ前半が意外に面白い。
旧作でも似たような、即興演出と思われる場面があったが、本作は無名の役者の演技を含め一番フィクショナルな感覚があり、予想外に楽しめる。それをサンドウィッチする、まき割や水汲みの場面も何故か退屈感を覚えさせない。延々と撮り続けるまき割はどこか緊張感を帯びる。
問題は娘の失踪以降の展開で、大美賀が手負いの鹿の親子と対峙する娘を野原に見出すと、突然隣にいる小坂に襲い掛かり窒息死させようとする。
当初は全く意味不明だったが、風呂に入っている時に考えて朧気に見えるものがあった。正確な因果関係は依然解らないものの、最後の夜空を俯瞰するカメラのアングルは人間ではなく鹿のもののように見える。すれば、大美賀は手負いの鹿そのものか、 その鹿の化身である。 彼は事前に小坂に“鹿は手負いの時か子供を守ろうとする時人を襲うことがある”と述べている。
人間・大美賀は娘と鹿を見ているから鹿そのものということはないはず、という考えは成り立つが、先の言葉は人間・大美賀の考えを表すというより、鹿の言葉を代弁していると考えるのが妥当だろう。
そして、この理解において大美賀=手負いの鹿は明らかに環境破壊の寓意である。芸能事務所社長やコンサルタントより遥かに村に近い小坂が襲われるのは不合理であるが、それが“神話”の特徴でもあろう。
かくかくしかじか。
2023年日本映画 監督・濱口竜介
ネタバレあり
濱口竜介は、時に即興演出も交えるセミ・ドキュメンタリーの監督と言えると思う。本作も4分の3くらいまではそのスタイルを維持するが、最後の一幕で突然神話になり、びっくりした。新境地だろうか?
ある山村に芸能事務所の余業(助成金に関連があると噂される)で、グランピング場開発が計画され、村人に対する説明の為に事務所の小坂竜士と渋谷采郁が訪れる。
村人は環境に関連して鋭くかつ尤もな意見を放ち、二人を動揺させる。二人は社長とコンサルタントに廃案を訴えるが、村で便利屋をしている大美賀均を管理人にすれば全て解決するはずと言われて二人は急行する。彼は拒否するが、それ以前に小坂は事務所で働くより管理人になっても良いかなと思い始める。
水運びなど三人が行動を共にした後、大美賀の娘の西川玲が行方不明になり、村人を挙げて捜索をする。
この映画が神話になるのは、娘が行方不明になるところからである。
現実にも起こりうるような開発について説明会を持つ前半が意外に面白い。
旧作でも似たような、即興演出と思われる場面があったが、本作は無名の役者の演技を含め一番フィクショナルな感覚があり、予想外に楽しめる。それをサンドウィッチする、まき割や水汲みの場面も何故か退屈感を覚えさせない。延々と撮り続けるまき割はどこか緊張感を帯びる。
問題は娘の失踪以降の展開で、大美賀が手負いの鹿の親子と対峙する娘を野原に見出すと、突然隣にいる小坂に襲い掛かり窒息死させようとする。
当初は全く意味不明だったが、風呂に入っている時に考えて朧気に見えるものがあった。正確な因果関係は依然解らないものの、最後の夜空を俯瞰するカメラのアングルは人間ではなく鹿のもののように見える。すれば、大美賀は手負いの鹿そのものか、 その鹿の化身である。 彼は事前に小坂に“鹿は手負いの時か子供を守ろうとする時人を襲うことがある”と述べている。
人間・大美賀は娘と鹿を見ているから鹿そのものということはないはず、という考えは成り立つが、先の言葉は人間・大美賀の考えを表すというより、鹿の言葉を代弁していると考えるのが妥当だろう。
そして、この理解において大美賀=手負いの鹿は明らかに環境破壊の寓意である。芸能事務所社長やコンサルタントより遥かに村に近い小坂が襲われるのは不合理であるが、それが“神話”の特徴でもあろう。
かくかくしかじか。
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