古典ときどき現代文学:読書録2025年夏号
暑いですねえ。そして、あっという間に三か月が経ちますねえ。この間 (かん) 色々とイレギュラーな出来事があり、思ったように読書もできませんでしたが、まあ短めの作品を多めにして、何とか体裁を整えることができました。
新しいパソコンの入力方法にも慣れて、寧ろ前以上に速く打てるようになったかもしれません。
このところミステリーを読むことが増え、常連からのお薦めにミステリーが多いことも拍車をかけています。黄金時代のミステリーから、ほやほやの新作までヴァラエティも豊かにという感じ。と言っても、3か月ですからたかが知れていますが。奇作もありましたねえ。詳細はリストにてどうぞ。
一方、目が悪くなって(近視・乱視・白内障)自動車免許更新が覚束なくなり図書館に通えなくなるかもという懸念が益々強くなっているので、電子書籍でまともには読めないであろう漢籍を3か月に一つくらいは読んでおくことに。皆様の関心の薄い分野ではありましょうが、ここまで読み込んできた以上は後には引けません。今回読んだ「淮南子」は凄いものですよ。前漢時代にまとめられたものなのに現在のダイヴァーシティに通ずる観念がありました。
作品数を稼ぐには便利この上ない芥川賞シリーズも2005年まで来ました。大近作となると、図書館だけに頼ると借りられていてなかなか読めませんが、後十年分くらいはすんなり読めるでしょう。
その他ミステリー以外の外国文学もぼちぼちと。こちらに関してはちょっと読み足りない感がありますが、そう欲もかけません。次回にとっておくことにします。
前口上はこのくらいにしましょう。それでは、リストをご笑覧ください。
上林 暁
「聖ヨハネ病院にて」
★★★精神に問題を抱え失明もした病妻を看病する作者の揺れる心情を綴る私小説中編(やや長めの短編)。滋味あふれる佳作と言うべし。前段に「明月記」という短編があるが、今回は読めず。
木山 捷平
「耳学問」
★★やはり私小説作家の木山が、満州時代にいかにシベリヤ送りを免れたか、を綴る。文庫本にして20ページくらいの短編だから、興味深いという程度の印象に留まる。
ディーノ・ブッツァーニ
「タタール人の砂漠」
★★★★砦に派遣された若い将校が恐らくは永遠にやってこない敵の来襲に備えるうちに年を取ってしまう。カフカの「城」のような印象もあるが、期待通りには行かない人生を鮮やかに象徴させていると思われ見事と思う。不条理なのはカフカ的世界ではなく、実際の人生ということ。
京極 夏彦
「鉄鼠の檻」
★★★★ある山奥の寺を巡る、謎の二重奏。一つは寺の僧侶たちの不可解な死体の謎、一つは寺の周囲に出没する年を取らない少女の謎。後者に関しては早々に解けたと思ったのに見事にやられた。京極先生が僕如きの解けるそんな安易な設定はしますまいな。大事なのは僧侶の連続殺人で、禅と悟り(とその関係性)について微に入り細を穿つ形で説明され、ミステリーを読むうちにちょっとした仏者になれそうな気がする。僧侶の得た悟りは永続性があるとは思えず空しいものがあるが、この宗教哲学ミステリーで案外重要なのではないかと思われるのが、成功ばかりを目指す俗物・愚物だった山下警部補の自信喪失を経ての “悟り” だ。この悟りは恐らく永続的で、彼はこの後成功するのではないか。日本ではまずなかった本格宗教ミステリーで、ページ数以上にヘヴィーで疲労する。その価値はなかなか把握しきれないという思いがある為★4つ。
モブ・ノリオ
「介護入門」
★★★第131回(2004年上半期)芥川賞受賞作。ラップを小説化するとこんな感じになるという小説で、軽薄そうな金髪でラップの乱暴な言葉遣いをし、おまけに麻薬乱用癖のある青年の心底には、常識人の心優しさがある。そこにじーんとする。
阿部 和重
「グランド・フィナーレ」
★★★第132回(2004年下半期)芥川賞受賞作。ロリコンと上記「鉄鼠の檻」にも出て来る小児性愛者は厳密には違うと思うが、教育映画を撮りながら、それに出演する少女らの裸体画像を集めていた主人公の、妻にその趣味が、おまけに自分の娘のものが入っていることがばれて接近禁止命令を下された後のもがく姿を綴る。第二部で自らの問題を相対化できたと思われる主人公が、小学高学年少女の親友同士の別離に絡む演劇を真摯に面倒を見るようになる。幕切れが爽やかと言うと語弊があるものの、少女二人の別離の悲しさからの自殺の可能性を心配する主人公は克己している。作者が命題としているわけではないが、相手を傷つける可能性があるとは雖も、そもそもロリコン者は本当に怪物なのかという疑問がある。
「馬小屋の乙女」
★やはり性絡みの短編。今度は性具コレクターだってさ。コント的展開に面白味がなくもなく、10編くらいある短編集の中で読めばもっと良いかもしれない。
「新宿ヨドバシカメラ」
★これも性絡みの短編。人間の体と街の作りをオーヴァーラップさせ、次第に地名に焦点をずらすところが興味深いものの、意味不明に近い。
「20世紀」
★★「馬小屋の乙女」と同じく神町(じんまち)という東北の街を舞台に展開するが、こちらはなかなか品が良く爽やか。阿部和重という作家は地名に拘わる作家らしい。
ジューナ・バーンズ
「夜の森」
★イーディス・ウォートンより四半世紀くらい後の女流作家だが、ヘンリー・ジェイムズ的な男女の扱いにおいて共通するものを覚える。自らをオーストリア貴族と粉飾するユダヤ男性と結婚したロビンが、やがて出奔し、ノラやジェニーといった女性と同棲を続ける、というよく解らないお話で、性愛的な描写はないものの、ロビンたちは同性愛者だったということだろう。恐らく原文からして甚だ読みにくい文章であることが伺われ、読み進むのに難儀した。しかし、意外にもこの本を読んだ人が多い模様。
サミュエル・バトラー
「エレホン」
★★★欧州大陸のどこかにあるエレホン (nowhereのアナグラム) なる場所。そこでは犯罪が病気で、病気が犯罪であり、機械がほぼ廃されている。牧歌的ながらユートピアとも言えない。そんな場所に入ってしまった英国人による見聞録という体裁で進行するが、ヴィクトリア朝時代の風刺と読める。19世紀後半に打ち出された進化論を機械に敷衍した結果、現在のAIと人間の関係を予想させるところに凄味がある。
有栖川 有栖
「孤島パズル」
★★★「十角館の殺人」に似て、大学ミステリー・サークルのメンバー三人がその一人の一族の暮らす島に滞在中に連続殺人事件に遭遇するクローズド・サークルもの。「十角館」とは違ってかなりオーソドックスだから、黄金時代のミステリーがお好きな方には行けるかもしれない。読者への挑戦という項目があるなどエラリー・クイーン崇拝が伺われる。
劉 安(編)
「淮南子」
★★★★★漢籍。劉安は前漢の淮南(わいなん)王。 日本では何故か通常 “えなんじ” と読む。 諸子百家の思想をベースとする思想書で、身体障碍者にも発達障害者にも人にはそれぞれ適した仕事があるというダイヴァーシティを先取するような考えに瞠目させられた。一番のベースは道家(老荘思想)だが、儒学や法家の良い部分は取り上げる。儒学でも法家でも自由を束縛するものはダメで、フレキシブルにできないものは行き詰るとし、現代人にこれほど納得できる諸子百家の本はないのではないか。陰陽五行説のようなところ以外は面白く読める。
モーリス・ルブラン
「虎の牙」(再)
★★★★ルパン・シリーズで最も長い作品で、二分冊になることが多い。僕が小学生の時に読んだポプラ社池田宣政版もサブタイトルの「虎の牙」と「フロランスの秘密」の題名で分かれていた。第一部「虎の牙」はミステリー度が高く、第二部「フロランスの秘密」は冒険度とサスペンス度が高い。とりわけ女性の冤罪ものであり、ロマンスが絡み、僕好みだった。大人となった今読むと手放しで賛嘆することはできないけれど、「水晶栓」「カリオストロ伯爵夫人」など若い美女の悲劇が絡むと僕は参ってしまう、ロマンティシズムに傾倒する少年だったことが解り、読み直した価値がある。星の数は当時と現在の中間くらいにします。
赤江 瀑
「オイディプスの刃」
★★★★妖剣を持つ愛刀家の家に滞在中の研ぎ師が殺害され、当主の妻が後追い自殺をし、愛刀家の当主も責任を取るかのように亡くなる。三人の両親の組み合わせが違う兄弟の真ん中の “次男”(母親の連れ子)の一人称的三人称で語られるどろどろしたミステリー。本格ミステリーではないが、題名の意味をさほどしないうちに直感的に理解する。いずれにしても、こんな題名なのだからこの三人のうちの誰かが最初の殺しをやったのは確か。
カミロ・ホセ・セラ
「ラ・アルカリアへの旅」
★★★作者は日本では知名度の低いスペインの作家だが、ノーベル文学賞を受賞している。スペインをめぐる紀行小説とされているものの、一人称を使わないだけで事実上の紀行文だ。
E・C・ベントリー
「トレント最後の事件」(再)
★★★作者は専業作家ではなく、本作によってのみ知られる。本格ミステリーに初めて本格的に恋愛要素を交えたところが有名になった所以の一つで、1913年に発表されたこの作品から30年代後半まで続く本格ミステリーの黄金時代が始まると言われているようだ。今の若い人が読んで面白いかどうか。
桐野 夏生
「柔らかな頬」
★★★★直木賞受賞作。3年半ほど前に映像版(2000年製作のTVドラマをまとめて2020年に劇場で上映したもの)を観ていることに暫くして気付いた僕はうっかり八兵衛だ。北海道の別荘から忽然と姿を消した5歳の幼女の行方を母親と末期癌の元刑事が調べ続けるが、結局幼女の行方も謎も解けない。ヒロインは娘探しを通じて自分の本性と対峙せざるを得ないという内容で、本格ミステリーの体裁でいながら結局謎を残すというのが純文学寄りの作品らしい一方で、二人の見る三つの夢が仮説として提示されるという仕組みはなかなか興味深い。
中村 文則
「土の中の子供」
★★★133回(2005年上半期)芥川賞受賞作。実の親に捨てられ、養父母に土の中に生まれたところを助けられて施設で育ち、現在はタクシー運転手をする主人公がそのトラウマにより、二、三の他者が加える暴力を自虐的に受け入れようとするうちに、死産の経験のある女性の元同僚との関係を経て、今更のこのこ現れた実父との面会を回避する心境に達する。父は過去の象徴であり、面会回避は過去を乗り越えたことをほぼ意味しよう。
「蜘蛛の声」
★★会社員生活から橋の下に逃げることで他者に対する優越感を感じた男が、やがて蜘蛛の声を聞き、幻想と現実の狭間を彷徨する、といったお話。現代人は面倒くさいものだねえ。
絲山 秋子
「勤労感謝の日」
★★★僕が通っている図書館は、作者の住む(僕は住んでいないものの自治体の提携で利用できる)高崎市の市立図書館である。そんな勤労ならぬ提携に感謝する。「沖で待つ」単行本に収録されていた短編で、上司を殴って首になった無職女性が見合いの現場から逃げ出し、OL時代の後輩などと駄弁る。それだけの内容だが、豪快な女性の日常感が良い。
「沖で待つ」
★★★134回(2005年下半期)芥川賞受賞作。映画「おくりびと」だったか別の作品だったか、孤独死をした人の部屋からエロ・ビデオが出て来る場面を見て、死んだ後のことなど知らんと思った僕も、秘事に近いことは知られてほしくないと思わないでもない。本作は生前生き残ったほうが死んだ者のHDDを壊すというけったいな約束をした同僚同士のお話。このお話のうら悲しくも後味が良い所以は同僚が男女であることだ。ヒロインは不慮の巻き込まれ事故(今年もあった投身自殺の巻き添え)で亡くなった同僚の部屋に入り込んで、亡霊の彼と話をするなんてところもあり、芥川賞受賞作としては結構変な内容。
ウィリアム・ホープ・ホジスン
「異次元を覗く家」
★★★ホジスンは東宝映画「マタンゴ」の原作となった短編小説「夜の声」で知られている作家で、こちらが長編の代表作。後輩ラヴクラフトに近いSFホラー系である。謎めいた場所に立つ謎めいた家に妹と共に越した初老の男性が、まずは豚のような外見を持つ異形の生命体(後の展開から推して地球外生命体)とかくれんぼ的闘争をした後、物凄いスピードで進む異次元に迷い込み、宇宙の神秘を見てしまう、といったお話。これを読むのが作者と思われる私という入れ子構造だ。SFとしては後半のほうが面白いと思う。
カルロ・レーヴィ
「キリストはエボリで止まった」
★★★★フランチェスコ・ロージ監督の映画「エボリ」の原作。ロージらしい硬派な反権力映画だった。レーヴィの自伝小説である。反ファシズム活動で南イタリアへの流刑に処されるが、北部から見れば蛮地とされる場所群(何度か移動する)の人々に医師として信頼された主人公はやがて刑期を終えて英雄として帰っていく。民俗学的面白味が満載と言うべし。中世的な気分さえある野趣溢れる風俗の点出が見事である一方、スペイン地方の野趣に溢れる「ラ・アルカリアへの旅」と混同してしまう可能性がありまする。
島田 荘司
「占星術殺人事件」
★★★★★ これにもまた ”読者への挑戦” があって、 エラリー・クイーン崇拝の気分が濃厚。同時に、40年前の迷宮事件の謎を解くべく動き出す素人探偵に当たる占星術師・御手洗潔とワトソンよりは賢そうなワトソン役石岡和己という配置はコナン・ドイル的であり、序盤の衒学ぶりはヴァン・ダイン的、日本で言えば「黒死館殺人事件」のようであったり、後に出て来る京極夏彦的でもある。僕はずっとこの作品の存在を知らなかったが、2012年の週刊文春による東西ミステリー・ベスト100の東(即ち日本)版第3位であり、それに値する力はあると思う。3件8人が亡くなる事件に絡む大きな謎が三つあり、そのうちアゾート殺人のトリックは圧巻。これを事前に解明できた方は賢い。
レーモン・クノー
「文体練習」
★★★★★ほぼ同じ小咄を、文学のあらゆるジャンルで、あるいは老若男女それぞれの視点で、あるいは変な細工を加えた文章で、綴るという変わり種。99種類もある。故に訳では楽しみ切れないものもあるのだが、逆に日本語故に楽しめてしまうものもある。作者はルイ・マルが映画化した「地下鉄のザジ」で有名な小説家だが、奇書と言うべし。
ジェイムズ・ケストレル
「真珠湾の冬」
★★★★日本の真珠湾攻撃の1か月前のハワイでの殺人事件から始まる波乱万丈の物語で、ハードボイルド・タッチの警察ミステリーから、米国男性(刑事)と日本女性(官僚の娘)のロマンスへと変移していく。スパイ冒険小説の面白さもあるが、たらればの不思議さを通して、日米ともに戦争の犠牲者なのだと打ち出すところが素敵だと思う。極論すれば、ドイツが日米を開戦に導いたと読めないこともない。
山田 詠美
「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」
★★★★ マーヴィン・ゲイの What's Going On や Got to Give It Up(黒い夜)、ビリー・ポールの Me and Mrs. Jones、ジャッキー・ムーアの Precious Precious、パーシー・スレッジの When a Man Loves a Woman(男が女を愛する時)といったソウル・ミュージックの名曲をタイトルとした8編からなる短編恋愛小説集。この着想だけでもうれしいですな。翻訳小説のようなテイスト。汚い言葉や露骨な性愛場面も出て来るが、一種の純愛小説のような美しさがある。
喜多村 筠庭
「嬉遊笑覧」
★江戸時代に書かれた百科事典的随筆。随筆的百科事典でも良い。5分冊の4冊目。今回は性風俗と食べ物が中心。以前にも述べたように、時代小説家は読んだほうが良いでしょう。
葉室 麟
「蜩ノ記」
★★★★★時代小説の読書経験自体が圧倒的に少ないが、この作者は読んでおきたかった。遅くデビューした作者の出世作で、映画化もされた。映画版で書いた感想がそのまま当てはまる。封建社会の理不尽と、それに義憤を覚える読者や鑑賞者を軽く凌駕する一部武家の気高き精神。これに感動しないわけには行かぬ。お見事。
新しいパソコンの入力方法にも慣れて、寧ろ前以上に速く打てるようになったかもしれません。
このところミステリーを読むことが増え、常連からのお薦めにミステリーが多いことも拍車をかけています。黄金時代のミステリーから、ほやほやの新作までヴァラエティも豊かにという感じ。と言っても、3か月ですからたかが知れていますが。奇作もありましたねえ。詳細はリストにてどうぞ。
一方、目が悪くなって(近視・乱視・白内障)自動車免許更新が覚束なくなり図書館に通えなくなるかもという懸念が益々強くなっているので、電子書籍でまともには読めないであろう漢籍を3か月に一つくらいは読んでおくことに。皆様の関心の薄い分野ではありましょうが、ここまで読み込んできた以上は後には引けません。今回読んだ「淮南子」は凄いものですよ。前漢時代にまとめられたものなのに現在のダイヴァーシティに通ずる観念がありました。
作品数を稼ぐには便利この上ない芥川賞シリーズも2005年まで来ました。大近作となると、図書館だけに頼ると借りられていてなかなか読めませんが、後十年分くらいはすんなり読めるでしょう。
その他ミステリー以外の外国文学もぼちぼちと。こちらに関してはちょっと読み足りない感がありますが、そう欲もかけません。次回にとっておくことにします。
前口上はこのくらいにしましょう。それでは、リストをご笑覧ください。
***** 記 *****
上林 暁
「聖ヨハネ病院にて」
★★★精神に問題を抱え失明もした病妻を看病する作者の揺れる心情を綴る私小説中編(やや長めの短編)。滋味あふれる佳作と言うべし。前段に「明月記」という短編があるが、今回は読めず。
木山 捷平
「耳学問」
★★やはり私小説作家の木山が、満州時代にいかにシベリヤ送りを免れたか、を綴る。文庫本にして20ページくらいの短編だから、興味深いという程度の印象に留まる。
ディーノ・ブッツァーニ
「タタール人の砂漠」
★★★★砦に派遣された若い将校が恐らくは永遠にやってこない敵の来襲に備えるうちに年を取ってしまう。カフカの「城」のような印象もあるが、期待通りには行かない人生を鮮やかに象徴させていると思われ見事と思う。不条理なのはカフカ的世界ではなく、実際の人生ということ。
京極 夏彦
「鉄鼠の檻」
★★★★ある山奥の寺を巡る、謎の二重奏。一つは寺の僧侶たちの不可解な死体の謎、一つは寺の周囲に出没する年を取らない少女の謎。後者に関しては早々に解けたと思ったのに見事にやられた。京極先生が僕如きの解けるそんな安易な設定はしますまいな。大事なのは僧侶の連続殺人で、禅と悟り(とその関係性)について微に入り細を穿つ形で説明され、ミステリーを読むうちにちょっとした仏者になれそうな気がする。僧侶の得た悟りは永続性があるとは思えず空しいものがあるが、この宗教哲学ミステリーで案外重要なのではないかと思われるのが、成功ばかりを目指す俗物・愚物だった山下警部補の自信喪失を経ての “悟り” だ。この悟りは恐らく永続的で、彼はこの後成功するのではないか。日本ではまずなかった本格宗教ミステリーで、ページ数以上にヘヴィーで疲労する。その価値はなかなか把握しきれないという思いがある為★4つ。
モブ・ノリオ
「介護入門」
★★★第131回(2004年上半期)芥川賞受賞作。ラップを小説化するとこんな感じになるという小説で、軽薄そうな金髪でラップの乱暴な言葉遣いをし、おまけに麻薬乱用癖のある青年の心底には、常識人の心優しさがある。そこにじーんとする。
阿部 和重
「グランド・フィナーレ」
★★★第132回(2004年下半期)芥川賞受賞作。ロリコンと上記「鉄鼠の檻」にも出て来る小児性愛者は厳密には違うと思うが、教育映画を撮りながら、それに出演する少女らの裸体画像を集めていた主人公の、妻にその趣味が、おまけに自分の娘のものが入っていることがばれて接近禁止命令を下された後のもがく姿を綴る。第二部で自らの問題を相対化できたと思われる主人公が、小学高学年少女の親友同士の別離に絡む演劇を真摯に面倒を見るようになる。幕切れが爽やかと言うと語弊があるものの、少女二人の別離の悲しさからの自殺の可能性を心配する主人公は克己している。作者が命題としているわけではないが、相手を傷つける可能性があるとは雖も、そもそもロリコン者は本当に怪物なのかという疑問がある。
「馬小屋の乙女」
★やはり性絡みの短編。今度は性具コレクターだってさ。コント的展開に面白味がなくもなく、10編くらいある短編集の中で読めばもっと良いかもしれない。
「新宿ヨドバシカメラ」
★これも性絡みの短編。人間の体と街の作りをオーヴァーラップさせ、次第に地名に焦点をずらすところが興味深いものの、意味不明に近い。
「20世紀」
★★「馬小屋の乙女」と同じく神町(じんまち)という東北の街を舞台に展開するが、こちらはなかなか品が良く爽やか。阿部和重という作家は地名に拘わる作家らしい。
ジューナ・バーンズ
「夜の森」
★イーディス・ウォートンより四半世紀くらい後の女流作家だが、ヘンリー・ジェイムズ的な男女の扱いにおいて共通するものを覚える。自らをオーストリア貴族と粉飾するユダヤ男性と結婚したロビンが、やがて出奔し、ノラやジェニーといった女性と同棲を続ける、というよく解らないお話で、性愛的な描写はないものの、ロビンたちは同性愛者だったということだろう。恐らく原文からして甚だ読みにくい文章であることが伺われ、読み進むのに難儀した。しかし、意外にもこの本を読んだ人が多い模様。
サミュエル・バトラー
「エレホン」
★★★欧州大陸のどこかにあるエレホン (nowhereのアナグラム) なる場所。そこでは犯罪が病気で、病気が犯罪であり、機械がほぼ廃されている。牧歌的ながらユートピアとも言えない。そんな場所に入ってしまった英国人による見聞録という体裁で進行するが、ヴィクトリア朝時代の風刺と読める。19世紀後半に打ち出された進化論を機械に敷衍した結果、現在のAIと人間の関係を予想させるところに凄味がある。
有栖川 有栖
「孤島パズル」
★★★「十角館の殺人」に似て、大学ミステリー・サークルのメンバー三人がその一人の一族の暮らす島に滞在中に連続殺人事件に遭遇するクローズド・サークルもの。「十角館」とは違ってかなりオーソドックスだから、黄金時代のミステリーがお好きな方には行けるかもしれない。読者への挑戦という項目があるなどエラリー・クイーン崇拝が伺われる。
劉 安(編)
「淮南子」
★★★★★漢籍。劉安は前漢の淮南(わいなん)王。 日本では何故か通常 “えなんじ” と読む。 諸子百家の思想をベースとする思想書で、身体障碍者にも発達障害者にも人にはそれぞれ適した仕事があるというダイヴァーシティを先取するような考えに瞠目させられた。一番のベースは道家(老荘思想)だが、儒学や法家の良い部分は取り上げる。儒学でも法家でも自由を束縛するものはダメで、フレキシブルにできないものは行き詰るとし、現代人にこれほど納得できる諸子百家の本はないのではないか。陰陽五行説のようなところ以外は面白く読める。
モーリス・ルブラン
「虎の牙」(再)
★★★★ルパン・シリーズで最も長い作品で、二分冊になることが多い。僕が小学生の時に読んだポプラ社池田宣政版もサブタイトルの「虎の牙」と「フロランスの秘密」の題名で分かれていた。第一部「虎の牙」はミステリー度が高く、第二部「フロランスの秘密」は冒険度とサスペンス度が高い。とりわけ女性の冤罪ものであり、ロマンスが絡み、僕好みだった。大人となった今読むと手放しで賛嘆することはできないけれど、「水晶栓」「カリオストロ伯爵夫人」など若い美女の悲劇が絡むと僕は参ってしまう、ロマンティシズムに傾倒する少年だったことが解り、読み直した価値がある。星の数は当時と現在の中間くらいにします。
赤江 瀑
「オイディプスの刃」
★★★★妖剣を持つ愛刀家の家に滞在中の研ぎ師が殺害され、当主の妻が後追い自殺をし、愛刀家の当主も責任を取るかのように亡くなる。三人の両親の組み合わせが違う兄弟の真ん中の “次男”(母親の連れ子)の一人称的三人称で語られるどろどろしたミステリー。本格ミステリーではないが、題名の意味をさほどしないうちに直感的に理解する。いずれにしても、こんな題名なのだからこの三人のうちの誰かが最初の殺しをやったのは確か。
カミロ・ホセ・セラ
「ラ・アルカリアへの旅」
★★★作者は日本では知名度の低いスペインの作家だが、ノーベル文学賞を受賞している。スペインをめぐる紀行小説とされているものの、一人称を使わないだけで事実上の紀行文だ。
E・C・ベントリー
「トレント最後の事件」(再)
★★★作者は専業作家ではなく、本作によってのみ知られる。本格ミステリーに初めて本格的に恋愛要素を交えたところが有名になった所以の一つで、1913年に発表されたこの作品から30年代後半まで続く本格ミステリーの黄金時代が始まると言われているようだ。今の若い人が読んで面白いかどうか。
桐野 夏生
「柔らかな頬」
★★★★直木賞受賞作。3年半ほど前に映像版(2000年製作のTVドラマをまとめて2020年に劇場で上映したもの)を観ていることに暫くして気付いた僕はうっかり八兵衛だ。北海道の別荘から忽然と姿を消した5歳の幼女の行方を母親と末期癌の元刑事が調べ続けるが、結局幼女の行方も謎も解けない。ヒロインは娘探しを通じて自分の本性と対峙せざるを得ないという内容で、本格ミステリーの体裁でいながら結局謎を残すというのが純文学寄りの作品らしい一方で、二人の見る三つの夢が仮説として提示されるという仕組みはなかなか興味深い。
中村 文則
「土の中の子供」
★★★133回(2005年上半期)芥川賞受賞作。実の親に捨てられ、養父母に土の中に生まれたところを助けられて施設で育ち、現在はタクシー運転手をする主人公がそのトラウマにより、二、三の他者が加える暴力を自虐的に受け入れようとするうちに、死産の経験のある女性の元同僚との関係を経て、今更のこのこ現れた実父との面会を回避する心境に達する。父は過去の象徴であり、面会回避は過去を乗り越えたことをほぼ意味しよう。
「蜘蛛の声」
★★会社員生活から橋の下に逃げることで他者に対する優越感を感じた男が、やがて蜘蛛の声を聞き、幻想と現実の狭間を彷徨する、といったお話。現代人は面倒くさいものだねえ。
絲山 秋子
「勤労感謝の日」
★★★僕が通っている図書館は、作者の住む(僕は住んでいないものの自治体の提携で利用できる)高崎市の市立図書館である。そんな勤労ならぬ提携に感謝する。「沖で待つ」単行本に収録されていた短編で、上司を殴って首になった無職女性が見合いの現場から逃げ出し、OL時代の後輩などと駄弁る。それだけの内容だが、豪快な女性の日常感が良い。
「沖で待つ」
★★★134回(2005年下半期)芥川賞受賞作。映画「おくりびと」だったか別の作品だったか、孤独死をした人の部屋からエロ・ビデオが出て来る場面を見て、死んだ後のことなど知らんと思った僕も、秘事に近いことは知られてほしくないと思わないでもない。本作は生前生き残ったほうが死んだ者のHDDを壊すというけったいな約束をした同僚同士のお話。このお話のうら悲しくも後味が良い所以は同僚が男女であることだ。ヒロインは不慮の巻き込まれ事故(今年もあった投身自殺の巻き添え)で亡くなった同僚の部屋に入り込んで、亡霊の彼と話をするなんてところもあり、芥川賞受賞作としては結構変な内容。
ウィリアム・ホープ・ホジスン
「異次元を覗く家」
★★★ホジスンは東宝映画「マタンゴ」の原作となった短編小説「夜の声」で知られている作家で、こちらが長編の代表作。後輩ラヴクラフトに近いSFホラー系である。謎めいた場所に立つ謎めいた家に妹と共に越した初老の男性が、まずは豚のような外見を持つ異形の生命体(後の展開から推して地球外生命体)とかくれんぼ的闘争をした後、物凄いスピードで進む異次元に迷い込み、宇宙の神秘を見てしまう、といったお話。これを読むのが作者と思われる私という入れ子構造だ。SFとしては後半のほうが面白いと思う。
カルロ・レーヴィ
「キリストはエボリで止まった」
★★★★フランチェスコ・ロージ監督の映画「エボリ」の原作。ロージらしい硬派な反権力映画だった。レーヴィの自伝小説である。反ファシズム活動で南イタリアへの流刑に処されるが、北部から見れば蛮地とされる場所群(何度か移動する)の人々に医師として信頼された主人公はやがて刑期を終えて英雄として帰っていく。民俗学的面白味が満載と言うべし。中世的な気分さえある野趣溢れる風俗の点出が見事である一方、スペイン地方の野趣に溢れる「ラ・アルカリアへの旅」と混同してしまう可能性がありまする。
島田 荘司
「占星術殺人事件」
★★★★★ これにもまた ”読者への挑戦” があって、 エラリー・クイーン崇拝の気分が濃厚。同時に、40年前の迷宮事件の謎を解くべく動き出す素人探偵に当たる占星術師・御手洗潔とワトソンよりは賢そうなワトソン役石岡和己という配置はコナン・ドイル的であり、序盤の衒学ぶりはヴァン・ダイン的、日本で言えば「黒死館殺人事件」のようであったり、後に出て来る京極夏彦的でもある。僕はずっとこの作品の存在を知らなかったが、2012年の週刊文春による東西ミステリー・ベスト100の東(即ち日本)版第3位であり、それに値する力はあると思う。3件8人が亡くなる事件に絡む大きな謎が三つあり、そのうちアゾート殺人のトリックは圧巻。これを事前に解明できた方は賢い。
レーモン・クノー
「文体練習」
★★★★★ほぼ同じ小咄を、文学のあらゆるジャンルで、あるいは老若男女それぞれの視点で、あるいは変な細工を加えた文章で、綴るという変わり種。99種類もある。故に訳では楽しみ切れないものもあるのだが、逆に日本語故に楽しめてしまうものもある。作者はルイ・マルが映画化した「地下鉄のザジ」で有名な小説家だが、奇書と言うべし。
ジェイムズ・ケストレル
「真珠湾の冬」
★★★★日本の真珠湾攻撃の1か月前のハワイでの殺人事件から始まる波乱万丈の物語で、ハードボイルド・タッチの警察ミステリーから、米国男性(刑事)と日本女性(官僚の娘)のロマンスへと変移していく。スパイ冒険小説の面白さもあるが、たらればの不思議さを通して、日米ともに戦争の犠牲者なのだと打ち出すところが素敵だと思う。極論すれば、ドイツが日米を開戦に導いたと読めないこともない。
山田 詠美
「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」
★★★★ マーヴィン・ゲイの What's Going On や Got to Give It Up(黒い夜)、ビリー・ポールの Me and Mrs. Jones、ジャッキー・ムーアの Precious Precious、パーシー・スレッジの When a Man Loves a Woman(男が女を愛する時)といったソウル・ミュージックの名曲をタイトルとした8編からなる短編恋愛小説集。この着想だけでもうれしいですな。翻訳小説のようなテイスト。汚い言葉や露骨な性愛場面も出て来るが、一種の純愛小説のような美しさがある。
喜多村 筠庭
「嬉遊笑覧」
★江戸時代に書かれた百科事典的随筆。随筆的百科事典でも良い。5分冊の4冊目。今回は性風俗と食べ物が中心。以前にも述べたように、時代小説家は読んだほうが良いでしょう。
葉室 麟
「蜩ノ記」
★★★★★時代小説の読書経験自体が圧倒的に少ないが、この作者は読んでおきたかった。遅くデビューした作者の出世作で、映画化もされた。映画版で書いた感想がそのまま当てはまる。封建社会の理不尽と、それに義憤を覚える読者や鑑賞者を軽く凌駕する一部武家の気高き精神。これに感動しないわけには行かぬ。お見事。
この記事へのコメント
木村 捷平 → 木山 捷平
昔短編集を1冊読んだ記憶はあるのですが忘れました〜
後で本を探してみます。
私はしょっちゅう名前を間違えたり漢字が読めなくて適当な名前に勝手に変えたりしているのでこういうのは平気なんですが、先生は気になさるほうかと思い取り敢えずご連絡した次第です。
「占星術殺人事件」
これ、読んでみたいですね。
しばらくこういう推理小説読んでないので。
おもしろそうです!
白内障は大変ですね。
読書や映画鑑賞など、作品を楽しむ支障にならなければよいですが…。
「鉄鼠の檻」は仰る通り、かなりヘヴィな内容で、私もその凄さを完全に理解したとは言えませんが、日本のミステリーでここまで本格的に宗教を扱った作品も珍しいでしょうね。
「魍魎の匣」とかみたいに大好きとは言い難いけれど、実に凄い作品でした。
そして次作は遂に「絡新婦の理」、私がシリーズで一番好きな作品であります。
(と言っても、私が読んだのは六作目までですが…)
私みたいな大衆寄りの人間には一番楽しめる大掛かりな事件が描かれ、内容的にもシリーズの集大成と言える作品です。
こちらの感想を今から楽しみにしてます。
余談ですが、今年4〜6月まで「中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。」というTVアニメが放送されていました。
若き日の高校教師時代の京極堂が、日常の小さな事件を解決していくという内容で、原作よりもライトな内容ですが、息抜きに観る分には楽しい作品でした。
「占星術殺人事件」を読まれましたか!
島田荘司はこの作品だけ読んだのですが、トリックが凄かったですね。
御手洗潔シリーズを読んだ私の友人の話によると「異邦の騎士」も凄いぞ!とのことです。
(いずれ読みたいと思いつつ、結局読まずに何年も経っちゃいました…)
>木村 捷平 → 木山 捷平
>先生は気になさるほうかと思い取り敢えずご連絡した次第です。
早速訂正しました。
どちらかと言えばそういうタイプで、結構慎重を期しているつもりでしたが、どこかで間違えてしまいました。
どうも有難うございました<(_ _)>
>>島田 荘司
>「占星術殺人事件」
>これ、読んでみたいですね。
面白いですよ。
但し、最初はもの凄く衒学的なので、ここを頑張る必要があると思いますが。尤も、その部分はそれほど長くないですから、ご安心あれ。
>白内障は大変ですね。
>読書や映画鑑賞など、作品を楽しむ支障にならなければよいですが…。
幸いにも、数年前最初に指摘されてから悪化したという診断は受けていません。
>次作は遂に「絡新婦の理」、私がシリーズで一番好きな作品であります。
おおっ、そうですか。
今月中に読めそうですよ。
>今年4〜6月まで「中禅寺先生物怪講義録 先生が謎を解いてしまうから。」というTVアニメが放送されていました。
しっかりチェックされていますねえ。
>「占星術殺人事件」を読まれましたか!
読みましたよ。
京極夏彦も凄いですが、島田荘司にもびっくりさせられました。
博覧強記というんでしょうかねえ。
木山捷平
今のところ本は行方不明です。
昔、ちくま日本文学全集という文庫サイズだけれど単行本の作りで文字も大きいシリーズがあって、他にも梅崎春生や菊池寛を持っていたのですがまとめて隠れられてしまいました。
それで昨日ふと思ったのですが…
木山といい梅崎といい軟弱系文学青年 ( 私の勝手な評価で実際はどうだったのかはしりませんが) が招集され散々な目に遭って復員してきて、それでも筆を折らずに細々と?ああいう作品を描き続けたわけですが、三島由紀夫が甲種合格して戦地に行って生きて帰ってきたとしたらどんな作品を書いていたのかなぁ、と思った次第です。
梅崎や木山のように人格破壊寸前の体験をして帰還したら流石に全共闘に対して”天皇”の一言が欲しいとは言わなかったんじゃないかとは思います。
>昔、ちくま日本文学全集という文庫サイズだけれど単行本の作りで文字も大きいシリーズがあって
わが図書館(本館)には見当たらなかったですなあ。
>まとめて隠れられてしまいました。
良い表現ですねえ^^
わが方でも、エラリー・クイーン数冊と、アガサ・クリスティ数冊とヴァン・ダイン数冊も隠れられて出てきません。
>三島由紀夫が甲種合格して戦地に行って生きて帰ってきたとしたらどんな作品を書いていたのかなぁ、と思った次第です。
>梅崎や木山のように人格破壊寸前の体験をして帰還したら流石に全共闘に対して”天皇”の一言が欲しいとは言わなかったんじゃないかとは思います。
人間観・国家観は大概変わるでしょうから、そう思いますね。
出征してひどい経験をし、これが変わらないようでは文学者とは言えないでしょう。
「柔らかな頬」
本格ミステリーの体裁でいながら結局謎を残すというのが純文学寄りの作品らしい
20年程前に読みました。この人の本はリーダビリティが高いというんですか?非常に読ませる力を持っていて最後までページを繰る手が止まらないくらい上手いと思いますが、私の場合、読後に残るものが無いのです。
別に何も残らなくてもエンタメとしてスカッと終わればそれはそれで上等なんですが、何というか…マイルスじゃないけれど So what! な気分になった記憶がありますね、本作は特に。
別に正義が勝って欲しいわけではないし、ましてや陳腐なヒューマニズムに落とし込んでほしいわけでもないのだけれど、”純文学に短し、ミステリーに長し” かな?
いやいや別にジャンル分けする必要はないのですが、何かが足りないからモヤモヤしたものが残るんですね。
>二人の見る三つの夢が仮説として提示されるという仕組みはなかなか興味深い。
内容は殆ど忘れていますが、三つの夢、気になりますね。いつか再読したいです。
この人は現在進行形の女性を取り巻く現象に果敢に挑戦していて面白いのですが、語り部に徹しているんでしょうね。露悪趣味に走らず、安易なヒューマニズムにも陥らずなスタンスを保とうとしたら安易な答えは求める術もなくあんな感じになってしまうのかな…
>私の場合、読後に残るものが無いのです。
言葉に変換するのは難しいですが、僕はそれなりに感じるものがあったような記憶があります。
>”純文学に短し、ミステリーに長し” かな?
中間小説の運命でもありましょうか。
1970年代くらいまでの用語ですかね、【中間小説】は。
>露悪趣味に走らず、安易なヒューマニズムにも陥らずなスタンスを保とうとしたら安易な答えは求める術もなく
ちゃんとお読みなっていますね!
僕はそこまで良い読者ではないな^^;