映画評「フィリップ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2022年ポーランド映画 監督ミハウ・クフィェチンスキ
ネタバレあり

ポーランドの作家レオポルド・ティアマンドの自伝的小説を、地元の製作者出身ミハウ・クフィェチンスキが映像に移した。

1941年のワルシャワはゲットー、若者フィリップ(エリック・クルム)はパーティーの会場で家族と恋人をナチスに殺される。これがアヴァンタイトルのお話(プロローグ)。
 2年後信頼性の高い偽の身分証を得た彼は高級ホテルのフランス人の給仕として働きながら、出征で老人と子供以外の男性が少なくなっている街に繰り出し、ポーランド出身の給仕仲間とつるんで、欲望を持て余す軍人の妻たちを誘惑して半ば愚弄することで、精神的な復讐をする。
 そんなある日プールサイドで感じの良い未婚女性リザ(カロリーネ・ハルティヒ)と知り合い、最初は有閑マダムたちと同じ扱いをしようと思ったものの、恋愛感情を募らせ、やがてパリに逃避行しようとするというところまで行く。
 が、実行の当日連合軍の空襲を受けて計画変更となり、やがて給仕の休憩室で親友ピエール(ヴィクトール・ムーテレ)をナチス将校に殺される。今度は単独の逃亡計画を実行しようとした最中、ホテル内でナチス幹部の暗殺に遭遇、犯人の残したピストルで結婚披露宴に参加しているナチス関係者を数名殺し、その足でパリに向かう。

事前に銃撃事件を計画していたわけでもないので、リザと縁を切る決心をした理由が解りにくいが、ピエールの死が彼にショックを与えた結果であることだけは解る。

同盟国イタリアの青年を始めドイツ女性と関係を持った外国人が痛めつられ処刑される場面の量を考えると、全体としては、ユダヤ人差別ものという以上にナチスの純血主義のバカらしさに焦点を当てている感じがする。

冒頭で原作が自伝的小説であると知った段階で主人公が破滅しないことが確定してしまい少々興醒めして観ていたが、初めて観るクフィェチンスキ監督の画面作りに注目させられた。と言っても余り細かいことではなく、大体において長回しかつ移動撮影を常時する中で、移動撮影しつつカットを比較的細かく切る辺りが珍しいと思ったのである。
 邦画でも目にすることがあるように、主役の背中を長めに映すのが世界的に流行気味で、この代表格はハンガリーのネメシュ・ラースロー。クフィェチンスキ監督も少し見せるが、偶々かもしれない。

フィリップと言えば映画版「太陽がいっぱい」を思い出す。この映画の復讐に生きる主人公は同じ名前のフィリップではなく、成功の野心を持つトム・リプリーに近く、重なるものがある。原作では彼の友人はより英米的なリチャードと呼ばれる。リチャードはディックと呼ばれ、男性のあそこをさすこともあるわけで、リプリーがゲイであることを暗示しているとも言われる。

この記事へのコメント

モカ
2025年04月19日 17:48
こんにちは。

若者フィリップ(エリック・クルム)
 
 この男優さん、初めて観ましたがエリッヒ フォン シュトロハイムの若い頃を彷彿とさせる美男?でしたね。 実はシュトロハイムの若い頃の顔は見たことない気もするのすが… 多分あんな感じだったと… ^^
オカピー
2025年04月19日 21:39
モカさん、こんにちは。

>>若者フィリップ(エリック・クルム)
>この男優さん、初めて観ましたがエリッヒ フォン シュトロハイムの若い頃を彷彿とさせる美男?でしたね。

言われてみると、似ていますね。
シュトロハイムの伝記映画があれば、適役でしょう。