映画評「はるか、ノスタルジィ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
1992年日本映画 監督・大林宣彦
ネタバレあり
30年ほど前に恐らくWOWOWで観てなかなか感動してここの評価で☆☆☆☆に相当する採点をしたと思う。今回も昨日の「姉妹坂」に比べるとぐっと純文学的で充実していると感じたが、ちょっと照れてしまうところもあり、★一つ分下げた。
恐らく1970年頃が時代背景。
少女小説の人気作家・綾瀬慎介(勝野洋)が、少年時代の一時期を過ごした小樽にやって来る。小樽を舞台に一連の少女小説を書いているのは、実はここでの苦い経験を忘れるため。一種の荒療治である。
到着早々に泥に足を取られて転び、そこに通りかかったハイティーンの少女はるか(石田ひかり)に助けられ、彼女に導かれるように、彼女が彼の服の洗濯を託したドライクリーニング店の青年店長太田登(尾美としのり)を運転手に、希望する各地をめぐる。
二人の周囲に折々バンカラの若者佐藤弘(松田洋治)が出没し、やがて二人に接近してくる。
長く映画を観てきた人ならすぐピンと来るように、若者は学生時代の綾瀬その人である。より厳密に言えば、彼が綾瀬のペンネームにより隠してきた苦い過去を引きづる彼自身である。
それと同時に、はるかが二人に苦い記憶を残すことになった遊郭街に暮らす美少女三好遥子(石田ひかり二役)にそっくりである為に、時に遥子として二人に接するうちに、綾瀬は過去の自分と向き合うことができるようになる。
おおよそこんなお話である。
二つの時間が同一画面に収まる映画は少なくないが、本作の場合は一見それに似ているものの、四半世紀くらい前の佐藤弘が現在の彼に導かれてタイムスリップしてきた状態であり、他人のはるかにもしっかりと見えるし、話し合うこともできる。
この辺のファンタジーぶりが過去の自分と対峙して克己していく純文学的展開と絡み合って、一定以上の面白さが感じられる。真面目に考えれば馬鹿らしいということにもなりかねないが、観客をして概ね素直に見させてしまうのは大林宣彦監督の殊勲なのではないか。
そこに関しては、終始駆けている石田ひかりの溌溂とした魅力も貢献しているだろう。ヒロインが陰鬱にすぎると却って馬鹿らしく感じられたかもしれない。
最後に綾瀬がはるかと懇ろな関係になる画面があり、助平たらしいという感想も散見されるが、はるかの心の中では懇ろになったのは若い佐藤弘、三好遥子ときちんと結ばれることができなかった佐藤弘なのである。綾瀬も佐藤弘として、遥子の娘であることが判明したはるかを介して、過去の傷から回復する。
「転校生」の原作者である山中恒は、坂好きの大林宣彦の為に坂が多い(?)小樽を舞台にファンタスティックなお話を書き下ろしたのであろう。
昔の映画音楽がお好きな方には、久石譲の背景音楽が一時期のフランシス・レイのようなので、面白がって聞くことができるはず。
この映画の主人公二人の名前を合わせると現在のスター女優綾瀬はるかになる。また、主人公の作家を見て、世代から言っても富島健夫が頭に浮かぶ。読んだことがない僕が言っても説得力がないものの、青春小説とされる彼の作品は少女小説とそんなに変わらないのではないか。姉が買ったらしく家にあったのを思い出す。ちょっとノスタルジィを感じまするな。
1992年日本映画 監督・大林宣彦
ネタバレあり
30年ほど前に恐らくWOWOWで観てなかなか感動してここの評価で☆☆☆☆に相当する採点をしたと思う。今回も昨日の「姉妹坂」に比べるとぐっと純文学的で充実していると感じたが、ちょっと照れてしまうところもあり、★一つ分下げた。
恐らく1970年頃が時代背景。
少女小説の人気作家・綾瀬慎介(勝野洋)が、少年時代の一時期を過ごした小樽にやって来る。小樽を舞台に一連の少女小説を書いているのは、実はここでの苦い経験を忘れるため。一種の荒療治である。
到着早々に泥に足を取られて転び、そこに通りかかったハイティーンの少女はるか(石田ひかり)に助けられ、彼女に導かれるように、彼女が彼の服の洗濯を託したドライクリーニング店の青年店長太田登(尾美としのり)を運転手に、希望する各地をめぐる。
二人の周囲に折々バンカラの若者佐藤弘(松田洋治)が出没し、やがて二人に接近してくる。
長く映画を観てきた人ならすぐピンと来るように、若者は学生時代の綾瀬その人である。より厳密に言えば、彼が綾瀬のペンネームにより隠してきた苦い過去を引きづる彼自身である。
それと同時に、はるかが二人に苦い記憶を残すことになった遊郭街に暮らす美少女三好遥子(石田ひかり二役)にそっくりである為に、時に遥子として二人に接するうちに、綾瀬は過去の自分と向き合うことができるようになる。
おおよそこんなお話である。
二つの時間が同一画面に収まる映画は少なくないが、本作の場合は一見それに似ているものの、四半世紀くらい前の佐藤弘が現在の彼に導かれてタイムスリップしてきた状態であり、他人のはるかにもしっかりと見えるし、話し合うこともできる。
この辺のファンタジーぶりが過去の自分と対峙して克己していく純文学的展開と絡み合って、一定以上の面白さが感じられる。真面目に考えれば馬鹿らしいということにもなりかねないが、観客をして概ね素直に見させてしまうのは大林宣彦監督の殊勲なのではないか。
そこに関しては、終始駆けている石田ひかりの溌溂とした魅力も貢献しているだろう。ヒロインが陰鬱にすぎると却って馬鹿らしく感じられたかもしれない。
最後に綾瀬がはるかと懇ろな関係になる画面があり、助平たらしいという感想も散見されるが、はるかの心の中では懇ろになったのは若い佐藤弘、三好遥子ときちんと結ばれることができなかった佐藤弘なのである。綾瀬も佐藤弘として、遥子の娘であることが判明したはるかを介して、過去の傷から回復する。
「転校生」の原作者である山中恒は、坂好きの大林宣彦の為に坂が多い(?)小樽を舞台にファンタスティックなお話を書き下ろしたのであろう。
昔の映画音楽がお好きな方には、久石譲の背景音楽が一時期のフランシス・レイのようなので、面白がって聞くことができるはず。
この映画の主人公二人の名前を合わせると現在のスター女優綾瀬はるかになる。また、主人公の作家を見て、世代から言っても富島健夫が頭に浮かぶ。読んだことがない僕が言っても説得力がないものの、青春小説とされる彼の作品は少女小説とそんなに変わらないのではないか。姉が買ったらしく家にあったのを思い出す。ちょっとノスタルジィを感じまするな。
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