映画評「ブリングリング」

☆☆★(5点/10点満点中)
2013年アメリカ=イギリス=フランス=ドイツ=日本合作映画 監督ソフィア・コッポラ
ネタバレあり

いくらソフィア・コッポラが観照的かつ即実的な作風であると言っても新作「プリシラ」もこちらも無気力と受け取られても仕方がないのではないかいな?
 作家としてのメッセージは要らないが、このタイプでも映画的な興奮を誘う映画に無数に触れてきたことを考えると、こう表現せざるを得ない。

2008年から2009年にかけて起きたティーン・エイジャーによるハリウッド・スター宅連続窃盗事件を2013年に映画化したわけだから、際ものですわな。
 事件の主犯は三流高校の生徒であるアジア系混血?レベッカ(ケイティ・チャン)で、容貌コンプレックスが基で転校してきたらしい同級生の少年マーク(イズラエル・ブルサール)を誘って、スターの豪華な屋敷に侵入して泥棒三昧を行う。
 二人の行為に興味を覚えた女子3名がさらに加わり、そのうちの一人ニッキー(エマ・ワトスン)はキリスト教的ボランティアを目指す少女で、訴追後これも精神修行の為と開き直る。

呆れて物も言えないが、施錠せずに出かける金持ち連中にも同じ言葉を進呈したい。

日本ではセレブが “金持ち” “裕福” という、 本来ない意味で定着してしまい、 Allcinemaの解説上の梗概紹介でも “セレブなハリウッド・スター” で始まる。セレブは名詞だから “セレブな” は厳密には文法的にも変であり、 本来の意味から言えば同意反復である。青い青空みたいな感じだ。スターは言われるまでもなくセレブ (有名人) だ。セレブは金持ちの意味と思って外国誤用して恥をかく日本人が出ないことを切に願う。ハリウッド・セレブという言い方は成り立つ。
 ついでに、【鍵】が本来の鍵と鍵で開け閉めする錠の両方を指す言葉になって久しい。余り気にしてはいないものの、厳密に言えば妙。辞書には両方の意味で載っていますな。

閑話休題。
 マークは4年の懲役を宣告されるが、少女たちと違って罰金を免れる。恐らく正直に自白したことが司法取引的に扱われたのだろう(逆もありうるが、映画を観る限りそういう取引提案はなかったように見える)。
 また記者が彼に “仲間を売ったわけですが” と問うが、これも変な質問で、元来犯罪気質のなかったと思われる彼が道徳観に従って官憲に対応しただけのように思われる。

実録的な映画という意味はあるとは思うものの、窃盗場面の繰り返しで面白いとは言い難い。

基本的に実名で扱われ、関係者がカメオ出演する辺り誰にも忖度しないアメリカ映画は良いね。トランプを既に加害者として実名で扱う映画が幾つか出現している。引退すれば本格的に批判的な実話ものが作られると思う。あちらさんはフィクションでもハーバード大などと実名が出て来るが、日本の刑事映画など見ても城南大学だの城北署などとして実名が出てきたためしがない。

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