映画評「歩道の三人女」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1932年アメリカ映画 監督マーヴィン・ルロイ
ネタバレあり

マーヴィン・ルロイは女性を主人公にした映画が得意と言われた監督だが、実は犯罪絡みでも良い作品が多い。本作ではその両方が楽しめる。ある意味変わり種である。

同じ小学校を卒業した三人が10年後妙齢になって再会したことからお話が劇的に動き出す。時は世界恐慌が始まった1929年である。
 一人はやり手弁護士ウォーレン・ウィリアムと結婚し、男児を設けたアン・ドヴォラーク、一人は歌手(女優)として売り出し始めたジョーン・ブロンデル、一人はオフィス・ガールとして堅実に働くべティ・デーヴィスになっている。
 実は奔放なアンは真面目な夫と性格が合わず、ジョーンの取り巻きの一人ライル・タルボットに惹かれ、旅行中の客船から息子と共に姿を消す。不良少女だったジョーンがこれは良からぬことだと彼女の夫君に居場所を教えた結果、彼は息子を引き取って離婚、息子と上手く付き合っているジョーンと再婚する。
 2年後甲斐性のないタルボットはギャング相手に詐欺まがいのことをやって行き詰まり、彼女の息子を誘拐するが、これにギャングが気付いたことから大事件になってしまう。いつまで経ってもお金にならないと堪忍袋の緒を切った一味が子供を殺そうとするのを知って、アンは思い切った作戦を取る。

というお話で、冒頭で【同じマッチで3人がタバコを吸った場合一人が早死にする】という都市伝説=実は製造会社の広告から生まれたデマ=が紹介され、これを着想源にしたところが面白いと言える作品である。
 しかるに、この言葉を忘れていると展開の面白味を感じにくいし、余りに拘り過ぎると先が見えすぎてしまい、良し悪しのところもある。

幕切れはなかなか衝撃的であるが、母もののヴァリエーションと感じてしまうと余り面白くないどころか興醒めるかもしれない。昔の映画を余り観ていない人のほうがこういうのは有利だ。

三人のうち女優として最も成功したのは演技派ベティだが、この作品ではまだ新人で、タイプとしては好演のジョーンに重なるところも多く、大器の片鱗が感じられない。この後曲者女優として大化けするのだから映画界は伏魔殿である。

原題は Three on a Match。マッチが歩道になった理由は解らない。

この記事へのコメント

モカ
2025年05月22日 20:31
こんにちは。

> 原題は Three on a Match。マッチが歩道になった理由は解らない。

  この邦題はいつつけられたんでしょうね。
 三人の女じゃなくて“ 三人女 ” って言うのが面白いですね。
 子供の頃に年寄りと一緒に見ていたテレビの歌舞伎中継に白波五人男とか三人女が出てきた記憶がありますが、その辺からきているのかな?
 three on match が不運っていう意味で流行っていたとしたら、ラストシーンの不運の舞台が歩道だからですかね。

 ジョーン・ブロンデル
  「悪魔の往く町」に出ているのを観ましたが、日本でいうと宮本信子っぽい感じがしました。

 ベティ・デイビス
  この人やお友達のオリビア・デ・ハヴィランドは演技派になる為に映画会社と戦ってましたよね。今では当たり前の事が通用しなかった時代に契約条項を巡ってワーナー相手に訴訟を起こして、デイビスは敗訴しましたが後年ハヴィランドは勝ちましたし。 
本なら1人で書きますが、映画は1人では作れませんし莫大なお金が絡んでくるし、そんな男社会で自分の思うキャリアに近づいていくのは並大抵じゃなかっただろうと思います。 

  
オカピー
2025年05月23日 20:00
モカさん、こんにちは。

>この邦題はいつつけられたんでしょうね。
>三人の女じゃなくて“ 三人女 ” って言うのが面白いですね。

1934年に本邦で公開されていて、昭和初期らしい感覚ですよね。
もう少し後なら“三人”でしょう。

>そんな男社会で自分の思うキャリアに近づいていくのは並大抵じゃなかっただろうと思います。 

日本の有名文学と同じ邦題を持つ、転機となる映画「痴人の愛」でいざござがあったわけですね。
大変だったでしょう。
モカ
2025年05月23日 22:49
昔「ボートの三人男」サブタイトルに「犬は勘定に入れません」と言うのを読んだ記憶があります。のどかな英国製ユーモア小説でしたが、調べてみたらこれの本邦初訳が1911年で1932年に岩波文庫からでていたようです。当時話題になったかどうかはわかりませんがこういう言い方が一般的だったのかもしれませんね。

1934年はまだアメリカ映画が日本で公開されていたのですね。
真珠湾攻撃まではアメリカ映画は上映できたのでしょうか?

1945年前後のアメリカ映画を観ていると国力の差を感じますね。悲しくなります…
オカピー
2025年05月24日 21:10
モカさん、こんにちは。

>「ボートの三人男」

タイトルを聞いた憶えもありません。
学習にも使われた(使われている?)結構有名な素材みたいですね。

>真珠湾攻撃まではアメリカ映画は上映できたのでしょうか?

思った以上に公開されていたようですね。
有名な「スミス都へ行く」は41年10月に公開されていますよ。
42年以降の外国映画はドイツ映画ばかりですね。

>1945年前後のアメリカ映画を観ていると国力の差を感じますね。悲しくなります…

昨日1943年製作の「町の人気者」というアメリカ映画を観ました(再鑑賞?)が、精神的に余裕があるように感じましたね。
兵士も出て来る映画なのに、国威発揚や戦意高揚の目的を感じさせない作りになっていました。原作がサローヤンということもあるでしょうが。
モカ
2025年05月25日 16:37
こんにちは。

>有名な「スミス都へ行く」は41年10月に公開されていますよ。

戦前最後に公開されたアメリカ映画かもしれませんね。
 
余談ですが先日ジェイムズ・ケストレル「真珠湾の冬」というのを読みまして、まぁ面白かったのですが、真珠湾攻撃が事前に米国に察知されていなかったという認識の元に書かれているのがちょっと疑問でした。
この辺はアメリカの常識を覆せないのは仕方ないのかもしれませんね。
でも東京大空襲も出てきて、かなりリサーチしているようなので力作だとは思います。エドガー賞を取ってますし、そのうち映画化されるんじゃないかと思います。
オカピー
2025年05月25日 21:54
モカさん、こんにちは。

>>有名な「スミス都へ行く」は41年10月に公開されていますよ。
>戦前最後に公開されたアメリカ映画かもしれませんね。

恐らくそうでしょう。
 
>ジェイムズ・ケストレル「真珠湾の冬」というのを読みまして
>真珠湾攻撃が事前に米国に察知されていなかったという認識の元に書かれている

知っていたという説を僕は支持しますがねえ。

>エドガー賞を取ってますし、そのうち映画化されるんじゃないかと思います。

おおぅ、そうですか。
こんなタイトルのミステリーがあるのか。
当方の図書館にもありましたよ。忘れないうちに借りましょうかねえ^^
モカ
2025年05月27日 19:38
こんにちは。

>こんなタイトルのミステリーがあるのか。

原題は「Five Decembers」です。これは簡単だけれどどう訳せばかっこよくなるのか分からない翻訳者泣かせなタイトルですね。
 
 最近、最近のミステリー系の本を読んでいまして、と言っても世間からは3周半ぐらい遅れてはいますが、ガツンとやられた1冊がありまして未読でしたら是非手に取って、また感想をお聞かせください。
  夕木春央 「方舟」ですがまだ読んでませんよね?
 図書館は物凄い待ち人数だったので買いましたが、買って損はなかったです。
 グリコのお菓子並にシュリンクされていましたよ。
 昔読んだルヘインの「シャッターアイランド」の最終章が袋とじされていたのを思い出しました。(そう言えば男性週刊誌にも袋とじページがありましたなぁ ^^)
オカピー
2025年05月27日 22:40
モカさん、こんにちは。

>原題は「Five Decembers」です。これは簡単だけれどどう訳せばかっこよくなるのか分からない翻訳者泣かせなタイトルですね。

そうですね。
翻訳家を目指したことがある僕も、未読のせいもありますが、どう訳したら良いものか悩みます。
 
>夕木春央 「方舟」ですがまだ読んでませんよね?

勿論(笑)
わが図書館グループ全体で結構な数があり、比較的早く読めそうです。