映画評「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド」
☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2021年アメリカ映画 監督トッド・ヘインズ
ネタバレあり
併設した音楽ブログ【オカピーの採点表】で現在週に一作ずつ音楽のアルバムを紹介している。
5月はヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下VU)全4作を洩らさず紹介した(同バンド名義のアルバムはもう一つあるが、実質的に後から加入したダグ・ユールのソロ・アルバムなので勿論省略。仮定の話として、ポール・マッカートニーのいないウィングズがウィングズではないように)。
本作は独占配信中のApple TVを通じて観たが、常連訪問者のかずきさんのご紹介により、お試し期間を利用して観た次第。数本観て即解約するつもりである。
いずれにせよ、タイミングが良かった。結果から言うと、ブログの後から観て正解だったと思う。元々よく知っているがブログを書くために繰り返し聴いた結果、曲に皆聞き憶えがあることになって楽しめたからである。
序盤は、バンド結成前の、文学趣味があり挑戦的なロック音楽指向のルー・リードと、アヴァンギャルド音楽ばかりやっていたジョン・ケイルについて、二人と周辺の芸術家たちが次々と証言する。
ケイルは存命だからご本人が色々と証言する一方、リードは故人なのでアーカイヴでの登場である。音楽以外の芸術家は知らない人ばかりであるが、芸術が複合的・包摂的になっていく時代の気分がよく感じられ、なかなか興味深い。
しかし、ロック好きとしては、リードより上手いはずのもう一人のギターのスターリング・モリスンとドラムスの紅一点モーリーン(モー)・タッカーが出て来てから俄然面白くなる。バスドラを横にしてバチで叩く彼女のドラマーぶりを実物で見られたのは収穫だ。僕は、同じリズムを延々と続けることが多い彼女のドラムスを(打楽器故に音は継続しないものの)ドローンと名付けた。
デビュー・アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』に参加したモデル・女優のニコの映像や彼女に関する証言も多く紹介される。ニコはヴォーカリストとして決して上手くはないが、独特の声が非常に面白い。ソロ・アルバムも良いものが多いが、結構若くして亡くなった。
映画は、どうしてもリードとケイルがビートルズのジョンとポールのように才能を競い合っていた最初の二枚を中心として扱うことになる。代表曲が幾つもある第一作は多様で、二作目『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』はほぼノイズの嵐だ。
リードが追い払う形でケイルが脱退し、実験性のかけらもないような優等生ユールが加入したことで、後半の二枚は前衛性が殆ど消える。
但し、3枚目『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』では例外的に「マーダー・ミステリー」が実験的で大変面白い。フォーク・ロック的で聴きやすく、前衛ぶりや過激さに拘らないのであれば、僕はVUでは3枚目を一番推す。
ネットで目にした “VUはフォークである” と言って譲らない人は三作目もしくは次の『ローデッド』から入ったとしか考えられないが、ケイルのいないVUは作詞・作曲のほぼ全てを手掛けるリードがいてもその本質を体現しない。やはり最初の二枚が彼らであり、この映画の時間の割き方を見てもそれと知れよう。彼もしくは彼女はこの映画を観ただろうか? これを観てなおフォークと言い張るのであれば、ものを理解する力が全くないと言うしかない。
閑話休題。
四作目には妊娠でモーリーンが参加できず(代わりのドラマー数名がぐっと一般的なドラムを叩いていて、聴き応えのあるものもある)、これを終えてモリスンは嫌になり、リードもそれと共に去る。冒頭で述べたように、途中参加のユールだけが残ってVU名義でアルバムを発表した次第。
基本はインタビュー形式の音楽ドキュメンタリーだが、監督がドラマ映画で素晴らしい実績のあるトッド・ヘインズだから、漫然とインタビュイーの姿を捉える時間は最小限で、挿話に合わせて全く関係のない既成映像を持ち込んで来たり、分割画面にしたり、色々と工夫を凝らしている。
相対的に長いバンド結成に至るまでの前段を、ロック・ファンの皆様にはどうかと思われる気もするが、VUくらいになるとビートルズ同様音楽だけの枠に留まらず、その背景から理解する必要があると理解できれば大いに楽しめると思う。
ルー・リードのソロ・アルバムは十作ほど持っているが、ケイルは一枚も持っていない。そろそろ勉強する頃合いと思う。ジョン・ケイルとジョン・ケイジをよく混同するのだが、アヴァンギャルドという共通点がある。実際ケイルはケイジの影響を受けたらしい。益々混同しそうだ。
2021年アメリカ映画 監督トッド・ヘインズ
ネタバレあり
併設した音楽ブログ【オカピーの採点表】で現在週に一作ずつ音楽のアルバムを紹介している。
5月はヴェルヴェット・アンダーグラウンド(以下VU)全4作を洩らさず紹介した(同バンド名義のアルバムはもう一つあるが、実質的に後から加入したダグ・ユールのソロ・アルバムなので勿論省略。仮定の話として、ポール・マッカートニーのいないウィングズがウィングズではないように)。
本作は独占配信中のApple TVを通じて観たが、常連訪問者のかずきさんのご紹介により、お試し期間を利用して観た次第。数本観て即解約するつもりである。
いずれにせよ、タイミングが良かった。結果から言うと、ブログの後から観て正解だったと思う。元々よく知っているがブログを書くために繰り返し聴いた結果、曲に皆聞き憶えがあることになって楽しめたからである。
序盤は、バンド結成前の、文学趣味があり挑戦的なロック音楽指向のルー・リードと、アヴァンギャルド音楽ばかりやっていたジョン・ケイルについて、二人と周辺の芸術家たちが次々と証言する。
ケイルは存命だからご本人が色々と証言する一方、リードは故人なのでアーカイヴでの登場である。音楽以外の芸術家は知らない人ばかりであるが、芸術が複合的・包摂的になっていく時代の気分がよく感じられ、なかなか興味深い。
しかし、ロック好きとしては、リードより上手いはずのもう一人のギターのスターリング・モリスンとドラムスの紅一点モーリーン(モー)・タッカーが出て来てから俄然面白くなる。バスドラを横にしてバチで叩く彼女のドラマーぶりを実物で見られたのは収穫だ。僕は、同じリズムを延々と続けることが多い彼女のドラムスを(打楽器故に音は継続しないものの)ドローンと名付けた。
デビュー・アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ』に参加したモデル・女優のニコの映像や彼女に関する証言も多く紹介される。ニコはヴォーカリストとして決して上手くはないが、独特の声が非常に面白い。ソロ・アルバムも良いものが多いが、結構若くして亡くなった。
映画は、どうしてもリードとケイルがビートルズのジョンとポールのように才能を競い合っていた最初の二枚を中心として扱うことになる。代表曲が幾つもある第一作は多様で、二作目『ホワイト・ライト/ホワイト・ヒート』はほぼノイズの嵐だ。
リードが追い払う形でケイルが脱退し、実験性のかけらもないような優等生ユールが加入したことで、後半の二枚は前衛性が殆ど消える。
但し、3枚目『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド』では例外的に「マーダー・ミステリー」が実験的で大変面白い。フォーク・ロック的で聴きやすく、前衛ぶりや過激さに拘らないのであれば、僕はVUでは3枚目を一番推す。
ネットで目にした “VUはフォークである” と言って譲らない人は三作目もしくは次の『ローデッド』から入ったとしか考えられないが、ケイルのいないVUは作詞・作曲のほぼ全てを手掛けるリードがいてもその本質を体現しない。やはり最初の二枚が彼らであり、この映画の時間の割き方を見てもそれと知れよう。彼もしくは彼女はこの映画を観ただろうか? これを観てなおフォークと言い張るのであれば、ものを理解する力が全くないと言うしかない。
閑話休題。
四作目には妊娠でモーリーンが参加できず(代わりのドラマー数名がぐっと一般的なドラムを叩いていて、聴き応えのあるものもある)、これを終えてモリスンは嫌になり、リードもそれと共に去る。冒頭で述べたように、途中参加のユールだけが残ってVU名義でアルバムを発表した次第。
基本はインタビュー形式の音楽ドキュメンタリーだが、監督がドラマ映画で素晴らしい実績のあるトッド・ヘインズだから、漫然とインタビュイーの姿を捉える時間は最小限で、挿話に合わせて全く関係のない既成映像を持ち込んで来たり、分割画面にしたり、色々と工夫を凝らしている。
相対的に長いバンド結成に至るまでの前段を、ロック・ファンの皆様にはどうかと思われる気もするが、VUくらいになるとビートルズ同様音楽だけの枠に留まらず、その背景から理解する必要があると理解できれば大いに楽しめると思う。
ルー・リードのソロ・アルバムは十作ほど持っているが、ケイルは一枚も持っていない。そろそろ勉強する頃合いと思う。ジョン・ケイルとジョン・ケイジをよく混同するのだが、アヴァンギャルドという共通点がある。実際ケイルはケイジの影響を受けたらしい。益々混同しそうだ。
この記事へのコメント
この作品は面白くて、結局2回観ちゃいました。
やはりこうした音楽ドキュメンタリーは、そのバンドの曲を知った上で観るとより面白いですね。
バンドの変遷も興味深く、内容に合わせたアヴァンギャルドな画面の使い方も面白かったです。
個人的にもモーリーン・タッカーのインタビューは大変楽しみました。
私は全然世代じゃないのですが(実はまだ30代です)、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのアルバムは一作目を特に聴き込んだので、「Sunday Morning」「Venus in Furs」などが流れると嬉しくなります。
オカピーさんの音楽ブログを読んで、最近他のアルバムもよく聴いてますが、三作目、四作目も良いですね。
「The Murder Mystery」は中毒性の高い曲です。
(ノイジーな二作目は、やはりだいぶ聴く人を選びます。)
現在進行中のドアーズも毎週楽しみにしています。
直にアップされるであろう「まぼろしの世界」、そして「L.A.ウーマン」は特に楽しみです。
それとApple TVについて私の説明不足でしたが、“自動更新をしない”設定にしていれば、期間終了と同時に契約終了となり、その後の月額料金は発生しないと思います。
いかがでしたか?
>この作品は面白くて、結局2回観ちゃいました。
2本くらいに集中できれば良かったのですが、他も観たので、2回見る時間はありませんでしたTT
>やはりこうした音楽ドキュメンタリーは、そのバンドの曲を知った上で観るとより面白いですね。
そう思います。
>内容に合わせたアヴァンギャルドな画面の使い方も面白かったです。
トッド・ヘインズですからね!
>個人的にもモーリーン・タッカーのインタビューは大変楽しみました。
随分おばあちゃんになっていました。
>私は全然世代じゃないのですが(実はまだ30代です)
うわっ、若いすね^^
>「Sunday Morning」「Venus in Furs」などが流れると嬉しくなります。
どちらも始まった瞬間にそれと解る!
>オカピーさんの音楽ブログを読んで、最近他のアルバムもよく聴いてますが、三作目、四作目も良いですね。
今度あちらでも何か書いてくださいよ。
昨日僕より60年代の音楽を体感しているモカさんが書き込んでくれて、やっと二人目ですよ。
かずきさんは三番目を目指してGO(笑)
>「The Murder Mystery」は中毒性の高い曲です。
中毒性という言葉はぴったりですね。
そう、嵌ると沼です。
>(ノイジーな二作目は、やはりだいぶ聴く人を選びます。)
仰る通り。僕も余り聴かなかった。
1曲目の音質が悪いせいもありましたが。
>現在進行中のドアーズも毎週楽しみにしています。
有難うございます。励みになります。
>直にアップされるであろう「まぼろしの世界」、そして「L.A.ウーマン」は特に楽しみです。
今、鋭意書いております。
音楽はプロではないのでテキトーなことしか書けませんが、ロックはカバーする範囲が広いので、必ずジャンル、細かいタイプを把握するように努めています。これで結構鍛えられますよ。
>Apple TVについて
>いかがでしたか?
先ほど見たら、影も形もなくなっていたので、大丈夫のようです。
有難うございました。