映画評「ルイ・アームストロング Black & Blue」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2022年アメリカ映画 監督サチャ・ジェンキンズ
ネタバレあり

期間限定Apple TVシリーズ第3弾。

一昨日に続いて音楽ドキュメンタリーだが、一昨日のヴェルヴェット・アンダーグラウンドが性的多様性が表立って沙汰される時代に生まれたバンドであるとすれば、本日のルイ・アームストロング(サッチモ)は公民権運動に全体的には静かに関わって来たジャズ・マンという感じである。

個人史としてもなかなか面白く、2番目の妻リル・ハーディンと収められた映像や音声資料も興味深いが、政治的な発言がぼちぼち出始める戦後に関しては、4番目にして最後の妻ルシール・ウィルスンの証言が重要になる。

マリファナ好きなどが平気で語られるところがアメリカならではで、パフォーマンスに良い影響があるのだとか。
 この映画とは関係ないが、一部で、麻薬のタイプが変わるごとに新しい音楽が生まれたと言われている。1960年代半ば以降のLSDがビートルズを筆頭にサイケデリア(サイケデリック・ロック、サイケデリック・フォークなど)を生んだように、

ご本人が半世紀以上前に亡くなった人であり、その関連者も当然大半が亡くなっているので、出て来る映像はほぼ全てアーカイヴであり、音声も一部を除いてアーカイヴであろう。その音声にしても、発言者の年齢を考えると、多くは近年録られたものではないはずである。
 登場する人物の中で唯一僕より若いウィントン・マルサリス(アームストロングと同じトランぺッター)だけは映画製作からそう離れていない時期に録られたものかもしれない。公民権運動に関する彼の発言が興味深かった。伝統は意味があるから続けられてきたのであり、公民権運動が何でもかんでも伝統を否定するのは間違いではないかという旨の発言で、人生の終盤を除いて公民権運動から直接的には一定の距離を置いていたサッチモに理解を示していると思われる。

いずれにしても膨大な音声・映像資料を取捨選択してまとめた労力と結果は素晴らしいもので、視聴者を飽きさせない。

僕の聴くジャズはバップからハード・バップ辺りまでだから、サッチモに関しては古い映画で演奏や歌を見聞する程度で詳しくなく、トランぺッターとしての凄さは全く解らない。
 歌手としては、中学生の時に映画で知った歌い方が面白いなあと思い、それは今でも変わらない。彼のようなユニークな歌い方があって、その後の様々なヴォーカル・スタイルが生まれたのではないか? レイ・チャールズ、ジェームズ・ブラウン、ビートルズが生まれたのも彼の存在があったから云々という発言も、満更大げさではないと思う。

日本人には、上手く聞こえるように歌うのが上手い人を上手いと思っている人が多いが、上手く聞こえるように歌うのが上手い人と真に歌が上手い人とは必ずしも同じではない。僕の兄も保険会社のお姉ちゃんもジョン・レノンは下手だと言うが、海外の偉大なるヴォーカリスト・ランキングでは必ず上位に来る。ワールドワイドに多様性(ならば、美空ひばりが入っていないのは調査不足と言わざるを得ない)に傾き過ぎて全く評判が悪い最新版のローリング・ストーン誌の評価でも白人としては1位である。上手い歌手と偉大な歌手という概念もまた違うと思われ、“上手い”という表現を僕は好かない。兄と姉が“上手い”と言う時は僕は口を挟まないことにしている。

この記事へのコメント

かずき
2025年06月06日 16:53
オカピーさん、こんにちは。

私はルイ・アームストロングには全然詳しくないですし、ジャズについても、マイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンをちょこっと聴いたくらいです。
それでもこの作品は興味深かったですし、ジャズの先駆者であるルイ・アームストロングについて要領よく纏められていて、実に面白かったです。

ジョン・レノンが下手とは、聞き捨てならない意見でしょうね。
ポール・マッカートニーも下手に聴こえるんでしょうかね?
上手い下手を通り越して、とにかく偉大なミュージシャンであることに変わりはないでしょう。
オカピー
2025年06月06日 21:55
かずきさん、こんにちは。

>マイルス・デイヴィスとジョン・コルトレーンをちょこっと聴いたくらいです。

ロック・ファンも一応は聴くべきお二人でしょう。

>ジョン・レノンが下手とは、聞き捨てならない意見でしょうね。

聞き捨てならないです(笑)
ジョンは、ピッチもリズムも正確ですから、音楽的に実に上手いわけですし、それに加えてあの声、あの独特の表現が凄いわけです。
バイブレーションがどうのこうの言っている輩には、永遠に解らない話なので、なるべく抵抗はしないようにしています。
しかし、今日もまた来た保険屋のお姉ちゃんは、兄貴とは違って、ある程度解っているところがあると確認できましたよ。

>ポール・マッカートニーも下手に聴こえるんでしょうかね?

ずっとジョンが一番だったのですが、近年僕はポールを1番にしているんです。歌い方の多様性と、コーラスワークの端倪すべからざる力。ジョンのコーラスも凄いですが、リード・ヴォーカルに寄せるのが巧みなポールは他を寄せ付けない感じ。
1980年代だったでしょうか、ビートルズ好きのミュージシャンが集まったてあれやこれや発言し合う中で、竹内まりやが“ポールは歌もうまいんですよねえ”と言った時の周囲の反応が微妙だった記憶があります。
思うに、当時より今の若い人の方が寧ろポールの歌唱力をきちんと把握している感じがします。

>上手い下手を通り越して、とにかく偉大なミュージシャンであることに変わりはないでしょう。

これは、言うまでもないですよね。
70年代80年代と違って、今はビートルズの悪口を言うロック・ファンは殆どいなくなった感じがします。昔は、特にローリング・ストーンズのファンが妙に敵対視していましたけれど。