映画評「名探偵ポワロ:ABC殺人事件」

☆☆☆(6点/10点満点中)
1992年イギリス映画 監督アンドリュー・グリーヴ
ネタバレあり

1年と少し前にアガサ・クリスティー「ABC殺人事件」をわが蔵書からピックアップして再読した。クリスティーの人気作の中でも極めて正攻法の見立て殺人ものであり、好きか嫌いかで言えばトップ・クラスに愛する。

見るべき洋画が余りに乏しいので、TV映画故の腰の弱さを感じることも間々あるが、プライムビデオに相当あるこのシリーズの一本を観ることにした。とりあえず原作を読んだことのある作品からピックアップするのを前提に考えた次第。

第4シリーズの第1話である。

ポワロ(デーヴィッド・スーシェ)の許に事件が起こる氏名を記した予告殺人の手紙が届き、その通りに事件が起きる。さらに予告が続く。送り主のペンネームABC通り、ABCの順番でABCの市名とABCの氏名を持つ男女が次々と殺されるのである。ところが、Dの時に殺されたのは関係のない氏名の男性で、間もなく病持ちのストッキング売りが逮捕される。
 が、容疑者A・B・カスト Cust(ドナルド・サンプター)と対面したポワロは彼が真犯人でないことを確信する。

というお話で、冒頭で述べたように見立て殺人ものであり、エドガー・アラン・ポーの「失われた手紙」の理屈を発展させたような着想など、楽しめる要素が色色とあり、理念を優先する余り本格ミステリーの本来の楽しみを失わせているケネス・ブラナーの三作よりすっきり見られる分だけずっと良い。
 近年(実は米国以上に)英国では映画もドラマもDEIを意識しすぎた、僕の灰色の脳細胞を混乱させる配役が多くて困っているのだが、前世紀の作品だけにそういう不都合が全く見えず有難い。スーシェのポワロもいかにもそれらしくて良い。
 敢えてブラナー版を褒めるとすれば、やはり映画らしいけれん味と華美さがある。

ポワロものにはヘイスティングズ大尉(ヒュー・フレイザー)なるワトソン役がいるが、ジャップ警部も初期の作品にはよく出て来る。
 欧米の先人の影響を受けている横溝正史はポワロとジャップの関係から、金田一耕助に対する磯川警部を生み出したのではないか、という気がしてくる。

僕は、YA小説を中心に人気のクローズド・サークルものより見立て殺人もののほうが断然好み。本稿では、本格ミステリーだけにストーリーの詳細に余り触れられなかったですがね。

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