映画評「スオミの話をしよう」

☆☆★(5点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・三谷幸喜
ネタバレあり

三谷幸喜の映画を世間の平均よりは評価していると思うが、近年はやや不調か。本作は、前々作「ギャラクシー街道」よりは遥かに面白い。例によってシチュエーションで笑わせるビリー・ワイルダーの作品群を意識しているという感じがする。

相田みつをみたいな箴言が好評の詩人寒川(坂東彌十郎)の細君スオミ(長澤まさみ)が行方不明になる。彼女の前夫の東野圭吾ならぬ草野圭吾(西島秀俊)が後輩の小磯刑事(瀬戸康史)を連れてやって来る。刑事ではあるが、誘拐絡みの犯罪の担当ではなく、あくまで私人プラスαレベルらしい。
 続いて、詩人なのに実は吝嗇で大富豪である寒川の屋敷で働いている使用人魚山(遠藤憲一)も最初の夫と判明。この話を聞いた風俗保安課所属らしい宇賀神刑事(小林隆)も3番目の夫として加わり、誘拐が確定した後身代金不足分を贖う為現れた青年実業家十勝(松坂桃李)は2番目の夫。
 この五人はスオミを助けるより、自分が彼女にとってどれほどの価値があるのか競い合う。

これだけでは大した趣向のお話とは言い難いが、人の他人に対して勝手に抱くイメージを通奏低音としたことで少しだけ面白味が加わる。草野のヒロインのイメージが料理も何もできない不器用で大きな声で話すこともない女性なのに対し、現在の夫は料理が得意で積極的な細君だと言う。
 この落差は何なのだというところから始まり、彼女の担任教師であった魚山は料理は自分が作っているのであり、スオミは相手によってその対応を変えるのだと謎を解く。ここの面白さの貢献が少しなのは性格の違いの謎がすぐに解けてしまうからである。
 水のように器によって姿を変える女性というわけで、そこにあるのは勿論幸福希求ということになる。そして、夫たちが元妻に対して未練たらたらであるところにファム・ファタールものの作品の性格が打ち出されていようか。
 イメージについては、詩人のイメージを大きく覆す寒川の存在も補完要素で、この類がもう一つがところあれば、人の持つイメージの不確かさが徹底できてもっと可笑し味も出たと思う。

嘘and/or誤解がシチュエーション・コメディーの必要条件と僕はずっと言ってきたが、本作は一応その要件を満たしている。嘘と誤解でコメディーを作っていたワイルダーを研究した結果だろう。しかるに、場面転換の呼吸などがワイルダーのようにはできていないので、そう満足できない。多分長回しを使い過ぎの弊害である。

一人五役とも解釈できる一人一役を長澤まさみが楽しそうに演じているが、「コンフィデンスマン」シリーズでの活躍で、この手のキャラクターを自家薬籠中のものとしている感が強い。相棒を演じる宮澤エマも頑張りも目立つ。

本作の中でもスオミという言葉の説明が出て来るが、フィンランドやフィンランド人その他フィンランドに絡む諸々のこと。という次第でフィンランドの話かと思ったら、個人名でありつつ、関連はありました。

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