映画評「まる」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・荻上直子
ネタバレあり

荻上直子は最近良くないというのが映画ファンの公約数的な評価のようだが、僕は逆で、苦手だったオフビート感が薄めになって(こちらが慣れただけかもしれないが)馴染みやすいのである。但し、苦手時代の「かもめ食堂」を超える作品を作れていないとは僕も思う。本作はオフビートぶりがかなり復活しているか。
 アキ・カウリスマキのようなムードは以前ほど感じないものの、堂本剛の沢田が街を歩くショットなどにはそんな空気が醸成され、相変わらずだなとニヤニヤしていた。

沢田は美大を出たものの芽が出ず、現代美術の大物・吉田鋼太郎の助手の一人に甘んじているある日、自転車事故を起こして手を負傷して即刻首になる。
 金欠病の折、茶の先生・柄本明の円発言に触発されたか、〇を描いて片桐はいりの古道具屋に持っていくと、後日謎の人物が現れ、円相の絵に100万円を払うと言われ、自分の絵を飾っていた美術商・小林聡美の許を訪れると、あれよあれよと個展を開くところまで行く。既に円相ブームが起きている最中で、その個展の場で名乗り出ると、誰もが知る有名人になる。
 ボロアパートの隣室に暮らす漫画家志願・綾野剛と変な絡まれ方をするうちに、彼は芸術とは何か、人間・人生とはないかと考えざるを得ない。
 かくして円相ではなく別の抽象絵画を持っていくとやはり円相を請われ、その絵の上に円相を描いて真ん中を破る。しかし、現代アートでは有名人の描いたものであれば破れていても価値が増すことすらある。
 彼は、恐らく大金を得たであろう後も相変わらず住んでいたボロアパートを出て自転車を漕ぎだす。

というとぼけた哲学的狂騒劇で、僕には、芸術にも人生にも正論などない、と荻上監督が言っているように思えた。

この映画の狂言回しは茶の先生で、今度は旗を振っている工事現場で主人公に“底辺x高さ÷2”と叫ぶ。〇の次は△という次第。この先生は恐らく神様ですな。
 共産主義的思想を振りかざして常に主人公の周りに現れるのが元同僚の美人・吉岡里帆。恐らく彼女たちは逮捕されるであろうが、現代アートにおいて、先ほどの伝で、 汚されることで価値が上がる可能性すらある (画家本人が汚したわけではないので問題はある) 。この女性は芸術論の叩き台として出て来るわけだが、これに人生の叩き台である綾野剛とが絡み合って、狂騒的な世界を作り上げるのである。

この叩き台の二人に対して、主人公は固定観念に縛られず融通無碍のところがあり、好もしい。お金儲けや名声に対して必ずしも無心でないのが却って良い。堂本剛が芸術家に見えないという意見は、それこそ固定観念に縛られていて全く面白くない。
 適役か好演かはさておき、この配役は失敗ではなく、監督の狙いである。アーノルド・シュワルツェネッガーを使って敢えてアクションをさせなかった「マギー」への意見を想起させる。肩透かしがあの映画の趣向だったが、それを見抜けない人が多かった。

現代美術とは言え、ガラスケースに入れないのは駄目でしょうな。

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