映画評「本日公休」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年台湾映画 監督フー・ティエンユー
ネタバレあり

現在はスーパー敷地内にある1200円の理容室を使用しているが、6,7年前まで代金として3500円ほど払う、同じ集落ではないものの頑張れば歩いて行ける床屋に通っていた。理容師は僕より一回り程年上のおばちゃんで、お互いにお喋りなので色々と喋ったものである。“また来ますと” と言って次に行った時やっていず、 後日近所の人から “おばちゃんは死んだ” と言われた。 髪の毛などお構いなしで5か月に一度くらいしか行かない為、全く知らなかった。3か月に一度なら間に合ったと思う。
 翻って、4年前に元々は熱中症が原因で半身不随になった亡兄は僕とは正反対にお洒落で、 亡くなる四日前に病院で会った時に “電話帳を持ってきてくれ。床屋へ行きたい” などと施設に来る理容師が気に入らないのだった。 僕らにとってはその言葉が最後となった。その意志を神様が聞いてくれたのか、四日後に兄は亡くなり、専門家を通して綺麗な髪型になり、棺に収まった。

この二つの個人的な経験を思い起こさずにはいられない本作は、ベテラン女性理容師アールイ(ルー・シャオフェン)の人生を描く人間ドラマである。

彼女は、長男ナン(シー・ミンシュアイ)、長女シン(アニー・チェン)、次女リン(ファン・ジーヨウ)に黙って、今は遠方に越した常連客の元歯医者の為に台中から台北に向けて暫く運転もしていない車で出発するのである。彼女の出発を知っているのは、小さな自動車修理工場を営む元娘婿チュアン(フー・モンポ―)だけ。これを見ても二人の関係の良さが解ると言うもので実に微笑ましい。子供たちも母親と仲が悪いわけではなく、彼らにとって距離を取っていたほうが楽ということがあるのだろう。娘婿は幼馴染の借金に絡む夫婦喧嘩が示唆するように人情家であることに加え、血が繋がらないからこそできる親密さもあるのだろう。人間というのは難しいものですな。

三分の一くらいはロード・ムービーで、ここで出会う人々とのエピソードもなかなか心温まる。
 バイク族に絡まれるかと思いきや、その一人が昔髪を刈ってやった少年だった為に寧ろ大助かりという一幕など、山田洋次の映画を観ているような気分になってなかなか良い。

難点はフラッシュバックとフラッシュ・フォワード(おばちゃんが車を出す最初のシーンは映画構造論的にはフラッシュ・フォワードと考えられる)の扱いが余り良くなくて混乱させられるので、ここをもっと整理できればぐっと良い映画になったと思う。

主題は一つ【お金より精神】、一つ【年寄りを老害などと蔑むことなかれ】である。僕の人生観とほぼ同じである。離婚回数では若者に負けない、などと燥ぐ老婦人たちの何と素敵なことか!

もう後何年生きられるか分からないというのに【お金が増えますよ】というタイプの一時払い保険に二つも加入させられた。既に使っている保険を利用する形なので、出金はないのだが、もう面倒くさいだけ。出金はなくても、3年以内に解約すると損をする。年寄りの3年の価値は若者より全然大きい、ということを今度会った時に言ってやろうかと思う。

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