映画評「室井慎次 生き続ける者」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・本広克行
ネタバレあり

シリーズ・スピンオフ二部作の後編で、前作で起きた車庫の火事は二つの可能性が考えられたものの、呆気なく杏(福本莉子)の犯行と判明する。
 旧作「踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!」の犯人たちを絡めながらも、この作品は引退したキャリア室井慎次(柳葉敏郎)が引き取った、ある意味いずれも親を失った子供たち3人との疑似家族が確固たるものになっていく様子を描いている。捜査のほうがアクセントで、純然たるヒューマン・ドラマと言って良い。

数年前の僕ならここまでの☆を付けなかっただろうが、映画の水準が下がっているだけでなく、日本の人心がかなり荒れている現状を憂える身としては、室井慎次のような精神性を持つ人ばかりなら人間社会は平和であるという感慨を大いに覚えた為、恐らく実力以上と言って良い☆を付けたのである。
 能天気かもしれないが、人を疑わないというモットーはとりあえず庶民レベルにおいては自らの心の平和すら保証する。彼の精神性は、カルトのカリスマ日向真奈美(小泉今日子)の娘・杏から母親の魔の呪縛を解き放つ。これに絡むシークエンスもなかなか意味深長で、必ずしも能天気だけとも言えない彼の官憲出身ならではの哲学が結構身に染みる。ここに至ると室井慎次は哲学者であると思わせる。

児童相談所のダメぶりは現実を反映したものだろうが、小学中学年くらいのリク(前山くうが/こうが)を実父(加藤浩次)に返す時の室井の台詞は気に入らない。少年と会わないことを誓わせる児相に対して彼は “約束する” と言うのだが、 “本人が(室井宅に)戻りたい時には受け入れます” くらいにしたほうが、 後段での説得力が増したと思う。
 彼の精神性は村人の偏見も払拭する。それが描かれている故に、彼が愛犬を探しに行って(リクの父親に無理やり解き放たれた犬がすぐに帰って来ないのは少少不自然)死んでしまった後の子供たちの行動が一応格好になる。村人が昔のままなら子供たちの意志(あるいは室井の遺志か)は実現に至らないであろう。それが “生き続ける者” の意味である。

熱烈なファンの方を除く方々に不評のフッテージの挿入もさほどうるさいとは思われない。

人心の悪化について。本日「絶対『謝らない人』」という本の広告を見た。趣旨は、謝らない日本人が増えて来た、というものらしい。外国人には自ら謝るという習慣がない為、日本人が外交で自ら謝るのは損を齎す、と我が姉は大分前から言っていたのを思い出す。兵庫県の知事も伊東市の市長も確かに昔の意味での謝り方は金輪際しない。そのうち、オールド・メディアに不信を持っている人々が逆張りにも彼らを応援するうちに、逆転してしまう。嫌な時代だ。他方、外国人が本当に自ら謝らないかと言うと、洋画を観ていると日本人ほどではないにしても謝る人も結構見かける。

この記事へのコメント