映画評「特捜部Q Pからのメッセージ」
☆☆☆★(7点/10点満点中)
2015年デンマーク=ドイツ=スウェーデン=ノルウェー合作映画 監督ハンス・ペデル・モランド
ネタバレあり
デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの刑事ミステリー・シリーズは2~3年のスパンで映画化され、シリーズ化している。但し、5作目から主演コンビを演ずる俳優が変わったらしい。
僕は第1作、第2作、第4作と観て来たが、第1作が初見ということもあって気に入った。この第3作はなかなか良いが、第1作を観てからちょうど10年経ち、正確に比較するのは難しい。
迷宮入り事件に特化する特捜部Qに所属する刑事カール(ニコライ・リー・コス)とアラブ人の相棒アサド(ファレス・ファレス)が、ボトルに入っていた手紙を分析するうち、誘拐事件の被害者が送ったものと確信する。手紙の主は数年前に兄弟で誘拐され生き残った弟のものと判る。
折も折10歳を挟むくらいの姉と弟が宗教者と思われていた男ヨハネス(ポール・スヴェーレ・ハーゲン)に誘拐されるという事件が起き、原理主義者の両親を説得し、刑事たちが要求された身代金を届ける列車に張り込む。主人公たちは車で追尾するが、まんまと逃げられる。
父親は犯人によって瀕死の重傷を負い、看護師に偽装したヨハネスにより絶命させられ、母親も襲われる。カールは追跡に失敗して捕えられて犯人の拠点に連れ込まれる。
アサドたちは前の事件の生存者が聞いた音を頼りにその在り処を探る。
本作には三種類の人種が現れる。一つは信心深い人(アサドや被害者・加害者家族)、一つは無神論者(カール)、一つは神を信じず悪魔に帰依する人(ヨハネス)である。
僕に言わせれば、一番落ち着いた生活が送れるのは無神論者であり、強い信仰は人々に避難場所になれると同時に色々な悲劇を生み、時にヨハネスのようなサイコパスを誕生させる。三番目は一番目の裏返しにすぎない。
最後の場面を見ると、この映画は信仰(神への帰依)を否定しないが、信仰が人間存在にとって非常に危ういものであることをしっかり見せている。ヨハネスにとって皮肉なことに、無神論者カールは事件によって多少なりとも信仰に近づくのである。
犯人は観客には最初から分かってい、刑事たちも比較的早く掴むので、倒叙ミステリーである。倒叙ミステリーであっても犯人のアジトだけが解らず、その間は謎解きより犯人と刑事の逃走・追跡を見せるサスペンスという仕立てである。
最後は謎解きとサスペンスが並行して進む形になり、中盤以降のサスペンス同様にヒヤヒヤドキドキさせ、上出来と言うべし。
設定は日本の「相棒」シリーズに似ている。あちらも特命係と呼ばれて左遷組に近い存在。違うのは「相棒」の右京はホームズばりの天才であり、こちらのカールは地道派であること。
しかし、「相棒」シリーズが映画版になると大風呂敷を広げ過ぎておかしな具合になることが多いのに対し、このシリーズはさすがに人気の原作をベースに、華美に走らない作り方が奏功して、ミステリー・サスペンスとして上品な仕上がりとなっている。日本の刑事ドラマの関係者におかれては映画版を作る際に大いに参考にしてもらいたい。
マルクスが “宗教はアヘンである” と言ったのは、正解であるような気がする。
2015年デンマーク=ドイツ=スウェーデン=ノルウェー合作映画 監督ハンス・ペデル・モランド
ネタバレあり
デンマークの作家ユッシ・エーズラ・オールスンの刑事ミステリー・シリーズは2~3年のスパンで映画化され、シリーズ化している。但し、5作目から主演コンビを演ずる俳優が変わったらしい。
僕は第1作、第2作、第4作と観て来たが、第1作が初見ということもあって気に入った。この第3作はなかなか良いが、第1作を観てからちょうど10年経ち、正確に比較するのは難しい。
迷宮入り事件に特化する特捜部Qに所属する刑事カール(ニコライ・リー・コス)とアラブ人の相棒アサド(ファレス・ファレス)が、ボトルに入っていた手紙を分析するうち、誘拐事件の被害者が送ったものと確信する。手紙の主は数年前に兄弟で誘拐され生き残った弟のものと判る。
折も折10歳を挟むくらいの姉と弟が宗教者と思われていた男ヨハネス(ポール・スヴェーレ・ハーゲン)に誘拐されるという事件が起き、原理主義者の両親を説得し、刑事たちが要求された身代金を届ける列車に張り込む。主人公たちは車で追尾するが、まんまと逃げられる。
父親は犯人によって瀕死の重傷を負い、看護師に偽装したヨハネスにより絶命させられ、母親も襲われる。カールは追跡に失敗して捕えられて犯人の拠点に連れ込まれる。
アサドたちは前の事件の生存者が聞いた音を頼りにその在り処を探る。
本作には三種類の人種が現れる。一つは信心深い人(アサドや被害者・加害者家族)、一つは無神論者(カール)、一つは神を信じず悪魔に帰依する人(ヨハネス)である。
僕に言わせれば、一番落ち着いた生活が送れるのは無神論者であり、強い信仰は人々に避難場所になれると同時に色々な悲劇を生み、時にヨハネスのようなサイコパスを誕生させる。三番目は一番目の裏返しにすぎない。
最後の場面を見ると、この映画は信仰(神への帰依)を否定しないが、信仰が人間存在にとって非常に危ういものであることをしっかり見せている。ヨハネスにとって皮肉なことに、無神論者カールは事件によって多少なりとも信仰に近づくのである。
犯人は観客には最初から分かってい、刑事たちも比較的早く掴むので、倒叙ミステリーである。倒叙ミステリーであっても犯人のアジトだけが解らず、その間は謎解きより犯人と刑事の逃走・追跡を見せるサスペンスという仕立てである。
最後は謎解きとサスペンスが並行して進む形になり、中盤以降のサスペンス同様にヒヤヒヤドキドキさせ、上出来と言うべし。
設定は日本の「相棒」シリーズに似ている。あちらも特命係と呼ばれて左遷組に近い存在。違うのは「相棒」の右京はホームズばりの天才であり、こちらのカールは地道派であること。
しかし、「相棒」シリーズが映画版になると大風呂敷を広げ過ぎておかしな具合になることが多いのに対し、このシリーズはさすがに人気の原作をベースに、華美に走らない作り方が奏功して、ミステリー・サスペンスとして上品な仕上がりとなっている。日本の刑事ドラマの関係者におかれては映画版を作る際に大いに参考にしてもらいたい。
マルクスが “宗教はアヘンである” と言ったのは、正解であるような気がする。
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