映画評「本陣殺人事件」

☆☆★(5点/10点満点中)
1975年日本映画 監督・高林陽一
ネタバレあり

横溝正史も碌に知らない高校時代にATG主導で本作が公開され、ちょっとした金田一耕助ブームが起きて角川書店が大いに売り込むうち、市川崑監督=石坂浩二主演コンビのシリーズ第1作「犬神家の一族」が作られ、ご存じの通りブームは一過性に終わらず大ブームに発展してTVでもシリーズ化された。
 個人史を振り返れば、市川=石坂版を全て観てから本作を観て、相当がっかりした記憶がある。ATG映画として観れば程々に楽しめるが、本格ミステリーとして観ると、解決部分が分散していて落ち着かない。

ミステリー・ファンならご存じのように、原作は金田一耕助初登場の一編。

地方の旧家・一柳家の長男賢造(田村高廣)とアメリカ帰りの成金久保(加賀邦男)の娘・克子(水原ゆう紀)の祝言が行われるが、翌日密室状態の離れにいる二人の血まみれの死体が発見され、襖に三本の指による血痕が見出される。凶器が発見されず、庭に積もった雪に足跡がない。
 このミステリアスな事件に磯川警部(東野孝彦)が当たることになり、上官の信頼もあり久保の知人でもある私立探偵金田一耕助(中尾彬)が協力することになる。

刑事(公立探偵)その他の官憲と素人探偵が協力するのは欧米の本格ミステリーによくあったもので、僕はS・S・ヴァン・ダインのファイロ・ヴァンスものを思い出す。

原作での舞台は太平洋戦争の前、最初の映画化「三本指の男」(1947年)では確か製作年辺りの時代であったと記憶する。
 本作も製作年度に近い設定と思われ、金田一もジーパン姿と異色だが、僕が時代変更のマイナス面を感じるのは、祝言の仕方と賢造の古臭すぎる女性観・結婚観である。これが謎解きの根幹にあるのだから看過するわけには参らぬ。これが通じるのは1955(昭和30)年くらいまでであろう。

また、先述通り、解決部分の見せ方が、探偵が推理を全て開陳するという本格ミステリーの常套に頼らないのが良いと言えると同時に、分散されすぎていてすっきりしない印象も残り、僕は後者に引きずられて良い採点をすることができないでいる。

最後に、劇場用映画デビュー前の大林宣彦が音楽を担当しているという変わり種であることを記載しておきたい。

再読中のファイロ・ヴァンスもの「カナリヤ殺人事件」は今日読み終える。これも密室殺人である。

この記事へのコメント

蟷螂の斧
2025年10月20日 18:40
こんばんは。僕はこの作品は結構好きです。数年前に録画して見ました。中尾彬の金田一耕助が意外に合っていると思いました。低予算映画で時代の設定は現代(1070年代)で長髪でジーパンでヒッピー風の金田一。豆を食べながら頭を掻くのが様になっていました。そのあたりがATG映画です。
物語も最後までハラハラしながら見ました。
オカピー
2025年10月20日 22:25
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>低予算映画で時代の設定は現代(1070年代)

設定を現在にするなら、結婚観を原作から変えるべきでしたでしょうね。
あのタイプの男性は70年代にもいましたし、現在でもいるでしょうが、少し違和感を残します。

>ATG

の映画と考えると、悪くなかったですね。
中尾彬の金田一耕助の語りのごく一部をご本人の声をインサートとするところがとりわけ芸術的。途中で入れ替えて継続するのは珍しくないですが、ほんの1~2秒でしたからびっくりしましたよ。
2026年05月09日 08:46
おもしろかったです、原作は読んでいないのですが、映画だけみても密室殺人がよく描かれていましたね。あのトリックを見せるのは映画が向いているような。

1970年代の日本が舞台になっているので、子どもの頃見たものを思い出して、そういうところも楽しかったです。
オカピー
2026年05月09日 22:02
nesskoさん、こんにちは。

>密室殺人がよく描かれていましたね。

密室殺人は本格推理の一番人気!
近年ミステリーの幅がどんどん広がって、本格推理はミステリーの一部のジャンルにすぎなくなりましたが、よく出来た本格推理は楽しいですね。
「本陣」のアイデアは上等と思いました。

>1970年代の日本が舞台になっているので、子どもの頃見たものを思い出して、そういうところも楽しかったです。

映画としてはそういうところが楽しめますね。
反面、主人公の恋愛観・結婚観は既に古い感じがして、原作の戦前からずらしすぎてミスマッチの感ありでした。
市川崑ちゃん的に、作品が書かれた頃にしたほうが良かった気がしますよ。