映画評「大時計」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1948年アメリカ映画 監督ジョン・ファロー
ネタバレあり

1990年代の初めくらいだったろうか、衛星放送(多分NHK‐BS)で観た。その前後にリメイク「追いつめられて」(1988年)も観ていて、かの作品を観たのがWOWOWが本格始動した1991年頃の筈であるから、オリジナルのこちらが後かもしれない。

設定の面白さにワクワクさせられるサスペンスである。

出版社の青年幹部レイ・ミランドが、妻モーリーン・オサリヴァンや息子との休暇を優先した為に、独裁者的な社長チャールズ・ロートンに首にされる。その憂さ晴らしに酒場に寄り、占いが得意という美人リタ・ジョンスンと会話を繰り広げるうちに出発の時間に遅れ、為に彼女の部屋で暫し過ごすことになる。
 不倫を映画で堂々と描くことが御法度であった時代の映画であるから、それらしき気配すらないが、細君は再会した後も疑ったまま。彼がいる間に実はリタのパトロンであったロートンが訪れ、主人公が立ち去った後、嫌味を言った愛人を直前ミランドが買った置時計で殴り殺してしまう。
 茫然自失のロートンは、悪賢い懐刀ジョージ・マクレディに相談した結果、マクレディは彼女がその夜一緒に行動したことだけが確認されている謎の男を犯人に仕立て上げ、翌日ミランドに犯人捜しを指揮させる。

何と言っても面白さはここ即ち自分が犯人とされる自分を探すという変わった設定に集約される。アルフレッド・ヒッチコックの映画のように巻き込まれ型ではあるが、それを逃れうるチャンスがヒッチコック映画の主人公たちより大きく与えられているのである。サスペンスは小さい代わりに、動かし方次第ではぐっと楽しめるわけで、実際なかなかうまく作られている。

犯行が起こる前の主人公の行動には説得力が薄いものの、ミステリー・ファンならば知っていても不思議ではないジョナサン・ラティマーの脚色(同名の原作はケネス・フィアリング作)は悪くない。
 ラティマーはコーネル・ウールリッチの傑作「幻の女」の原型になったようなタイムリミット・サスペンス「処刑 (死刑)6日前」を書いた人である。「処刑6日前」は小学生時代に僕がルパン以外で初めて読んだサスペンス小説だ。

中でも絵画の扱いが巧く、エルザ・ランチェスターの女流画家がヒッチコック映画を思わせるコメディ・リリーフぶりで大いに楽しませる。多分彼女の配置がこの映画で一番気に入った部分と言っても過言ではない。

監督のファローは出演者モーリーン・オサリヴァン(「ターザン」のジェーン役で有名)の夫君で、二人の間に生まれたのがミア・ファローでござる。

この記事へのコメント

2026年03月07日 07:41
観ました、おもしろかったです。ヒッチコックの映画に見られる映像の流れのたのしさみたいなのは乏しいですが、登場人物、ニューヨークの街だからいるおもしろい人たち、それと、主人公がだんだん「え?」と、自分の状況に気がついていくハラハラ感。同性愛の香りもちょっと出してましたね。
オカピー
2026年03月07日 18:19
nesskoさん、こんにちは。

>ヒッチコックの映画に見られる映像の流れのたのしさみたいなのは乏しい

ヒッチコックの流麗さを求めるのは、職業監督のジョン・ファローにはちょいと無理ですねえ。

しかし、着想は抜群でした。