映画評「軽蔑」(1963年)

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1963年フランス=イタリア合作映画 監督ジャン=リュック・ゴダール
ネタバレあり

1966年の「男性・女性」以降文字と言葉のコラージュという手法をどんどん進めていくことになるジャン=リュック・ゴダールも、その3年前にイタリアの著名作家アルベルト・モラヴィアの同名小説を映画化した本作ではかなりまともにドラマとして作っている。

とは言え、昨日のルイ・マルが「私生活」でブリジット・バルドーをヒロインに重ねたのに似て、本作ではゴダールが自らと細君アンナ・カリーナとの夫婦関係を重ね、なおかつ、敬愛する映画人の一人フリッツ・ラング監督を本人役として起用するなどメタフィクション的な作りが目立つ。
 さらに言えば、始まりはフランソワ・トリュフォー「華氏451」(1966年)に先んじてキャストとスタッフを文字ではなくナレーションで示し(かの作品では焚書をテーマにした内容に合わせる為の細工)、撮影監督ラウール・クタールも出演させている。

ラング監督の演出の下で撮影が進められているギリシャ神話もの「オデュッセイア」が難解なので、アメリカ人の製作者ジャック・パランスが、フランスの劇作家ミシェル・ピッコリに脚色を依頼しに訪れる。
 脚本家にはタイピストだった美貌の妻ブリジット・バルドーがい、製作者を訪問した際のちょっとした出来事から、妻の態度が急変する。妻がもう自分を愛していないのではないかと感じ、理由を質す。はっきりと解らないものの、軽蔑というキーワードが出て来る。脚色の作業にも行き詰まりを感じ、別々に行動するうち、ローマへ帰る途上BBとパランスは交通事故死する。

大体において何年か前に読んだ原作通りだが、オデュッセウス(ユリシーズ)と妻ペーネロペーの関係を劇作家が自分と妻に重ねるという部分にゴダールがさらに自分たちを重ねるという着想がなかなか興味深い。

夫婦喧嘩を巡ってはややこしいのでこの辺に留めて、ゴダールが愛する映画・映画人がラングの他に色々と出て来るので、ちょっと紹介しておくと、まずアルフレッド・ヒッチコック監督「サイコ」(1960年)とハワード・ホークス監督「ハタリ!」(1961年)とポスターが出て来る。ホークスでは「リオ・ブラボー」(1959年)の題名も出て来る。ニコラス・レイでは「黒の報酬」(1956年)と来る。
 ゴダールやカイエ・デュ・シネマ派の趣味を知っているとニヤッとさせられる次第だが、ちょっとやり過ぎの感もありますかな。

今回の4Kレストア版での放映は、「私生活」同様、画面に関して非常に満足感が大きい。
 ゴダールらしいのは会話の場面で、切り返しの代わりに、左右に座った人物を会話に応じてカメラを左右に移動するという演出である。切り返しの代わりではないが、同じ手法が他に2回見られた。この後の作品でこうしたカメラワークは何度もお目にかかることになる。

多少解像度が低くても昔の映画なら観たいと言って来たが、ここまで鮮明なのを見てしまうと、ぼんやり画面はご遠慮申し上げたくなる。

この記事へのコメント

2025年12月07日 12:45
これはゴダールがBBを持て余し気味に見えるところがおもしろかった記憶が。
このころがBBの美しさのピークだったのか、臨界点だったのか、とも思いました。
2025年12月07日 15:18
ゴダール作品で一番好きな作品かも知れないです。
あと、「勝手にしやがれ」と「女と男のいる舗道」も一見の価値あり。

これ、男と女の気持ちの揺れがきっちりと描かれていてぞくぞくしますね。
実生活の葛藤が反映されているんだろうと明確に思います。
ゴダールもただの男、なんですなぁ、ある部分では・・。
オカピー
2025年12月07日 18:56
nesskoさん、こんにちは。

>ゴダールがBBを持て余し気味に見えるところがおもしろかった

アンナ・カリーナを使えればもっとぴったし来たのでしょうけど、さすがにそういうわけには行かなかったのでしょうね。

>このころがBBの美しさのピークだったのか、臨界点だったのか

確かに以前のような艶笑喜劇的な役柄からの脱却気味だったのかもしれません。「ビバ!マリア」には艶笑喜劇の気がありますが、かなりアングルが付けられて、50年代のものとは匂いが全然違いました。
オカピー
2025年12月07日 19:04
十瑠さん、こんにちは。

>ゴダール作品で一番好きな作品かも知れないです。

一番ゴダールらしくない作品と言われますから、彼の熱烈なファンでない方からの評価は高くなるかもしれません。
そういうタイプの監督には、デーヴィッド・リンチやティム・バートンがいますね。

>「勝手にしやがれ」と「女と男のいる舗道」も一見の価値あり。

初期はある程度ドラマがきっちりしています。
「勝手にしやがれ」は、ファンもアンチも大体好きですね。

>男と女の気持ちの揺れがきっちりと描かれていてぞくぞくしますね。
>実生活の葛藤が反映されているんだろうと明確に思います。

そう言われていますし、実際そんな気がぷんぷんしますね。