映画評「異人たち」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2023年イギリス=アメリカ合作映画 監督アンドリュー・ヘイ
ネタバレあり

大林宣彦監督が山田太一の小説を映画化した「異人たちの夏」(1988年)は秀作だった。本作がそのリメイクと聞き、良い映画で保存版を作りたくなる可能性が高いと思い、配信に出ることを知りつつ、レコーダーでも録画した。が、保存版にはしないことになろう。

孤独な人生を送って来た中年脚本家アンドリュー・スコットが、同じタワー・マンションの住人ポール・メスカルからウイスキーを一緒にどうかと誘われるが、少々不気味に思ってドアを閉じてしまう。
 後日、30年前に彼が12歳の少年の時に交通事故死した両親と暮らした家に行ってみると、当時と同じ様子の両親が迎えてくれる。中年になっても息子とすぐに解り、彼は事あるごとに家を訪れ、少年時代必ずしも良い関係とは言えなかった互いの関係を語ったり、自分がゲイであることを打ち明ける。ゲイ環境が大きく異なっていることに驚くと共に、それほど時間を経ずに彼の性指向だけでなく人となり全てを信じ、愛してくれるようになる。彼もまた同様である。
 その間に彼はメスカルと昵懇の仲になるが、両親と最後の面会を果たした後、メスカルが自分の部屋の前に現れたあの日に自殺をしたことに気付く。

というお話で、映画的ムードには感心したものの、同性愛者は嫌いではないが同性愛者の性愛場面を観るのがひどく苦手な僕は、思った以上に多い性愛場面の為に余り良い採点ができず、保存版にしないだろうと言った理由はそれに尽きる。
 翻って、生存中には為し得なかった両親との関係改善の描写は洗練されているし、孤独感それもヘテロではないが故に生じる孤独感の醸成も悪くないと思う。

オリジナルは明らかにファンタジーでもあった。しかし、本作は、先週アップした「リー・ミラー 彼女の瞳が映す世界」の種明かしを見た後では、主人公と他の三人の関係が主人公の自問自答に見えて来ないでもない。ファンタジー仕立てにした意味合いが薄すぎるのはないかという気がする。

脚色・監督のアンドリュー・ヘイは、山田太一同様に自分の人生を投影、同性愛者の社会における位置を生かして孤独感の醸成が原作以上にうまく行った感すらある。但し、同性愛者の環境が著しく改善されたようなことを主人公が母親に述べるのは劇的には逆効果だろう。

この映画の邦題【異人たち】は、同性愛者というマイノリティの意味にとれないでもないですな。

この記事へのコメント

モカ
2025年12月09日 14:42
こんにちは。

この映画化にはびっくりしました。予告編だけ観ましたが、全編を観るのは躊躇しています。
原作が大好きな本なので複雑な心境です。オカピー先生は読まれましたか?
大林監督の映画は鶴太郎と秋吉久美子の両親が絶妙な配役で良かったですが、やはり原作には及ばないと思います。
40年近く前の文庫本を拾い読みして泣いてしまいました。
親想いのオカピー先生なら号泣必至です。

浅草で両親とすき焼きを食べに行くくだりが泣かせどころなのにイギリスではどのように変換しているのでしょう? パブに行くとか?

それよりこの主役のアンドリュー・スコットがNetflix製作の「リプリー」でトムリプリーをやっているのを最近観ましたがこれが良かったです。
アランドロンの映画もあの時代のフランス映画らしくてずっとお気に入りでしたが、ちょっと評価が下がってしまいました。今時はドロンバージョンじゃなくてマットデイモン版と較べられているようです。
オカピー
2025年12月09日 21:16
モカさん、こんにちは。

>予告編だけ観ましたが、全編を観るのは躊躇しています。

映画としては悪くないのですが、僕はお勧めしません。

>原作が大好きな本なので複雑な心境です。オカピー先生は読まれましたか?
>親想いのオカピー先生なら号泣必至です。

実は、大林宣彦監督の映画化(再鑑賞)を明日アップの予定です。この映画版でも泣きました^^(泣いたのに^^は変ですが)
年末年始の分は予約してしまったので、来年早々に読んでみます。

>パブに行くとか?

小料理屋のような感じ。

>アンドリュー・スコットがNetflix製作の「リプリー」でトムリプリーを

そうですか。チャンスがあったら観てみましょう。

>アランドロンの映画もあの時代のフランス映画らしくてずっとお気に入りでしたが、ちょっと評価が下がってしまいました。

あの映画は、ドロンとニーノ・ロータの音楽とアンリ・ドカエの三つの組み合わせが超絶的に凄いので、僕の中ではそう簡単に超えられませんねえ。フィルムの味はなかなか替えがたい。