映画評「その女を殺せ」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1952年アメリカ映画 監督リチャード・フライシャー
ネタバレあり

数日前50年近い友人K君との電話中にこの作品の名前が出て来て、 彼が “なかなか面白い” と言っていた。 その何日か前にプライム・ビデオの無償枠に鑑賞すべき作品がないか当たっていた時にこの作品名に出くわしていた記憶があったので早速観てみた。
 後述するように、僅かにドラマツルギー上の欠点はあるが、確かに面白い。また、71分という短尺が忙しい身に大変有難い。日本では何故か未公開に終わった。
 先日の近作「フライト・リスク」同様証人保護プログラム絡みのお話である。

刑事チャールズ・マッグローが相棒ドン・ベドウと共に、贈賄リスト(対訳は“収賄リスト”となっているが、ギャング側の立場だから贈賄リストと言うべし。贈賄があるということは収賄もあるわけだから贈収賄リストでも良い)を持つギャング未亡人メアリー・ウィンザーを護送(本作の場合護衛に近い)する役目を負って、送還地に向おうとする矢先に、ベドウ刑事が射殺されてしまう。
 悲嘆に暮れながらも任務を果たさなければならないマッグロー刑事は、自分が暗殺者に顔を見られたことから細心の注意を払いながら別々に列車に乗り込む。彼らの個室に鞄を探す怪しい人物ピーター・ヴァーゴが現れる。その周辺には始終往来を邪魔する巨漢ポール・マクシーがいる。主人公が護衛の為に動くうちに少年ゴードン・ゲバートと母親らしきクイーニー・レナード(実は乳母)が絡んでくる。さらに品の良い金髪美人ジャクリーン・ホワイトとも交流が生まれる。そこへヴァーゴの仲間と思われる不気味な男デーヴィッド・ケンプが現れ、露骨に買収を申し込んでくるが、勿論真面目な官憲であるマッグローは拒否する。
 こうした人物相関図の中、未亡人の顔を知らない暗殺者側は、マッグローへの接近が多い為に実はゴードン君の実の母親であるジャクリーンを未亡人と勘違いする。彼が彼女を護ろうと必死になっている時に暗殺者二人がリストをゲットしようと彼の部屋に入り込み、メアリーに遭遇する。外には列車と並走する車がある。

さて、この顛末は・・・というお話で、この後のどんでん返しを話すべきか否か悩ましい。実は少し気になる部分がここに集中しているのだ。
 要は、女性の一人が実は官憲であり、殺されてしまう点。観客だけでなく主人公も知らない事実(ミス・リード)があったという種明かしは良いと思いつつ、後味は決して良くない。少なくとも事後に彼女への言及がなければならないと思う。
 もう一つは、この彼女が単独でいる時も官憲らしき様子を全く見せないこと。これはミス・リードどころか明らかな映像の嘘であるから全く良くない。こういう問題の指摘を避けるのは簡単で、彼女が一人でいる場面を作らなければ良いのである。

しかし、真面目過ぎて損をすることもあるリチャード・フライシャーの演出が、本作では良い方向に働き、全くコンパクトな面白い映画という評価に貢献している。
 画面では狭所での難しさを感じさせないコンパートメントでの撮影ぶりと、疾走する車が列車の窓に映り込むところに感嘆させられる。他にも窓の反射を上手く生かしたサスペンスもあってゴキゲンと言うべし。

女性刑事と主人公。刑事はつらいよ、というお話でした。

この記事へのコメント

モカ
2026年01月14日 23:00
こんにちは。

> 少なくとも事後に彼女への言及がなければならないと思う。

  フィルムノワールに詳しい方のサイトで紹介されていたので以前に観ました。
 そこの解説によるとハワードヒューズが出来上がった作品を気に入って、何かと口出しして何シーンかを撮り直させたりカットしたようで、ラストシーンも本来ならもう少し余韻のあるものだったらしいです。

>この彼女が単独でいる時も官憲らしき様子を全く見せないこと。

 これはどうでしょうか… 役柄に徹していた立派な婦警さんだったと思ってあげたりして?
 あるいはこれぐらい危険な任務に抜擢される人は、本物と紙一重なんじゃないですかね? 大阪府警の暴対の警官が組事務所に査察?に入る映像なんかを見るとどっちがどっちか分からんくらいですよ。

面白いからリメイク作が作られたようで、「カナディアンエクスプレス」というらしいですが私は多分未見です。
オカピー
2026年01月15日 18:02
モカさん、こんにちは。

>>少なくとも事後に彼女への言及がなければならないと思う。
>ラストシーンも本来ならもう少し余韻のあるものだったらしいです。

一般的な見解では、多分、当初のもののほうが良かったかもしれませんね。

>>この彼女が単独でいる時も官憲らしき様子を全く見せないこと。
>大阪府警の暴対の警官が組事務所に査察?に入る映像なんかを見るとどっちがどっちか分からんくらいですよ。

純粋に映画論の話。
真に一人でいるか、いないかという自覚。
例えば、公園で周囲100mに誰もいない状態であっても、サスペンス的には真に一人ではない(とプロであれば考える)から、演技をするでしょう。
本作のようなカメラもないロックされた個室である場合、数m先に人がいても自分は一人であると彼女が信じれば、演技をする必要がないということです。莫連女でないことを示すくらいなら見せない方が害がない。敢えて弁護するなら、この婦警はそう思わなかったんですね。

ドキュメンタリーのカメラは人を介しますが、ドラマのカメラは人を介していない(神の視点である)という観客との暗黙の約束があるので、一定の条件下では莫連女であり続ける必要はなく、それをやったら作者が観客を欺いていることになります。夢落ち以上に大きな問題を内包する叙述トリックです。

本作の場合は無視できるまでに短い描写なので敢えて指摘しなくても良かったわけですが、夢落ちを許さない人が多いのに対してこの類は沙汰されないことが多いので、映画論的に敢えて提議してみました。
 ヒッチコックの言う“本当らしさ”は、(常識的な人の)行動原理であり、少し敷衍すればこういうことをも指すと思われます。

>「カナディアンエクスプレス」というらしいですが私は多分未見です。

観たように思います。内容を憶えていないですが(笑)
昨年秋に、1万を優に超える、鑑賞データとイコールの価値があったIMDbへの投票データにアクセスできなくなったので、確認するとしたら昔は手書き、ある時期からワープロ、ある時期からはパソコンのデータを引っ張り出すという手段がありますが、さすがに調べる時間が勿体ない。
2026年01月24日 07:52
オカピ―さんの評で、時間が短くておもしろい、というので観ました。
よかったです! B級映画の小気味よさをかんじました。
狭い車内での格闘場面で、足がカメラにむかって蹴り上げるところとか
いいですね。
オカピー
2026年01月24日 21:00
nesskoさん、こんにちは。

>オカピ―さんの評で

役立って良かったです^^

>狭い車内での格闘場面で、足がカメラにむかって蹴り上げる

ありましたね。気が利いているショットと思います。
モカ
2026年01月24日 22:19
先日少し見直してみましたが脚本がよく練られていますね。
最初からちゃんと伏線が貼られていた事に気づきました。
ロスの2人の刑事が女を迎えに行く車中での会話が

どんな女だと思う?
どうせ定食屋のゴテゴテのソースのかかった皿みたいな女に決まってるさ。
いやそうとも限らんぞ。人は見かけと違う事がある。(適当な大意です。)

 ここで人は見かけによらないと言っているのは経験豊富な年嵩の刑事(人を見る目がある) でしたが、彼は早々に死んでしまいます。
 それも彼の葉巻の火が2度とも消えてしまうことで暗示されている様です。
2人の刑事と部屋を出てコートを羽織った途端にネックレスの糸が切れてチープ感満載のガラス玉が飛び散るのも彼女のフェイク感と末路を匂わせている様に感じました。

この脚本、実は最初はロスの刑事のうちの1人は収賄リストに名前が載っている人物という設定だったらしいです。でも当時は諸般の事情によりロス市警の腐敗には映画会社としては目を瞑らなければならなかったようで、脚本が変更されているので、何だか分かりにくい箇所が出来たんじゃないかと思います。
本物の女性を無防備に放置しているのも、リストは既にロスに送られているとしても変ですよね。
でも刑事のうちの1人が汚職警官だとしたら、ダミーの彼女の役割が見えて来ますよね。実際、マッグローに買収に応じたらどう?みたいな事をそそのかしていましたね。この辺は当初の脚本が残っている箇所かもしれませんね。

前半までしか観られなかったので中途半端な事しか書けませんでしたが、よく出来たB級映画だと思います。
  
オカピー
2026年01月25日 17:44
モカさん、こんにちは。

>伏線
>ここで人は見かけによらないと言っている

確かに伏線になりますね。

>ロスの刑事のうちの1人は収賄リストに名前が載っている人物という設定だったらしい
>でも当時は諸般の事情によりロス市警の腐敗には映画会社としては目を瞑らなければならなかったよう

簡単に言うとヘイズ・コードですよ。
ここに【公的人物や機関に対する態度】という項目があって、悪く取り上げることは難しかったんですね。個人的に悪を行う官憲がいることを見せても、必ずその所属する組織はまともであるといったところを見せる必要があったようです(昨年観た映画で典型的なのがありました)。

>刑事のうちの1人が汚職警官だとしたら、ダミーの彼女の役割が見えて来ますよね

意味がありますね。どんでん返し以上の意味が出て来る。

40年代から50年代の犯罪映画に突っ込みを入れたくなるケースが多いのは、脚本家の頭のせいではなく、ヘイズ・コードのせいと思って間違いないです。
その割には頑張って良い映画を大量に作っていました。
モカ
2026年01月26日 19:01
ヘイズコードの応用編というか、警察沙汰になる様なトラブルを起こす大物俳優もたまにいたみたいで、その辺はお互いに穏便に済ませましょう、となったみたいですね。互いに忖度し合う関係ですかね。
オカピー
2026年01月26日 22:46
モカさん、こんにちは。

>警察沙汰になる様なトラブルを起こす大物俳優もたまにいたみたい

スター・システムの時代は今どころではなかったでしょうね。
現在は、ニュースを見ると、官憲の方が悪に見えることが多い時代ですが。