映画評「名探偵ポワロ:スタイルズ荘の怪事件」

☆☆★(5点/10点満点中)
1990年イギリス映画 監督ロス・デヴェニッシュ
ネタバレあり

原作は一作年春先に再読したポワロもので、エルキュール・ポワロが初めて世にお目見えした記念碑的作品だ。観るべき映画のない時にこのTVシリーズを利用することを思いついたが、なるべく既読のものを観ることにしている。と言いつつこの間は未読の「エンドハウスの怪事件」を観てしまった。

本作は第3シリーズの第1作。

時代背景は第一次世界大戦中だろうか。負傷して帰還したヘイスティングズ大尉(ヒュー・フレイザー)が旧友のジョン・キャベンディッシュ(デーヴィッド・リントール)を訪問する。
 滞在中にその母親エミリーが毒殺される事件が起こる。大尉はベルギーで知り合い現在は英国に住む名探偵ポワロ(デーヴィッド・スーシェ)を紹介する。まだ知名度もなく、当然当地のジャップ主任警部(フィリップ・ジャクスン)の捜査が優先されるが、彼はエミリーの20歳も年下の再婚夫アルフレッド(マイケル・クローニン)を容疑者とする。死亡の原因とされるストリキニーネを買っていたのだ。
 しかし、用意周到のポワロが購入の際のサインがジョンのものであること、かつ、アルフレッドが店にいなかったアリバイを得ていた為に、ジャップは今度はジョンを容疑者とする。
 被害者の周囲には、ジョンの弟ロレンス、ジョンの妻メアリー(ビーティ・エドニー)、夫婦の友人が残した孤独な娘シンシア、アルフレッドの従妹イヴリン(ジョアナ・マッカラム)、老メイドのトーカスがいる。容疑者候補の筆頭はアルフレッドとジョンであるが、トーカス以外には多少なりとも財産等に絡む関わり合いがありそうで、無視もできない。

こんな設定の事件で、怪事件というほどではなく、殺人が一件しかない為甚だ地味である。しかし、逆にシンプル故に主要人物の紹介編としては好都合だったと思われる(原作の話)。
 画面を彩る観光要素もないが、限定的にしか出て来ないとは言え、町と郊外の時代色再現はなかなか良い。

犯人については勿論伏せるが、犯人が刑法の一事不再理を利用しようとしていた点に非常に新味がある。僕がこの仕組みを知ったのは映画「ダブル・ジョパディ―」(1999年)で、僅か25年前のこと。この映像版で直接的な言及がないのが勿体ないくらいで、このミステリーの最大の取柄であると僕は考える。薬毒の扱いも面白く、きっとこういうアイデアが後輩たちに受け継がれていくのだろう。

ポール・マッカートニーに Frozen Jap という曲がある。ジャップ刑事は冷たいよ、という歌で、というのは勿論嘘で、彼が日本で拘留されたのを揶揄したタイトルではないかとも言われるが、英国でジャップという言葉はアメリカと違って差別用語ではない、とは本人の弁。いずれにしても、日本では受けが良くないだろうという配慮で、「フローズン・ジャパニーズ」というタイトルになった。

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