映画評「海の沈黙」(2024年)

☆☆☆(6点/10点満点中)
2024年日本映画 監督・若松節朗
ネタバレあり

ジャン=ピエール・メルヴィルが映画化したヴェルコールの同名小説に関連するかとも予想して観始めたが、全く関係なかったですな。

名は知るものの僕が一度も見たことのない人気TVドラマ「北の国から」で知られる脚本家・倉本聰の脚本作。
 しかし、 悪口言う時はもう少し情報をしっかり調べてもらいたいもので、 “いい脚本家がいい監督とはかぎらない” というコメントに遭遇した。 倉本は原作・脚本だけで、監督は大衆映画で実績のある若松節朗ですよ。僕も間違えることは少なくないが、予断を以った結果余計に悪評価に繋がった可能性もあるので、許されるべきレベルではない。

お話に疑問を覚えさせる部分もあるが、ミステリー趣味があってそれほど退屈ではない。

世界的に有名が画家・田村修三(石坂浩二)が展示場で見た自作とされる絵画を贋作と見抜く。どの鑑定家よりこれは確かだろう。これに自ら買った市の関係者(萩原聖人)が絶望して自殺する。程なく全身に刺青を施したク小料理屋の女将・牡丹(清水美砂)が死体で発見される。

この二つが一人の男を浮かび上がらせるモーメントとなっていくわけだが、このミステリー構成要素のある序盤に疑問が多い。Allcinemaの某氏が言うように、存命中の画家の絵を本人の確認もなしに買うだろうか? 絶対ないとは言い切れないものの、市の財政に関わるレベルの金額だけに問い合わせくらいはするのが常識のような気がする。
 田村の関係者が、くだんの女将も事情があって訪れた或るバーでドガの贋作らしい作品を発見する。どうもそれは田村が若い時に大いなる不祥事の為に追放処分に追い込んだ天才画家・津山竜次(本木雅弘)の作らしい。津山は同時に彫り物師であり、かつて欧州で牡丹の体をカタログにして商売にしていたようなことも判る。

このように、ここまでミステリー趣味はあるが、関係者が解明していくというより映画の神が解明していく格好に見えて、折角のミステリー性が余り生かされていない。

美術界から干された天才津山は、田村の妻であり師匠の娘であった安奈(小泉今日子)に刺青を強要しようとして振られた経験がある。最近津山は女性の体という新しいパレットを例のバーに見出し取りかかろうとするものの、実際に体に刺青を掘る前に末期癌に倒れる。彼自身も美しすぎる体に刺青を入れることは無粋であると悟って死んでいく。

40分過ぎに突然主人公に浮上する津山は谷崎潤一郎「刺青」の主人公のようなフェティシズムは持たない。つまり、耽美ではなく、一種の美学論を展開する映画と思えば良いのではないかと思う。

全体として、前半はミステリー趣味のある人物探し、後半は哲学的メロドラマという風にお話が二分されているようになってしまったのは残念。創造性皆無の僕にはどうしたらこの二つの要素を滑らかにハイブリッド化できるかノー・アイデアであるが。

画面はそう悪くない。一部の人が仰るTVレベルにあらず。

石坂浩二が著名画家に配役されたのは、実際に画家としての才能もあるからだろう。しかし、1941年生まれの彼と、1965年生まれの本木雅弘が同期に近い役に配役されるのもどうかという気もする。

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