映画評「アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2024年カナダ=デンマーク=アイルランド=アメリカ合作映画 監督アリ・アッバシ
ネタバレあり

かなりの確率で今年アメリカで行われる中間選挙でトランプ側即ち共和党が負けると思う。その根拠はインフレ抑制の失敗である。本人はインフレ率を下げたと豪語しているが、殆ど嘘であり、ましてそれが関税政策に起因していることは共和党の支持者でもインテリは気付いているので彼らの一部は民主党に票を投じるだろう。
 日本の高市政権の人気も物凄いが、インフレがこのまま静まならないと支持率は一定程度下がる。ただ今年中は熱が冷めないので、相対的に高い水準を維持するだろう。彼女の平閣僚時代の終始ぶすっとしていた表情を知る人間には、恐らくアドヴァイザーから言われて生まれたのであろうソフトな印象を齎そうとするあの笑いは気持ち悪いが、それまで報道番組を碌に見て来なかった主婦層や若者たちはころりと騙されてしまうのだ。
 我が国のことはとりあえず良いとして、トランプは少なくとも戦後の米国大統領で性格的に最悪と思うが、その基本が作られた経緯を本作は描き出す。直球的な非難を繰り出していないとは言え、ネガティヴな要素をきちんと見せるこうした映画を作ることが許されるアメリカが僕はうらやましい。
 日本より法律大国であるはずの米国に出来ることが、忖度文化の日本はできない。これが実話映画が作られる本数が極めて限られる最大の理由である。9・11で引き起こされた原発事故を主題とした「Fukushima 50」は実名で描かれたなら、僕個人としてはもっと高く評価できた。あそこまで実際と同じ経緯を示しながら、電力会社や政治家の名前がフィクショナルであるだけで、映画は迫力を失うのだ。かようにネガティヴな内容を全く含まない小惑星探査機 “はやぶさ” の帰還をめぐって3本もの作品が作られたが、これにも実名は “はやぶさ” を除いて一切出て来なかった。関係者が嫌がったのがどうか知らないが、こんな土壌では欧米のように実話ものが実名で次々と作られるはずもない。

二十代後半のドナルド君(セバスチャン・スタン)が父親所有のアパート住民の家賃を集めるのにあくせくしていた頃、父親が政府から訴えられた苦境を知る大物弁護士ロイ・コーン(ジェレミー・ストロング)に声を掛けられ、彼の三つの教えを実行していき、実業の父親や歴代NY市長が反対するなかトランプ・タワーを完成させて自信を持ち、やがてその三つの教えを自分が生み出したものと豪語する人物像が出来上がる。

というのがが本流のお話で、その間にチェコ出身のモデル、イヴァナ(マリア・ヴァカローヴァ)を口説いて最初の妻とする経緯や、年齢と共に変わっていく肉体を気にする様子といった傍流も詳述して、なかなか面白く観られる。

直球的な非難・批判こそないが、コーンの弟子(アプレンティス)ぶりにかなりの皮肉が、観る人によって感じられる作り方になっていて、その辺りが抑圧的な国家イランに生まれた(デンマーク在住)アリ・アッバシ監督の面目躍如と言うべし。本当はもっと露骨に攻めたかったのかもしれないが。

トランプが選んだ共和党派の最高裁判事の一部が加わった為、トランプ自慢の関税が違憲となった。その関税の返還についてはその時点では言及しなかったが、貿易裁判所が返還しろと命じたようだ。アメリカにそれだけの資金が残っているだろうか? イラン攻撃も国民に反対が多いし、もしかしたら今年のうちにレームダック化するかもしれない。平和評議会なるものをトランプが作り、自らを拒否権を持つ永久議長としている。安全保障理事会に代わる立場を目指しているらしく、アメリカ大統領より上という考え方もできないわけではないので、民主党派が米国大統領になった場合、トランプ議長が自国と対立することもあり得る。多分この評議会は所期の目的(ガザの統治)に終わるとは思うが。

この記事へのコメント

2026年03月07日 07:47
これは、人間ドナルド・トランプを、欠点も含めてちゃんと描いていて、この映画を観ると反トランプの人も、トランプを悪魔化するのをやめるんじゃないかと思ったくらいです。

若き日のトランプの指南役になった弁護士ロイ・コーン、彼はゲイなのですが、それがごく自然に描かれていて、ゲイがいるのはあたりまえだよになったんだなあ、という感想を持ちました。

昔の映画だと、ゲイだということを匂わせる描き方、なにかはっきりとは出せないまま、でも裏にあるのはこれだよ、みたいなね、そういうのが多かったです。そして「じつはゲイなんだ」というのが、いちばん伝えたいことだったり。

時代は変わりましたね。
オカピー
2026年03月07日 18:46
nesskoさん、こんにちは。

>トランプを悪魔化するのをやめるんじゃないかと思ったくらいです。

ハメネイ師を殺す前だったらともかく、という感じです。
ベネズエラくらいのことなら、トランプでなくてもしかねない感じがないではないですが。

>若き日のトランプの指南役になった弁護士ロイ・コーン、彼はゲイなのですが、それがごく自然に描かれていて

直感的に解るように演じられていましたね。