映画評「35年目のラブレター」

☆☆☆(6点/10点満点中)
2025年日本映画 監督・塚本連平
ネタバレあり

何度も述べて来たように、日本では実話の映画化が非常に少ないが、ヒューマンものはそこそこ作られる。それでも主人公など重要な登場人物の名前が変えられるなどすることも少なくなく、その場合僕は実話ものとは言わないことにしている。その意味では本作は本当の実話もので、主人公の西畑保氏も製作において協力している。

小学校に碌に行くことも出来ずに成人した西畑保(青年期:重岡大毅、老年期:笑福亭鶴瓶)は、見合い結婚した妻・皎子(青年期:上白石萌音、老年期:原田知世)に、自分が字の読み書きができないことを結婚前どころか結婚半年後まで黙っていたことに忸怩たるものを覚えている。結婚半年後にそれを知った妻は文字を書くことに関しては彼の代わりをずっと務めて来ている。
 30年以上も務めた寿司屋を定年退職した彼は一念発起して夜間学校に通うことにする。妻への感謝を込めてラブレターを書きたいと思ったからである。挫折しかけて何年もかけて何とかそれを成し遂げると、娘たちの勧めもあって夫婦で旅行にしようと考え出す。
 しかるに、それが実現する前に彼女は脳の血流に関する病気にかかる。手術を経て彼女が健康を取り戻したと思い、もっと適切に感謝を告げるラブレターを書こうとするが、その前に妻は亡くなる。

家族を交えた夫婦の心の交流がじーんとしないではいられないお話である。反省できる人間は立派であると思う。彼は何も恥じることはない。SNSの時代になって顕著になったが、他人を非難することで自分を満足させる人間など足元に及ばない。卒業の時に総代として語る台詞も素敵ではないか。

しかし、素敵なお話ではあるものの、映画としてはさほど面白味があるとは思わない。画面の工夫や話の紡ぎ方が普通にすぎる。夜間学校や笑福亭鶴瓶で想起する山田洋次が作れば、ぐっと素晴らしい映画になったと思う(山田監督のカット割りは神業だ)。それでも、終盤彼の手紙を亡き妻や若い時の二人が時空を飛び越えて一緒に読むように見せる辺りは一定の工夫があり、ここの★一つ分を進呈する次第。

配役面では、上白石萌音が原田知世になるのはともかく、重岡大毅が年をとっても笑福亭鶴瓶にはなるまい。ご愛敬ということで。

薬師丸ひろ子や原田知世が今や祖母役! 少女時代から知っている身とすれば、時の流れの速さに驚くばかり。僕も終活を始め、去年から旧友やかつての同僚に逢ったり、電話を掛けまくったりしている。こういうのも一種の終活と思う。

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