映画評「盲山」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年中国=香港合作映画 監督リー・ヤン
ネタバレあり

昨年の真夏に観た「嗤う蟲」という映画に通ずるものがある。形としては防衛に必死になる余り村を挙げて村人が外来のカップルや個人を閉じ込めるところであり、集団心理の怖さにも共通するところがある。しかし、「嗤う蟲」はホラーであり、こちらは完全な社会派であるという違いがあり、村内にかの映画にはいない助けようとする者がいる。

親の借金や弟の学費捻出の為に農村での仕事に応募した大卒女性・白雪梅(ホアン・ルー)は、すぐに嫁不足の山村の為に騙されて拉致されたことを知る。
 ホラー映画ではないから必要以上の監禁はないが、夫とされる黄徳貴(ヤン・ユアン)の母(チャン・ユーリン)が監視の目を緩めず、脱出しても夫や他の村人によりあっさり連れ戻される。村の唯一の教師で “夫” の従弟・黄徳誠(ホー・ユンラー)が彼女を何とか助けようとするが、不貞の現場を押さえつけられ、彼はもはや役に立たない。助けを求める手紙を託した郵便配達夫は夫に届けていることが、彼女を慕う少年によって明らかになる。
 そして遂に警察が父親を連れて現れ、彼女を移送しようとするが、村人の狂気には彼らも逆らえず、二人を置いてすごすごと去っていく。そして、彼女は父親を痛めつける“夫”に向けて農具を振り下ろす。

考え方によってはホラーであるが、即実的に断裁するような見せ方が社会派として迫力満点。とりわけ、彼女が農具を振り下ろした後を全く描かず、断ち切るように終わるのが却って厳しい印象を醸成する。時折中国的な歌曲を背景にただの田園風景のように見せるショットの挿入もコントラストとして効果を発揮している。一々のショットに美しいものが多い。

ほぼ現在と言って良い時代にこんなことがあったとは慄然とする。日本でも人身売買は終戦直後くらいまではあったが、それは家族が娘を売ったのだから遥かにマシではある。少なくとも刑法上の犯罪性はなかった。
 1990年代に中国の辺鄙な場所で行われていたという人権蹂躙的な風習を再現した内容らしい。当然 “わが国にはこのようなことはありません” と思ったに違いない中国当局によって公開は禁じられたとの由。
 終盤官憲が本格的に絡んだところで、 “ああ、こうして中国当局へのごますりをするのだな” と思ったら、そうしなかった。リー・ヤンという監督は骨がありますな。

砂の女」を娯楽的にしたような感じもあります。

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