映画評「ワン・バトル・アフター・アナザー」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2025年アメリカ映画 監督ポール・トーマス・アンダースン
ネタバレあり

ポール・トーマス・アンダースンはご贔屓とまでは行かないが、とりわけ近年は比較的相性の良い監督となっている。本作は、現在の二分するアメリカを念頭に作られたに違いない一方で、起伏に富み娯楽性の高い作品である。かなり面白く観られた。
 トーマス・ピンチョンの有名な小説「ヴァインランド」が着想源になったらしい。お話は恐らく2005年くらいから始まる。

左翼活動家レオナルド・ディカプリオと同棲中の女性闘志テヤーナ・テイラーが妊娠する。しかし、その父親は彼らを追う、差別主義的でねじれた精神性を持つ白人官憲ショーン・ペンである可能性がある。出産後に捕えられた彼女が一部同志の名前を明かした為にディカプリオは死んだ親子の名前を得て赤子の娘を連れて出奔する。
 16年後ディカプリオがすっかり平和な暮らしに埋没している頃、彼の元仲間が逮捕された結果、彼と娘チェース・インフィニティに官憲の魔の手が迫って来る。官憲が学校のパーティー現場に乗り込んだ頃危険に気付いた彼は逃走し、空手か何かの“先生”ベニチオ・デル・トロに助けを求め、捕縛の手を逃れ続ける。正確には解らないが、“先生”は警察病院にもコネがあるようで、女医や看護婦の“協力”で逃れ、娘が逃げ込んだことを突き止めた修道院を目指す。
 彼の前にそこに乗り込んだペンが自分の娘であると確信したものの、念願である白人至上主義の団体に入会するのに邪魔になる為息のかかった混血男性に処理を託す。が、ここで色々とややこしいことが起こり、チェースは処分の現場から抜け出して車で逃走、黒人女性と関係を持ったことを知った団体がペンを殺しにかかり、ディカプリオがそんな彼らを追うのである。

この終幕の褶曲する幹線道路を使ったアクションに頼らないカー・チェースが映画的に頗る美しい。僕はこのシークエンスに完全に参ってしまった。この陶酔させられる車の移動は大袈裟に言えばアルフレッド・ヒッチコック監督「めまい」に次ぐような気さえする。

不完全な人間ばかり出て来るお話で、とりわけ男性陣はかなり情けなく時にユーモラス過ぎるくらいである。それに比べるとヒロインもヒロインの母も凛としていて格好良い。ただ、テヤーナ・テイラー演ずる母は娘の存在が活動に邪魔と思ったり、仲間を裏切ったり、出奔したりするなど人間的に、というより日本人の潔癖症気質には足りないものあるという印象となるだろう。
 “父” にも手紙で現在の心境を書いてよこした母にも強い愛情を覚える娘こそ真の革命家になるのではないか。

アメリカ人もトランプ大統領の能力に気付きつつあり、支持離れが激しいと報道されている。次はかなりの確率で民主党政権になると思うが、共和党政権でも現在のトランプ政権ほどデタラメはやらないだろう。

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