映画評「ターン」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2001年日本映画 監督・平山秀幸
ネタバレあり

四半世紀前に観て大いに気に入ったファンタジーである。
 全く流行せずに終わったD-VHSなるものに保存版のつもりで録ってあるがテープなのでアクセシビリティが悪く、今回24年ぶりのWOWOW再放映を録画してブルーレイに保存する。これからはもっと簡単に観られる。

監督は僕が映画ファンになってから登場した監督の中で信頼度がトップ3に入る平山秀幸。やはり全うな映画観を持っていて、Allcinemaで批判している輩には理解できない上品な作品に仕上げている。

メゾチントと言う銅版画を専門とする美術家の妙齢美人・牧瀬里穂が版画教室へ車で向かう途中ダンプと衝突する。次に目覚めた時は病院ではなく自宅の揺り椅子に腰掛けている。時間は事故を起こした午後2:15。そのまま家から出ると時間は昨日のまま、しかし自分以外の動物が一切いないことに気付く。
 彼女は二度目覚める。通常の人のように朝起きるが、これは2時15分を正規の目覚め時間とする彼女にとっては本当の目覚めではない。自由に街を闊歩する彼女は物を手に入れる時には必ずお金を払う。円環する時の世界から戻ることを願いとする彼女の意志がそうさせる。

勘の良い人は、ヒロインより早く、これが病院で昏睡から一向に目覚めない彼女の意識が見せている現象と気付くはずだが、そう割り切って見るとファンタジーとしては味気なくなるので、それを現実のように見ていくのがよろし。

そんな時初めて自分以外の生物に接する事件が起きる。現実世界の住人である装丁家の若者・中村勘太郎が彼女の作品を装丁に使ってもいいかと電話で確認してきたのである。彼だけが彼女の声を聞くことが出来る。二人が自分の作品に “時” を投じているという共通項がその “時” によって結び付けられたのであろう。電話を切らないことで彼女は自分以外の唯一の動物生命と接触を保とうとして、その結果、現実世界の彼女は目覚めに近づいていく。
 そんな折赤いスポーツカーを飛ばす若者・北村一輝と遭遇するが、勘太郎君の心配通り、彼は犯罪者であり、彼女に魔の手を伸ばして来る。が、現実世界の北村が亡くなった為危く難を逃れる。

それを考えると、ファンタジーのドラマツルギー的に彼は “死神” だったと考えると都合が良い。
 ヒロインと彼の関係に関して、(2:20を目覚めの時間とする)彼が(2:15を目覚めの時間とする)彼女を横で待つのは時間軸的に変だという疑問を呈する御仁がいらっしゃるが、微妙だ。カレンダー上の時間において目覚めの時間を境に彼らの時間軸は二つあるとも考えられるので、実は彼の方が23時間55分もの間彼女の目覚めを待っているという考え方が成り立たないでもない。5分間の為にそれだけ待っているわけだからいじらしいと言いたくなるが、5分前まで好き勝手に遊んでいれば良いのだから、そんな同情は無用。

好青年勘太郎君の努力と真摯な思いが通じて彼女は、倍賞美津子の母親と彼の前で遂に目覚め、“ただいま”と言う。

この幕切れのさりげない扱いが非常に良い。さりげない故に、感動せずに観ることはできない。
 韓国映画や中国映画ならもっと感動的に作れただろうという意見は、余韻の価値を知らない野暮と言うべし。さりげなさを以って観客の想像力に訴え感動を生み出すを以って上等とする古くからの演劇・映画の批評ポイントとは全く逆で、とりわけ感情に訴えすぎる韓国スタイルは全く褒められないのである。大概の場合その大袈裟ぶりに鼻白む。

8番出口」の幕切れについても “主人公が (男に罵詈雑言を投げつけられた) 母子を助けるところまで観たかった” と、 余韻を生み出す作劇術を知らない御仁がいらした。高校の時、現国の教師から、必要以上の事柄を描かずに読み手を感動させる作文を書けという宿題を出されたことがある。描かないことが余韻を生み出し、その余白が読み手の心情に訴えることを理解させるのが目的だった。短歌や俳句に通じるものでもあるだろう。

この記事へのコメント

モカ
2026年05月22日 15:24
こんにちは。

これは北村薫の90年代に書かれた時空物3部作「スキップ」「ターン」「リセット」の中の同名小説の映画化版ですね。
この映画は未見ですが、3部作の中の「スキップ」は読んだ記憶があります。
まぁまぁ面白かったかな? でも何となく物足りない感があったのでこの作者の作品のリピートはなかったですね。 今読むとどうでしょうね。
もう私にはそこまでできる余裕がないので、もしよろしければチャレンジして感想など教えて下さい。
オカピー
2026年05月22日 22:05
モカさん、こんにちは。

>北村薫の90年代に書かれた時空物3部作「スキップ」「ターン」「リセット」の中の同名小説の映画化版ですね。

そうですね。

>何となく物足りない感があった

解るような気もします。
今回、初回ほど感動できなかった感があるのは、どこかに隙間か甘さがあるのかもしれません。

>もしよろしければチャレンジして感想など教えて下さい。

出来ると思いますよ。
どちらかと言えば、好きなタイプの作品群かもしれません。