映画評「旅立ち~足寄より~」

☆☆★(5点/10点満点中)
2008年日本映画 監督・今井和久
ネタバレあり

WOWOWに観るものが全くなく、かと言ってサイレント映画が続いても何なので、探しているうちに本作を見つけた。映画としては全く期待できなかったものの、僕が大学生の時にTVCMで流れた「季節の中で」が強い印象を残した松山千春の伝記なので、音楽ファンとして観てみた。

原作は松山が23歳の時に発表した自叙伝である。彼に扮するのは大東俊介。

1975年、19歳の時に出場した【全国フォーク音楽祭北海道大会】で落選するも、審査員の一人札幌テレビ・ラジオ局の竹田健二ディレクター(萩原聖人)はその可能性を大いに感じ、曲を作っておけと言って、帰す。
 やがて、札幌から遠く離れた北海道中東部の足寄町から離れる気がない松山に対し、わざわざ会いに出かけて再会(最初は不在)、松山もその誠意にほだされて信じるようになり、彼が進める自局ラジオ番組の一コーナーを毎回2曲披露することを条件に任せることにする。

竹田の局上層部との葛藤も本作の主題の一つ。彼の松山(の才能)への思いがなければ松山は埋もれた可能性が高い。その意味では二人の信じ合う気持ちの交流を描くお話である。 竹田の “信じる” と松山の “信じる” は多少意味が違うが。前者はbelieve、後者はtrustといったところだ。

その勘は大いに当たり、大会で歌った「旅立ち」でシングルを出すと大ヒット、やがてフリーで活動する松山に対し他から声がかかるようになる。しかし、函館でのコンサートの後 “今後” を話し合う予定だった竹田は急性の心臓疾患で急死する。
 ここで映画は事実と少し変える。実際は竹田夫人が彼にコンサートに向うように告げたらしいのだが、映画は死んだ竹田の声に押される形で自ら決意する。こういうのは極めて映画的な変更で良いと思う。

松山がその死に涙を抑えきれず「旅立ち」をまともに歌えないという場面は少々くどすぎる。こういうのはもう少しあっさりと処理して余韻で観客を感動させる方が上品だ。

通奏低音は勿論 “旅立ち” で、竹田氏が生前述べていたように彼からも旅立たなければならない。それが彼の死により強制的に生まれたわけである。この辺はドラマらしい味付けとなっている。

画面は極めてTV的で腰がなく、全くつまらない。足寄周辺の景色に壮観であったり壮大さを感じる部分があるにはあるが、必ずしも映画的な美しさとは言い難い。

手元にレンタル店から借りてコピーした「ベスト35」なる2枚組編集盤CDがある。Wikipedia を見ると2012年発売とある。僕はこれをチェイサーに乗って群馬から埼玉への長距離通勤中に聞いていた記憶がある。長距離通勤をやっていたのは1997~2001年に限られるから、計算が合わない。実際に聞いていたのは90分のカセットテープだったようだ。CDが大量にある現在の図書館に通い始めたのはちょうど2012年。するとCDを借りたのは図書館からということになる。人の記憶はまるで当てにならない。

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