映画評「冬冬の夏休み」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1985年台湾映画 監督ホウ・シャオシェン
ネタバレあり

この作品は30年以上前に、恐らくWOWOWで観た。ホウ・シャオシェンは1980年代末に日本で信頼を得、“新作”に遅れる形で紹介に至った作品である。

時代背景は映画製作当時の現在であるが、エピソード群は原作及び共同脚本チュー・ティエンウェンが経験したことに立脚している模様。チューは僕より少し年上の1956年生まれだから、60年代後半くらいだろうか。

昨日の映画でも使われた「仰げば尊し」が卒業式のシーンで使われる。この映画の第一シーンであり、主人公の少年冬冬=トントン(ワン・チークアン)は卒業生に当たる。
 母親が病弱で入院、父親は彼女の看病がある為、夏休みを過ごしに母方の祖父(グー・ジュン)の家に行く。年の離れた妹・婷婷=ティンティン(リー・シュジェン)を率いての列車旅行には、母親の弟君(チャン・ボージョン)とそのGFがアテンドするが、若者は彼女を追って途中で降りてしまう。不肖の息子らしく、冬冬が心配して彼を待ち一緒に家に入る。この合間に地元の少年たちとラジコン自動車を亀に交換して一気に親しくなる。
 祖父は地元の民に信頼される医師であり、結婚前に妊娠させてしまった息子を追い出し、結婚式にも出ない。同じ頃別の不良により妊娠した知的障碍の女性ハンズ(ヤン・リーイン)が木から落ちて流産した時にも祖父は手当てをする。
 周囲から馬鹿にされのけ者になっているこの女性は、しかし、ティンティンが線路で転んだところを助けて親しくなる。幼女としてはやはり周囲にのけ者にされることが多い自分と共通するものを感じたのであろうが、恐らくその真情をハンズは理解することはないのだろう。都会に戻る時に彼女の呼びかけに全く反応しないバンズを見ると少し切ないものがある。

冬冬は母親が麻酔から目覚めないことを心配、寝ずに電話連絡を待つつもりがいつの間にが眠り、祖父母が起こしてくれなかったことに不満を覚えるが、何と言っても母親が無事だったことは喜ばしい。それを具体的に示すのが、帰りの旅は父親の車によることだ。母親が元気になりそうなので安心して父親がマイカーで来たということが解るわけで、このそこはかとなさが実に良い。

冬冬は新たに出来た田舎の友人たちに別れを告げる。時代と背景こそ大いに違うが、気分は「少年時代」(1990年)である。幼女が死生の神秘に触れるところは「禁じられた遊び」(1952年)みたい。そして、思春期少年と幼女が入院中で母親のいない田舎を過ごすことになるのは「となりのトトロ」(1988年)の如し。敢えて言えばハンズがトトロだろうか。
 田舎らしいエピソードの数々で、エピソード集という性格もあって描写はスケッチに徹して瑞々しい。妹が年の離れた兄を慕ってつきまとう辺りの描写が誠に微笑ましく、本作におけるこの妹の功績は絶大と言うべし。

末っ子の僕は弟が欲しかった。幼女を見るうちそんな昔の気持ちを思い出しました。

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