映画評「恋恋風塵」

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1987年台湾映画 監督ホウ・シャオシェン
ネタバレあり

ホウ・シャオシェンの作品はスケッチの積み重ねであって、それが積み重なることで緩やかに物語は回転するが、一つの要素が次々と凄い勢いで物語を回転させる映画と違って刺激的ではないから、時に眠気を誘われる。それは少なからぬ彼のファンでさえも経験するのではないかと思う。

物語の始まりは1960年代後半らしい。鉱山町の少年ワン・ジーウェンは土地の環境のせいもあって高校進学を諦め、台北の家族経営の小さな印刷会社で働くことにする。1年後幼馴染の少女シン・シューフェンも台北に出てお針子の仕事をし始めたので、ワンは彼女に色々と手助けをする。
 数年後どちらも憎からぬ思いを抱く関係になっているが、召集があった為ワンは2年間の兵役に就かねばならない。当初は物凄い勢いの手紙を受信するが、ある時こちらからの手紙が届かないようになる。彼女が匂わせていたように、郵便配達夫と結婚してしまったのである。

タイトルそのものの内容で、1952年生まれの脚本主筆ウー・ニエンジェンの経験を元に、ホウ監督常連のシュー・ティエンウェンが協力して書き上げた。今回監督は脚本に参加していないものの、勿論撮影中に細かな意見は出したはずである。本作の主人公は、監督の経験に基づいた「童年往事」の主人公と同じようなタイプの失恋をしているのだから、意見があったことだろう。

駅と鉄道が主人公と言いたくなるくらいの内容で何回も出て来る。それは二人にとって生活の為に必要欠くべからざる移動を端的に示す。
 前半は小津安二郎のような空ショットが哀愁のある音楽を背景に何度か出て来るが、空ショットは残る一方で何故か後半は一切この手の音楽が消える。

全体としてのどかで微笑ましい場面が連なり、切ない失恋を主題にしながらも、悲劇ではないので気分よろしく観終えることができるのが良い。

日本との関係を感じるところは、主人公の父親の名前が武と書いて “たけ” と読ませる辺り。この父親は日本の教育を受けていたのに、進学しようかと言いう時に国民党の教育に変わった為割を食ったのだと嘆く。興味深いお話と言うべし。

取引先の台湾ディーラーの父親が流暢に日本語を話したのを憶えている。羽田空港に彼を迎えに行った時に、同じ飛行機から降りて来た王貞治(ソフトバンクの監督就任直前か)を見た。記者が何人もいましたな。後のニュースで台湾へ行っていたことを知った。

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