映画評「旅と日々」

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2025年日本映画 監督・三宅唱
ネタバレあり

この作品について書くには右脳的な文才が必要とされる。僕のような左脳派的な文章しか書けない人間には少々厄介な映画である。
 三宅唱監督の作品が必ずしも書きにくいというわけではないものの、原作者のつげ義春のエレメントがどうもそういう方向に持っていったようだ。
 と言っても、コミックをそのまま映画に移すというタイプでもなく、二本の作品を繋ぐ紐帯となる存在が韓国人の女性脚本家シム・ウンジョンである。恐らく原作には出て来ない人物であろう。

その一つ「海辺の叙景」に当たる部分が、彼女が脚本を書いたことになっている若い男女が海辺で会話をし戯れるだけの劇中劇(映画)である。
 この映画をティーチインの場で観ていた先生・佐野四郎が倒れて急死する。ウンジョンや監督が故人の家を訪れ、双子の弟(佐野二役)から大量にあるカメラのコレクションから一台を貰う。
 スランプの彼女はカメラを持って雪国に旅に出、予約がなくて泊まれずに困った末に、山頂にある初老の男・堤真一が一人で営む宿にやっかいになる。妙な会話のやり取りが元になって、夜になってから二人して錦鯉を取りに行く。主人は一匹だけなら問題ないと他人の家から奪うが、彼女がカメラを無くしてしまう。翌日そのカメラの為に侵入がばれてしまうが、地元の庶民的な警察は犯罪立証に注力せず、熱を出した堤を病院に連れて行く救急車の役目を果たす。彼女は置手紙を残して雪の中を去っていく。

前半の神妙な印象とは真逆に、第3部と言うべき雪国の場面はそこはかとないユーモアに横溢し、寒そうなのに暖かいムードが醸成される。第一部の夏なのにうすら寒そうな印象とは真逆で、正に画面を楽しむ作品と思う。

原作とは関係なく、行き詰ったヒロインの心象風景を綴る内容で、旅とは言葉と距離を置く為にあるのではないかといった境地に辿り着く彼女がすがすがしい。彼女は随時旅を糧に良い作品を書いていくだろうと予想したくなる。

ミーハー向けでなく、物凄く面白いお話というわけでもないが、後味の良さは高く評価したい。

雪国でのとぼけた騒動を観ると、コーエン兄弟の「ファーゴ」をすぐ想起する。昭和半ばに生を受けた世代にはそういう方が多いのではないだろうか。

この記事へのコメント